ゆっくり旅を楽しんで
体内の魔力の入れ換えは、たった二日で終わった。
私の庭師への拒絶感の強さと、考えていた以上に執事の魔力と相性が良かったかららしい。
入れ換えが終わるまでは、ずっと執事にくっついて寝ていた。
執事は魔力を与えるための深い口付けと、挨拶の軽いキスはするが、それ以上の行為はせず実に紳士的だった。
相変わらず深い口付けは飛ぶほどの快楽も与えられたが、それに慣れないと次の段階に進むのが本気で生命の危機だとかで、入れ換えが済んでも回数を増やしながら毎日の習慣にしている。
魔力がすっかり入れ換わり、庭師の影響下から完全に抜け出した途端、大地霊としての力の使い方が分かった。
手足を動かすように、呼吸をするように、自由に人外の力が扱える。
まぁ、人間界では本気は出せないが。
魔力の入れ換えが完了してから、上司とこまめに連絡を取っている執事に、
「面白いことになっているので、旅を楽しみながらゆっくり来いと上司が言っています」
と言われて、贅沢な船旅を満喫した。
部屋は特等船室だったし、魔族の自覚も出来て庭師の洗脳も解けた私と、最初から魔族な執事は人間の食事を摂取する必要は無かったが、嗜好品として上等な食事は楽しめた。
コース料理なんて初めて食べたが、執事にテーブルマナーを教わると、それほど堅苦しいものでもなく意外と気楽に食べられた。
私に魔力を与えて執事は栄養不足にならないのかと訊ねてみたが、婚姻したパートナーと魔力を与え合うのは、力が増すことはあっても減ることは無いらしい。
ちなみに、庭師は母さんとちゃんと婚姻出来ていなかったから、母さんや私に魔力を与えていた分は眷属をムシャムシャ喰らって補っていたらしい。これも、魔界的には違法だ。
執事いわく、
「従える眷属が人型の魔族も多いんですよ。手足をもいで頭からバリバリ食べるのは、どう見てもアウトです」
らしい。
私がしていたハーブティーの摂取は、眷属の許可を得て死なない程度に末端を摘んでいただけなので問題無いそうだ。
そんな贅沢な船旅を終え、魔界との連絡路がある大陸に到着すると、ザキが即座に防具屋に私を引っ張って行った。
「庭師が買ったモンなんかいつまでも身に着けてんの嫌だろが。大体ソレ、下乳出てるし尻はTバックなんだよ!」
父親目線で見ると、いたたまれないらしい。
白い上質なソフトレザーで、サイズも丁度良い物を買って貰った。
デザインやカット的に女性のバストを包んで無理無く防護する物なので、圧迫感も無く動きやすい。
下も、足捌きを妨げず尻も冷えないので気に入った。Tバックは座る場所が硬いと尻が痛む。
色のせいかデザインのせいかサイズ感か、最初に着ていた物と露出度は大差無いのに下品さが無くなった。
鞄やウエストポーチも、揃いのレザーで作った物があり、ザキは全部新品を買って取り替えさせた。
ついでに、「素手で握り潰すんじゃねぇ」と同じ素材の指無しグローブも買い与えられた。
「それでは私はアクセサリーを贈りますね」
と、次は執事が宝飾店に連れて行き、ピンクダイヤとアメジストが嵌め込まれた銀のイヤーカフスとチョーカー、紫のサファイアが柄に嵌め込まれた虹色の金属で出来た短剣を買ってくれた。
全部身に着けると、歩く身代金の完成だ。
アクセサリーを身に着けたのは初めてだが、邪魔になる物ではないんだな。嵌め込まれた石に執事が自分の魔力を込めたからだろうか。着けていると、ずっと癒やされている感じがする。
見たことの無い虹色の金属は、オリハルコンと言うらしい。
大きな街の宝飾店に行かないと手に入らない珍しい物だとか。
見た目は実用品ぽくないが、鋼より硬いし研がなくても錆びないし切れ味も落ちないらしい。しかも軽い。
執事にこの短剣を渡された時、ザキが少し引いていたのは何故だろう。
デトックス完了で、美味しい魔力を摂取していたせいか、元々チート的だった髪や肌がもっとすごい感じになった。
質感は庭師を超えた気がする。自分で触っても永遠に触っていられるくらい気持ちいい手触りだ。
鏡を見ると、濃くも薄くもない平凡な緑の瞳だったものが、淡くグラデーションのかかる木々に囲まれた深い湖のような不思議な色合いになっていた。睫毛も伸びたな。
栄養状態が良くストレスも無いせいか、鋭さのある輪郭から女性的なラインになり、表情の険しさや目つきの悪さも緩和された。
うん。気がついたら絶世の美女と言うやつになってたよ。でも、庭師と瓜二つにはならなくて良かった!!
そんな私と執事とザキが歩いていると、当然目立ちまくるが、ザキが凶悪な面で殺気を、執事が笑顔で威圧を常時放っているので、それほど鬱陶しいことにはならなかった。
たまに鈍感な輩が接触して来たら、タマを潰してお帰り願った。
私まで到達した男は潰されるのを分かっていて、その前に排除出来るくせにしないザキと執事は大概性格が悪いと思う。
そんなこんなで執事の上司が言う通り、ゆっくり旅を楽しんで、とうとう魔界と人間界の連絡路まで辿り着いた。




