ザキの正体
「そっちの話がまとまったなら俺の質問に答えてもらおうか」
ザキが言うと、許可を求めるように執事が私に首を傾げた。
私が首肯すると口を開く。
「アンナの母親のことですね?」
「やはり勇者か」
「アンナの母親はザクトヴァルス。50年前に造られた勇者ですよ。30年ほど前に植物性の魔物を討伐に向かい、運悪く庭師と遭遇。勇者が斃せるのは魔族の眷属がせいぜいです。最高クラスの力を持つ庭師に気に入られたら為す術もありません。捕獲されて姿を消しました」
「脱走ではなく誘拐だったんだな」
「その可能性を想像しない人間が愚かなのですよ」
皮肉げでも茶化す風でもなく、はっきり嫌悪感を表して執事が吐き捨てた。
不思議な気持ちで見ていると、ザキが私に話しかける。
「アンナ、魔女狩りって聞いたことあるか?」
「いや? 魔女が狩りをするのか?」
「本当に聞いたことも無さそうだな。アンナの教養レベルで知らないなら、意図的に隠されていたんだろう」
庭師の洗脳。有り得るな。
「歴史書には、百年に一度全世界一斉に行われる、世の中に災いを齎す力を持つ悪党の捕縛。てな感じで書かれている。捕縛の後は非公開裁判で速やかに処刑だ」
「事実は違う?」
「ああ。実際には人間にしちゃ優秀過ぎる奴等を全世界の権力者どもが協力して、武力や人質取ったりで無理矢理連行。非公開裁判なんざやっちゃいねぇし、最終的に殺すのは同じだが、刑死じゃなくて、勇者の材料にするために研究所に運び込まれてバラされて保管だ」
そろそろ慣れて来たから、勇者という物語ワードもスルーしたが、理解したくない話が始まった気がする。
「勇者の材料?」
「勇者は、優秀過ぎる人間を狩り集め、そいつ等をバラして材料にして造られた戦闘能力の馬鹿高い人間だ。最初から肉体のピークの23歳の姿で造られ、寿命はキッカリ百年。長生きして余計な知恵を付けないためと、世間が魔女狩りの記憶を薄れさせて誤魔化しやすくする期間を設けるためだ。管理出来ない強者が誕生して敵になられるのも怖いから、勇者に生殖能力は無い。身を守るためでも人間を殺すことは出来ないという制約もある」
「それ、人間に可能なのか? 人体を寄せ集めて新しく人間を造るとか。いくら医学や科学技術が進んでも無理があるだろう」
ザキは嘘を言っているようには見えない。
でも、いくら何でも荒唐無稽だ。
私が軽く顔を顰めると、柔らかい美声がすぐ頭の上からかけられた。
「材料が、ただの人間の欠片なら不可能ですが。知らずに集めた材料達は、残念なことに純粋な人間ではないんです」
「何っ?!」
私より早くザキが反応する。
これはザキも知らない話なのか。
「淫魔の人型の眷属が人間と交わり子を成す話はしましたよね。他にも人型の眷属が人間と交わる種族がいますから、人間世界にはハーフがそこそこ普通に暮らしているんですよ。それ等は魔物の特性も持つので、普通の人間よりは大分優秀です。人間が純粋な魔物を捕らえるのは無理ですが、ハーフならば数に頼ったり人質を取れば捕らえられるでしょう。魔物の特性も持つ故に、パートナーを見殺しには決して出来ませんから」
何と言うか。庭師もド鬼畜ド外道だと思うが。人間も大概だなオイ。
「てことは、勇者は魔物と人間のハーフを使って造られた戦闘兵器ってワケか」
ザキが引きつった頬を吊り上げて無理矢理笑う。
私は、物凄く初歩的な疑問が湧いたので訊いてみた。
「魔女狩りって言ったけど。ハーフは女しか生まれないの?」
「男女平等に生まれますよ。狩られるのも性別不問のようです」
嬉しくない不問だな。
「性別不問で魔女と呼ぶのには胸糞悪い理由がある。勇者を造る側の奴等は、材料達を勇者の母体と見立て、魔女から生まれた勇者として、生まれながらに罪人だから命令を聞くのが当然てことにするんだ」
うん。その人間達も庭師と同じくらい気持ち悪い考え方の奴等だな。
「ザキはなんでそんな詳しいんだ? そんなの多分、世間一般に流れる話じゃないだろう?」
「ザクトヴァルスが消息を断った後、慌てふためいた権力者どもは、まだほとぼりが冷めない内に魔女狩りをするわけにもいかず、保管してあったザクトヴァルスの材料で新しく勇者を造った。だが制作期間をかける余裕が無く、急ごしらえで劣る能力の分、今度は男性体にしてパワーとリーチを補った。てことで、俺も勇者だ」
へー。物語ワードの人物そのものだったから、ずっと夢発言してたのか。
いや。これは現実だったな。
「ザキの話を聞いてると、罪人だからとか殊勝で悲壮な感じがしないんだけど」
「急ごしらえだからな。検品の手間を省いたんだよ。俺に材料になった奴等の記憶が残ってるのに気付かず野に放ってくれたからな。追っ手がかからねぇ程度に魔物退治して、二度と研究所には戻る気は無ぇ」
肩を竦めてザキは言う。それから徐ろにこちらに向き直り、ズカズカと大股で近づいて来た。
「それより。お前がザクトヴァルスの娘だとハッキリ判明して、連れ込み宿でヤッちまわねぇでホント良かったぜ。危うく鬼畜に成り下がるところだった」
「は? なんで今その話?」
「だから。俺は男だが、お前の母親と全く同じ生物なんだよ。お前がザクトヴァルスの娘なら、俺にとってもアンナは娘なんだ!」
なるほど。概念として近親相姦になるのか。たしかに嫌だな。
目の前のザキがいきなり跪く。
「勇者に生殖能力は無いが、俺は材料達の記憶があるから、すげぇ子供が欲しかったんだ。絶対無理だから諦めてたが、お前という娘が居てくれてムチャクチャ嬉しいぜ! なぁ、手ぇ握ってもいいか?」
ザキが大きなゴツゴツの手を差し出すから、私は片手を伸ばしてそれに触れた。
意外にも力の加減をちゃんとして、優しくやんわり握って来る。
「娘だとハッキリ判明したら既に人妻とか、どんな親不孝だよ。俺が生きてる内に、孫を抱かせる親孝行を絶対しろよな!」
凶悪な強面がだらしなく緩んでいるのが可笑しくて、私は声を立てて笑った。
そうか。私は親に望まれているのか。
腐れ野郎の分身だけど、孫を抱きたいくらいに娘として望んでもらえるのか。
怪力のくせに、こんな優しく手を握るくらい。
強面も形無しに顔を緩めるくらい。
「嬉しくても、涙って出るんだな」
私がポツリと呟くと、夫からはキスが、本当の父親からはガキみたいな笑顔が贈られた。
最初に書き始めた時には、ヒロインの相手はザキでしたが、設定上アンナとザキでは親子になってしまうことに気付き、相手はエロ執事になりました。




