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世界会議に乗り込んでみた

 そうそう頻繁に人類の脅威とやらが発生するのか知らないが、週に一度開催されてる世界会議と言う奴に乗り込んでみた。

 制約を外したザキと母さんが、物理的に道を拓いてくれる。

 相手を殺しはしないけど、本気で制圧するために力を揮う二人は普通の人間と比べて圧倒的に強かった。

 ただの騎士と勇者の間には、赤子と訓練した大人ほどの差がある。

 騒ぎを聞いて駆けつけた護衛達も全員難なくなぎ倒し、あっと言う間に偉そうな男達が高そうなテーブルを囲んで座る部屋に着いた。


「勇者だと?! 何故罪人が逆らう?!」


 髭の男その1が叫ぶ。


「非人道的な制約なら外した」


 私が言うと、ザキと母さんの隙間からこちらを窺い、先ずは放心した。

 それはそうだろう。耐性無しで私と執事の人外な美貌を見たら脳みそ漂白されるわ。

 かと言って、このままでは話が進まないから、言葉を続ける。


「勇者の製造そのものが非人道の極みだがな」


 私の声にウットリしていた男達が、声が表した内容に気付くと、やっと我に返った。


「何者だ。勇者の秘密を知るなら生かしておけん」


 髭の男その2が言う。

 手っ取り早く人間には敵わない存在だと分からせるか。

 私はテーブルの上の大きな花瓶に生けられた花から、蔓を伸ばして偉そうな男達を全員縛り上げて天井付近から吊り下げた。


「人間が私達を殺せると思うか?」


 プラプラ揺れる男達の顔は見る見る青褪めて行く。


「貴様、魔物か?!」


 ハゲその1が叫んだ。

 敢えてそれには答えず、私は要求する。


「魔界から逃げたロクな力も無い雑魚犯罪者をバルベリア研究所が匿い独自に魔女狩りを行おうとしている。犯罪者を捕らえる協力は要請しない。私達が何をやっても邪魔をするな」


 魔界とかバルベリア研究所とか魔女狩りとか、その辺の単語で一々表情筋をヒクつかせる男達。

 権力者なら、もう少し平常心を鍛えた方がいいぞ。


「し、しかし、人間界に災いを齎すのを看過することは出来ない」


 髭の男その3が、声も体も震わせながらだけど言った。


「我々は人間界にも人間にも興味が無い」

「しかし、豊かな土地や財産を狙って攻めて来ると」

「何処の誰がそんな有り得ない嘘を吐いた?」


 魔界の土地は広い。私の前の大地霊はアレだけど、地霊達が真面目に働いているから土地は豊かで飢えとは無縁だ。

 仕事を持たない成体は居ないから、生活に困窮する者も居ない。

 法はきちんと整備されているし、格上の魔族には絶対に敵わないから、上の立場の魔族達さえしっかりしていれば問題は殆ど起きない。

 と言うか、パートナー絡み以外で問題が起きることは、まず無い。

 飢えと貧困と犯罪に満ち溢れた人間界を侵略とか、罰ゲームでしか無いんだが。


「何の役にも立たない脆弱な人間が蔓延る人間界など、犯罪者を捕らえる目的でも無ければ足を踏み入れたくも無い」


 魔界の豊かさを教えてしまうと、人間が魔界を目指して来そうだから、わざと横柄に言ってみる。


「だ、だが、土地やカネや奴隷が」

「人間界のモノに魔族は興味が無い」


 キッパリ言い切ってやると髭達とハゲ達は押し黙った。


「では、その犯罪者とやらは何故人間界に?」


 よし! 本題来た!

 私は内心の喜びが漏れないように無表情を装う。


「人間達が勇者製造などと言う外道な人体実験を行っていることを聞き及んだ犯罪者が、猟奇的なことをする仲間を求めたのだ」


 魔界の犯罪者に仲間呼ばわりされている。その認識を持たせてやると、自分達は正義だと思い込んでいる奴等の眉間に深い皺が刻まれた。


「その犯罪者は、魔界ではどんな罪を?」

「性犯罪を繰り返し、直近二十年ばかりは同族の手足をもいで頭から喰らい糧としていた」


 嘘はついていない。

 男達の想像する光景とは違うだろうけど。


「そんな、凶悪な魔物が人間界に」

「魔物だから凶悪なのではない。アレは魔界の歴史でも類を見ない異常犯罪者だ。だから放逐で済ませず捕らえに来た。人間界に迷惑はかけられない」


 無表情のまま、最後だけ少し優しい声音にして惹きつける。

 男達が私の掌で踊り始める感覚を掴んだ。


「人間界を、救ってくださるので?」

「私は異常犯罪者を魔界に引き取るだけだ。人間達がこのまま外道な真似を続けるならば、次は私では捕らえられないような力を持つ犯罪者が人間界に仲間を求め、世界を滅ぼすかもしれない」


 ふと、憂うように瞳を伏せる。

 肌も露わな絶世の美女の憂い顔は、男達をええカッコしぃにする。

 母さんが面白そうな目で、ザキが魂の抜けたような目で私を見ている。

 執事は後ろにいるので表情が見えない。


「あの、我等人間は、これからどうしたら?」

「意味の無い勇者製造は廃止してほしい。本当に、意味が無いから。邪なモノを呼ぶだけだから」


 雫が溢れないよう調整して目の表面を潤わせてみた。


「意味が無い、ですか」

「魔界にも法はある。人間界に迷惑をかけるのは犯罪だ。だから、こういう緊急時でもなければ干渉しない。わざわざ同族で人体実験などして魔物に備える必要なんか無い。同族同士でこんな残酷なことをするなんて。人間は、非道い」


 ここで溜めておいた目の表面の水分を一粒だけポロリする。

 人間のオス達が非常に動揺しているようだ。プラプラしながら小声で話し合っている。


「勇者製造は廃止するか?」

「必要無いのであれば、あんな残酷なことは廃止で良いのでは?」

「人間は非道いと言われてしまったぞ」

「あんな可憐な美女が人間界に迷惑はかけられないと」

「勇者製造で人間の印象は最悪なのではないか?」

「それは辛い。何としても挽回しなくては!」

「では勇者製造は廃止。犯罪者を捕らえる邪魔は一切しない、で良いな?」


 プラプラと頷き合い、ハゲた髭の男が代表で言った。


「勇者製造及び魔女狩りの廃止を約束しよう。我等の身分に懸けて。逆に災いを呼び寄せてしまう愚行だと、今後代々伝えて行こう。貴女方が犯罪者を捕らえるために何をしようと一切の邪魔はしない」


 このくらい言質取ればいいかな。

 私はそっと全員を床に下ろして蔓を解き、トドメを刺すことにする。


「この時代の人間界の為政者が、頼りになる男で良かった」


 花ひらく瞬間を印象付けるような笑顔で言葉も動きも封じ、私達は会議場を後にした。


「帰宅したら覚えておいてくださいねぇ」


 笑顔で不機嫌オーラ全開の執事が私の耳を銜えながら囁いたのは、聞かなかったことに。

 したいけど無理だよな。はは。

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