魔界の庭園で断罪を
執事の上司が「面白いことになっている」と言う状況を目の当たりにして、私は死んだ魚のような目で絶句していた。
「こんの変態植物っ!」
「私達にフラレたからって自分より弱い種族のお嬢さんを拉致洗脳とか! どこまで外道か!!」
「キモ過ぎサイテー!」
「バーカバーカ! お前なんか一度も好きだったことなんか無い!」
「ううぅぅっ」
魔界の王宮の、ただっ広い庭園で、タイプの違うドえらい美女三人と母さんに囲まれて、かつて私が父さんと呼ばされていた男が土下座しながら罵倒されている。
様子を見る限り、母さんの洗脳も解けている、のかな?
あの美女達は、多分魔族だよな。
罵倒の内容から推察するに、三人とも庭師を振ったことがある、と。
庭師を振ることが出来るなら、力があって強いんだろうなぁ。
でも、何と言うか、私にとって脅威だった存在の、あまりにも情けない姿を見ると、どうにも私まで情けない感じがして来るんだが。
「はあぁぁぁ」
深く溜め息を吐くと、ピクリと反応した庭師が、グリンッとこちらを振り返った。
「アンナたん! 僕を助けに来たんだね!」
以前と変わらない残念な口調で叫ぶと、顔を輝かせて私に突進して来る。
当然キモいから避けた。
「アンナたん?! 父さんだよ?! 僕と結婚するために追いかけて来たんだよね?! そうなるようにちゃんと育てたんだから!!」
抱きつこうとするから、また避ける。
あぁ、カネが手に入ったら両親を探しに行こうと、あれほど強く思ったのは洗脳されてたからなのか。
「アンナたん! 僕まだ独身なんだって上司に言われちゃった。だからアンナたんは僕と結婚しようね!」
「はい、アウトですねぇ」
私の手を握ろうと伸ばされた庭師の腕を、執事がニッコリ捻り上げた。
まるで初めて執事が視界に入ったように、驚愕の表情で瞠目する庭師。
「え? 執事? いつ戻った? 嫁探しの旅だったんじゃ?」
瞬きを繰り返す庭師に、執事は殊更笑みを深めて言い放つ。
「新しい大地霊のアンナと婚姻を結んだんですよ。私が」
「は?」
色々状況が飲み込めていない庭師に、執事はわざとらしく丁寧に説明する。
「だから。私とアンナは、正式に夫婦です。上司や同僚達にも認められて祝福されていますよ。アンナの姿を見て分かりませんか? 全身くまなく私の魔力に満たされているでしょう?」
「う? え?」
「人妻に求婚は降格相当の大罪ですねぇ。貴方は既に大地霊ではなく、ただの地霊ですよ。当然、役職も失います」
少しずつ現状認識が進んでいるのか、驚愕に見開かれていた目が更にカッと開き、瞳孔も有り得ないくらい開いて震え出した。
どうやらこれから怒り狂う感じらしい。
「大切に育てた僕の理想の花嫁を横取りなんてさせない。他の男の汚い魔力なんか僕がまた入れ換えてあげる。アンナたん。アンナたん!!」
執事がわざと拘束を解いたことにも気付かず、地面から巨大なハーブ達を生えさせた元庭師が私の間合いに入った。
「キモい」
刹那、タマ潰しのアンナ降臨。
響く元庭師の絶叫。
絶叫の後、崩折れ転げ回る元庭師。
「おー、いつ見ても鮮やかな手並みだなぁ」
ザキが背後から拍手を送る。
巨大なハーブはウネウネしながら元庭師を突き回していた。
「ど、どうして僕の眷属がッ」
ゴロゴロしながら呻いている元庭師に親切な執事が教えてあげる。
「誰の眷属だろうと植物性の魔物なら地霊より大地霊の意思に従うに決まっているでしょう」
「でも僕がアンナたんのオリジナルだし父親なのにっ」
「アンナは新しい大地霊として完全に古い大地霊とは異なるオリジナルです」
「あと、アンナの父親は俺だ」
転がっていた元庭師が、発言したザキを怪訝な目で見上げた。
「俺はザクトヴァルスと性別だけ異なる全く同じ生物だ。アンナは俺の細胞を核にして出来ている」
元庭師の目が再度見開かれる。今度は絶望で。
「う、嘘だ。僕の可愛いアンナたんにキモい筋肉男の細胞が入ってるなんて」
「キモいのはお前だ。私の父さんはザキだし、私が結婚したのは執事だ」
「そんな。嘘。信じないッ」
元庭師が地面に手を当て、「え?」と小さく呟き、何度も地面を叩いては困惑している。
「貴方のように性的な行為が攻撃になる魔族は、性器が一番の急所ですからねぇ。ただでさえ人妻に求婚した罪で地霊に降格しているのに性機能を失えば魔力の供給も止まり更に降格でしょう。ついでに上司がこのタイミングで他の罪状についても罰を下したみたいですねぇ?」
一切の表情を消した極寒の冷ややかさで執事が告げると、いつからその場に居たのか、漆黒の髪をサラリと揺らして怜悧で落ち着いた印象の超絶美形が歩み寄って来た。
「全ての罪を降格で済ませてやった。ありがたく思え」
「全ての、罪?」
「死罪でも贖い切れない数だったからな。元が大地霊のお前には、この罰の方が効くだろう。今のお前は最下層の植物性の魔物だ。眷属を持つことも無い。寿命は、あと数年というところか」
とうとう言葉を失った元庭師が力無く地に伏せる。
黒髪の男の影から現れた何者かが、無抵抗の元庭師を担いで何処かへと消え去った。




