一話 【破滅少女 あらわる】
シニガミさん、
それは、在り得なくて、美しくて、殺されたい程望む興味があるんだ――――……、
彼女に会いたい、わずかな行動、それだけだった――
【 破滅少女、あらわる 】
あれから、何日かたった。
シニガミさんに、会った夜の事から。
学校が終わってから、いつもの帰り道とは反対の方だから、わざわざ行くのは馬鹿馬鹿しい路地裏の通り。 でも、自然に足は動いていた。 気のせいか、カバンがいつになく重く感じるのは、僕が柄にも無く、行動するほどに興味を持ったことだろうか。
また、 あの子に会えたら良いな。
そして、今度こそ首をあげよう。 僕をとめてもらいたかった。
……って、 僕に殺すほどの価値は無いのかもしれない。 僕みたいなのは吐いて捨てる程世の中に居る。 シニガミさんの手を汚す意味は無いんだろうか。
と、思いつつも僕はあれから、買い物の帰りで無くても毎日のように此処に来ている。 殺される事を望むのもそうだが、彼女はあの時、どんな生物や偶像よりも美しく光ったから、もう一度拝んでおきたいと願う、僕らしくない気持ちで居る。
会えなくても別に構わないのだけれど。 僕がいつか近くに停止するまでの期間、何かしら動作する理由を求める。 シニガミさんを、僕の動く理由にして、ごまかしてるだけか。
当然、彼女に会う為という純粋な理由を以って此処に訪れるのだが。
今日も、缶型コーンスープを左手に、汚い壁にもたれて、約束もしていないのに人を待つ。 彼女は、人じゃなくシニガミだったっけか。独りで苦笑する。
寒い。真冬のこの時期、制服ひとつでやせ我慢なんて、面倒でしかない。 バカだ。 ただ凍死するのはゴメンだった。絵画の目の前で犬と死ぬ少年とは違うし。死にたいと口にする愚かな僕でも、そんな綺麗な理由で消えたいと思うことがあるんだ。彼女に会えば、 それが出来る。
それだからここにいる。
「パキッ 」
む。 枝の折れた音。僕は踏んでいない。だが、何か物陰からその音がした。 まさか、『何者かが俺をねらってるのかー』、なんて、ゴルゴ13じゃないので思わない。
ま、誰かいるならそれはそれでいい。 もしかすると幽霊かな。腕時計で確認すると、6時42分。 冬だから日が落ちてちょうど群青色の夕焼けになって、なかなか暗い。 幽霊が出ても可笑しくは無いな。 出てきて欲しくは無いけど。 多分どうせ、猫とかだから想像を育てても面白くないな。
問題なく、僕は缶の底にへばりつくコーンを一生懸命に口の中に落とす。
だが、 物陰、ちょうど僕からは見えない死角から、ひとつ、 何か光が一筋見える。無機質な光が。 一瞬、だが。 少し警戒。 同時に期待。
まさか、シニガミさんなのか? 自問自答、絶対に違うな。
「うああああああぁああああぁ」
ほら違うだろ。 人じゃない、声も形もニンゲンだけど、中身は化け物か。
突然、物陰から飛び出すのは、シニガミさんではない。 甲高くて恐ろしいうめき声。 僕には助けを求める見苦しい声に聞こえる。 何故だか。
シニガミさんは本当に華麗に僕を殺そうとしたが、いきなり出てきたコイツは素人だ。 包丁を両手で大事そうに持って、小柄な身体を僕にぶつけようとご執心だ。
化け物のような気迫だが、見た目は子供、少女だった。 白いワンピース。とりあえずかなり血がついてる。 黒い、とても黒くて長い髪。 そこから垣間見える狂気の眼。 殺意の表情、僕を狙った大きくて大きい決意。 左足だけに紅いサンダル。 足の裏は傷だらけで、血がしたたる。 痛そうで、それ依然に、こいつはヤバイ。
とにかく、カバンで包丁を防御。 中身の教科書類は脆くも貫かれるが、センセー、いくら安い命でも教科書よりは勿体無いです。
こんなヤツに殺されたくはない。 なにせ、こいつはきっとホントに死にたくて仕方ないんだ、これは衝動でしかないんだから。 ただ生きるんじゃなくて、苦しんで生きてきたんだろう。 死にたくて死にたくて、どんなに汚くても良いから死にたい。 僕は生死にゼロ、あるいは同数だ。 でも彼女は今、死の部分に、絶対の数を持っている。
理由は不明。 ただし、こいつは救われないな。ホント、関りたくない。
カバンに刺さった包丁をなかなか抜けず、力を入れ相手に隙が出来た。 僕は少女を容赦なく蹴って、引き剥がした。 そして覆いかぶさり、手に持つ包丁を取り上げる。 僕の腕を噛もうとしているが、頬をはたいて、襟を持って問う。
「僕を殺そうとしたんだろう? 何でだ?」
彼女は以前、狂気の眼光を僕に向ける。 知るか、お前の事情など、どれほども。 ただ、お前などに殺されてやりたくない。
「……、…あぁぐ、 うぐ、うう」
この光景を誰かに見られたらお終いだろうな。 僕は何の弁解も出来ずに警察行きだ。 ま、誰も来ない路地裏だから僕は殺されかけるんだけど。それにしたってこの路地裏は凄い、通ってれば自然に殺されるな。
僕が襟を掴んでいるから上手く喋れないのだろうか、 それでも喋ってもらう。 こいつに少しの油断もしてやらない。
「…がぁ…、 あたしは、あたしは、 」
挙動不審だ。 狂ってるともいう。 とにかく、事情がどうなんだ?
「あたしは…… 天使だ 」
ぬぁに? 何? ん……んん?
「どこがてんしなんだ? おい、お前おかしいぞ?」 自分の事は棚に上げて。
白くても紅い返り血が映るワンピース。 黒く澄んだ長髪は、美しいと認める。 死んでいる眼以外は、あどけなく可愛い少女の顔立ちと思える。 それでも、てんしってなんだよ。
面白そうだが、確証をくれ。
そいつの口からは、僕が思っても居ないことを本当に言いやがった。
『シニガミを、 しっているんだろ 』




