ムフフな後の展開
執務室を出た途端、
「今のアンナの魔力なら、私が何をしても大丈夫そうですね」
とキラッキラな笑顔の執事に宣言され、逆らうことなど不可能な濃度のフェロモンにグラグラしている内に『新婚仕様』だと言う部屋に連れ込まれた。
何回日が昇って沈んだのか判別出来なくなるまで、子供は見ても聞いても絶対に駄目そうなエロエロしいことを執事にずっとずっとずーっとされ続け、快感のあまり意識が飛ぶことすら慣れてしまってから、私はようやくベッドから降ろしてもらえた。
力が強過ぎて結婚出来なかった淫魔を甘く見ていた。
精神的にはヘロヘロのガクガクだが、婚姻したパートナーで相性は最高なので、体調や魔力の調子はヤバいくらい良い。
執事もエラく調子が良さそうで、体臭は更に私好みになった。
執事が軽い足取りで通常業務ヘ向かったので、私はとりあえず放置しっぱなしだったザキと母さんに会いに行く。
母さんはアレの被害者だから魔界で責任持って保護となった。
ザキも私の親だから客人扱いで、今後の身の振り方は本人の希望に添うと上司から通達があったらしい。
私が新婚仕様部屋に連れ込まれていた間に、ザキは母さんの知らなかった『勇者』の材料の記憶を話していた。
それについては、少し考えたいそうだ。
「アンナ、とても綺麗になったな。ちゃんとマトモな男と結婚したようで、ほっとしている」
久しぶりに聞く母さんの声は、声質がザキと性別を変えただけで同じだと感じた。
「母さんも、アレと離れられて良かった」
「ああ。ずっと、完全に正気が無かったワケじゃないんだ。意思も体も自由が利かなかっただけで。だから、アンナにも寂しい思いをさせただろう」
「そうだった?」
「私のようにアレの犠牲にならずに済むように、私の出来る限りでお前を鍛えて、特に男から逃げて生き延びる術を教えた。だが、どうしてもお前がアレと同じモノだと言う意識が拭えず、可愛がることは出来なかった」
母さんは物凄く悔恨を込めて話すけれど。
それは仕方無いことだよなぁと思う。
自分でだって、アレと同じだと思った時には自分の存在を否定したくらいだから。
ましてや、母さんはアレの被害を嫌悪感を維持したまんまで受け続けてたんだから。
私を虐待しなかっただけでも、高潔な人だよなぁと思う。
「母さん直伝のタマ潰しは私の必殺技になってるし、アレのタマも潰して力を失わせることも出来たし。私の中では、母さんはずっと格好いいヒーローだ」
私が言うと、母さんが非常に雄々しく泣き出した。分厚い胸筋も上下している。
「タマ潰しって、ザクトヴァルスの直伝だったのか」
ザキが引つらせている唇も、よく見たら母さんと似てるなぁ。
「アンナ、ザキから勇者の材料の記憶を聞いたら、隠されていた私の中の材料の記憶も甦った。たとえどんな方法で生み出されたのだとしても、アンナが私の娘である限り、どんな存在だって、私はお前がお前のまま幸せであることを願う」
男泣きのまま母さんが言い、その怪力で私を抱きしめた。
魔族の自覚が出る前だったら中身がニュルッと出そうな力だ。
「アンナ、お前は私の大切な娘だ。ただ一人の娘だ。私の寿命は、あと50年ほどだが、それが尽きるまでは、今度こそ母として、お前の近くで愛情を注がせてほしい」
涙と鼻水ですごいことになってる母さんにサバ折されながら私は笑った。
「孫にも剣術や体術を教えてよ。男の子が生まれたらザキが先生。女の子なら母さんが先生ね。サバイバルスキルも教えてやって」
「任せろ!」
二人の勇者が声を揃えて請合ってくれた。
私と執事の子供達は、さぞかし逞しく育つだろう。
それから私はザキと母さんを誘って外に出て、自由に使っていいと言われているハーブ園予定地を眺めてみた。
「ハーブ園とか看板出てるんだが。まさかアイツ等か?」
「大丈夫。今はハーブは全部私の支配下だし」
ゲンナリと訊いて来たザキに答えて腕を組み考える。
品種改良して、男性体のハーブを栽培したい。
ハーブ達が捕食するのは雄の生命体。それは繁殖用の栄養とアレは言っていたが、多分『繁殖』そのもののための捕食だ。
ハーブに女性体しか存在しないから、他の種族でいいから雄の体が必要だったんだろう。
それなら、ちゃんと同族に男性体が存在すれば、捕食の必要無く繁殖出来る。
さすがに種の保存の本能でする捕食を止めろと言う命令は残酷だと思うが、ハーブ園の中でハーブ同士で繁殖可能なら、捕食を止めろと命令出来る。
多分、アレのせいで、大地霊の支配下にあるモノ達は魔界でも肩身の狭い思いをしているだろう。
多分じゃないな。唯一の大地霊になってから、魔界中から嘆きが聞こえる。
せめて、ハーブが他種族の雄を捕食して回る現状を打破すれば、他の種族からの白い眼も幾らか改善されるかもしれない。
あぁ、地霊に女性しか生まれないイカれた呪いも解いておこう。
それにしても、ハーブの男性体は、女性体と何が違うんだろう。
ハーブ達とも意思疎通が出来るようだが、ハーブの寿命は然程長くはないから、生まれる前に絶滅した男性体の記憶を持っていない。
男性体のサンプル欲しいなぁ。
「あ」
サンプル。あるじゃないか。バラして標本にしても心が痛まないヤツが。
「どうした? アンナ」
「男性体ハーブのサンプルについて考えてた」
たしか、王宮で暮らす資格が無くなったから、最下層の植物性魔物に落ちた後は、城壁の外に放り出されたはず。
まだ死んだと言う報せは無いし、どの辺りに居るかな。
何となくアレの居場所をトレースして、私は眉を顰めた。
「バルベリア研究所?」
「っ?!」
私の呟きに、ザキと母さんが、今までの強面や凶悪さなんて笑顔の一部だったのかと思うくらい怖い顔で詰め寄って来る。
「アンナッ?! 研究所がどうしたんだ?!」
「どうしたって。アレの現在地を調べたら、何故か人間界の研究所に居るみたいなんだけど」
二人とも、滅茶苦茶顔色が悪い。
私が眉を顰めたまま二人を見つめていると、顔を見合わせた後、頷きあってザキが重く口を開いた。
「勇者を造った、軍事研究所だ」
偶然なワケ無いよな。
私はザキと母さんを連れて、上司の執務室ヘ走った。




