大人の事情ってやつですかそうですか
「本来、この世界では他種族の領域には興味すら抱かず、交易すらないと聞く。だが、最近どうにも物騒な話ばかりだ……この世界に来たばかりの俺ですら『何かがおかしい』としか感じない」
王の目がすぅと細められ。恐らくは同じ問題を抱えているのだろう。隣でつまらなさそうに俺の服の裾にじゃれついているメイヴは置いといて。
「恐れながら申し上げます、私は天使此方の世界を作りしものと同じ種族です……一体いつからこんな事になっているのでしょうか?我らが天界には、堕ちた天使と転移者の末路しか情報が無く」
「そちが天使であったか、タカツグ殿が転移者とはうすうす感じては居たが」
「はい……で、一人半魔物化している転移者と出会いました」
「ミルフィ!?」
「隠し通せるものでは無いでしょう、寧ろ事情を話し違いの情報を交換した方が今後の為にもなるかと」
「……そりゃそうだけど、せめて事前に言ってくれても」
「タカツグ様はお忙しいみたいでしたし」
「ほほぅ、モテる男はつらいのう、タカツグ殿」
ちゃっかり、王様も揶揄うのに参加している。
「茶化すの止めて貰えないかなぁ」
「元来女性は強い遺伝子を求めるものだぞ?タカツグ……妾はおぬしの遺伝子が欲しい」
「………エロトカゲはともかく、この状態がまともだとは思えません。つきましては国王殿下、貴方様のお力添え頂けませんか?」
「ミルフィ?」
いきなり何言いだすんだこの子。
「何をするにしても、手順と言うのがあります。タカツグ様は確かにこの世界に置いて唯一無二の能力の持ち主、ですが他種族の領域ではそうは行きません。もう少しだけ自由に動く権利があった方が楽と言う事もあります」
「ドラゴン族は妾が抑えておく、好きに振る舞うがよい……ああ、ただ他の雌を番にするのだけは嫌じゃな」
「トカゲは黙ってタカツグ様の力となりなさい」
「羽虫程度が多少ランクが上がった程度でえらそうに」
もう逃げ出していい?いいよね、と国王を見上げるがあの表情はしっかりと面白がっているとしか思えない。
「あい、わかった……人界は任せておけ、儂の権限でお主らの動きやすいようにしておこう。あと精霊界には少々伝手がある、紹介状を書いておく」
「そう言えば精霊も居たんだっけ」
まだ見た事も無いけど。
「エルフもドワーフもおるぞ、精霊界と交流があるので、どちらかとコンタクトが取れればもう片方も容易に行ける筈じゃ……だが、少々気難しくてなぁ」
「エルフは既に一人知り合いが居る、なのでそちらは大丈夫な筈……だ」
もしレティが難しければ、自分でどうにかする。そう心に決めた。一歩間違えれば俺がああなっていた、他人事と軽んじるには違う。
ミルフィは誤解しているが、これは仲間意識だ。
「ならば、一筆書こう……人界の中も自由に動ける権利もやろう…なんなら、我が騎士を貸し出しても構わん、この世界はどこか狂って居る…わしの知っている以前の世界と違う。やはり魔族とやらの仕業か?」
「それを調べたい、あと何故こちらに来るなり魔族になる者とそうで無い者がいるのかも知りたいんだ」
「成程」
しばらくの会談の後、城を後にしメイヴにはドラゴンの国に戻ってこの件を伝えてもらえるように頼み、飛び去る姿を見送ってから
「ミルフィ、言っておくが澪にはそう言う感情は持っていない」
「……別に何も言ってませんけど」
「時々出てるんだよ、お前」
「タカツグ様、私も分かりません……貴方が他の女性と親し気にしていると、こう心の奥がもやもやとするんです」
俺だって恋愛関係には疎い。疎いんだが。
「俺は俺が嫌いだ」
「タカツグ様!?」
「そんな俺が誰かを好きになると思うか?」
黙り込んでしまったミルフィには悪いが、今この状態で恋愛とか考えるとか無い。とか言っても二次元の恋人はいましたが何か?
「だがな、ミルフィお前は俺にとって特別なんだよ」
「!?」
「恋愛じゃない、だけど隣に居て欲しい…特別なんだよお前は」
「……胸のもやもやが晴れた気がします。特別…凄く嬉しいです」
ふわりと笑うミルフィの笑顔に、らしくもなくどきっとした。
「一旦町に戻ろう、レィティと澪にもこの事を伝えないとな」
「あのトカゲはどうします?」
ミフルィのメイヴへの態度はいずれどうにかしないと、とは考えている物。女性同士の諍いには口を出さない方がいいとも聞く。この辺りはレティに丸投げするか。
「では馬車を探さないとな」
「任せてください、私が」
「妾の背に乗れば良いだろう」
「!?!」
「もう戻って来たのか?」
「タカツグにまとわりつく羽虫が気になってな」
メイヴが煽ってくるが先程の会話があったせいか、ミルフィには余裕があるらしく
「運賃もタダですし、トカゲの世話になるのは癪ですがよいかもしれませんね」
「……ほう、何ぞあったのか?羽虫の様子が違って見える……と尋ねてもどうせ答えはせぬだろうから、まぁよい……タカツグ、すぐに出るか?妾であればどこであろうと行けるぞ…例え魔界であってもな」
「そこはまだいい……それぞれがどうなっているのか、何を感じているのかが知りたいからな…まずは知り合いのエルフの所に戻りたい」
「あい分かった」
流石に、城下町では迷惑だろうと外に出て、ドレイクの姿に戻ってもらった。
「しっかと掴まっておれ、吹き飛んでも妾には分からぬでな拾いにもいけぬ」
「……安全運転で頼むよ」
当てになるのかならないのか、元の姿に戻ったメイヴの少しくぐもった言葉に応え、よじ登る。
「タカツグも、羽虫もしっかと乗り込んでおるか?では行くぞ」
いきなりの浮遊感。風を感じる?とんでもない自分が風になったような気分だった。上空の空気は冷たく、雲の中など服が濡れてとんでもない事になる。
それでも、行きよりも数倍も早く戻れたのも事実。
「レティ」
町外れにある、エルフの家を訪ねノックをしたが様子が変だ。ドアを開けるとそこには澪を背にかばうようにして立っているレティの姿。そして相対するのは町の有力者とその護衛だろうか?
「これはこれは黒の魔導士様ではございませぬか」
「なにその厨二的な呼び名、じゃなくて何やってんだよ、あんたら」
手にした剣をレティ達に向け、威嚇するように距離を詰めている。
「知れた事、魔物は退治しなくてはなりません」
「澪は人間だ、転移者なんだよ」
「確かにそうだったのでしょう、だが今の姿を見たら転移者と感じる者はいませんよ」
「僕は何もしていないっ」
「魔物と言うだけで貴女は生きていてはいけないのです、恨むならご自分の運命を」
「詳しい話は後だ、俺は王都の王から自由に動ける権利を貰った。澪の件も知っている、だからその剣を仕舞え、今すぐにだ」
「ですが、魔物ですぞ」
「彼女はまだ心まで魔物化していない、普通の人間と何ら変わりがない……寧ろ賢者の能力者だ」
「……黒の魔導士さまがそう仰るのなら」
チンと刃を鞘に納める音がする。
「丁度いい、あんたらも話を聞いてくれ……今この世界で起こっている異変の事を」
俺は、そう切り出した。




