第120章第9話【問題用務員とサプライズ】
ショウ曰く、時間は卒業式前日の夜まで遡る。
『我が旦那様を困らせるとはいい度胸です。その背骨と引き換えに卒業を伸ばしてやりましょう。運がなかったら冥府総督府に就職する羽目になりますので、その際は俺の父によろしく取り計らうように言っておきますね』
『背骨がががががががががががががあああああああああ!!!!』
『全身の骨がまずい!!』
『悲鳴を上げ、ぎゃあああああああああああああああ!!』
『助けてええええええええええええええええええええ!!』
ショウの脅しによって卒業式前日に正面玄関に集められた6学年の生徒たちは、全員仲良く揃ってプロレス技の刑に処されていた。
全身の骨をバッキバキに粉砕する勢いで締め上げられ、生徒たちの口から断末魔の声が上がる。生徒たちの全身に絡みついているのは、ショウが召喚した炎腕である。数え切れないほどの炎腕が正面玄関の床から生えて生徒たちを捕まえ、容赦なくプロレス技を仕掛けていた。
このままでは本当に生徒の何名かが冥府総督府に再就職する羽目になる。せっかくヴァラール魔法学院を卒業後の輝かしい将来も決まっているのに、望んでもいない冥府総督府への就職は生徒からすれば迷惑極まりないことだろう。
程よく技を仕掛けたところで、ショウは炎腕たちに生徒の解放を命じた。炎腕は生徒たちをそっと正面玄関の床に下ろしてやると、一仕事終えたと言わんばかりにそそくさと撤退していった。
『聞きましたよ、皆さん。追い出し式なんてものがあるみたいですね。旦那様であるユフィーリアに迷惑をかけるなど無礼千万、とっとと卒業してください』
『そうは言っても、これはもはや卒業生の伝統行事みたいな節があるからなぁ』
そう答えた1人の生徒は、軋む全身に『イテテ』と呻き声を漏らす。全力でプロレス技をかけすぎたのかもしれない。
『俺たちだって別に本気で居座ろうと思ってねえよ』
『そうだそうだ』
『素直に卒業しようと思っているさ。こっちは将来安泰の職業に就いたしな』
『そうよね。ここで学んだことが社会でどこまで通用するのか楽しみだものね』
卒業を控えた6学年の生徒たちは、口々にそんなことを言う。
追い出し式とは言ったものの、どうやらパフォーマンスの1種らしい。6学年の生徒たちは素直に卒業しようとしているし、社会の荒波に揉まれてもやっていけるだろう。精神面でもだいぶ鍛えられたのではないだろうか。
柱にしがみついてまで居座ろうと画策する生徒が過去にはいたと聞いていたのだが、時代が変わるにつれてだんだんと生徒たちの価値観も変わっていっている様子である。今ではすっかり素直に卒業して、自分の未来を勝ち取ろうとしていた。
だが、
『でも追い出し式には参加したいよな』
『だよね』
『伝統行事だし』
素直に卒業するとか言っていたのに、追い出し式には参加したいとか宣いやがった。
『またプロレス技しますか。我が最愛の旦那様に迷惑をかけるなと言ったばかりですが』
ショウがトントンと履いていた革靴の爪先で正面玄関の床を叩くと、炎腕が再び大量に召喚される。威嚇するように5本の指を広げる炎腕に、生徒たちが悲鳴を上げて後退りをした。
ヴァラール魔法学院に残るショウからすれば、最愛の旦那様に迷惑をかける生徒たちは許し難い存在である。素直に卒業するなら見逃してやろうと考えていたが、追い出し式に参加するのならば容赦はしない。今度こそ全身の骨をボッキボキコースである。
とはいえ、伝統行事になっているから参加してみたいという意味合いもあるかもしれない。一応、参加理由を聞いてみた方がいいだろう。
『念の為に聞きますが、追い出し式に参加する理由は?』
『お前の旦那様』
『プロレス技ですね。卒業式スペシャルということで25連発にしましょうか』
『待て待て待て待て待て待て待て待て!!!!』
追い出し式に参加する理由を問うたら、答えとして『お前の旦那様』と返ってきたら命を狙うだろう。炎腕もショウの意思を汲み取ったのか、ジリジリと生徒たちと距離を詰めていた。
生徒たちは慌てて『誤解だ!!』と叫ぶが、誤解も6階もない訳である。我が旦那様に迷惑をかける馬鹿野郎には死を与えるしかない。
すると、
『待て、話を聞け!!』
『おや、座長ではないですか。就職先は冥府にしますか?』
『しませんが!?!!』
卒業生の集団を割って出てきたのは、演劇同好会の座長であるアリオ・テゴーラだった。卒業を控えているから『元座長』になるだろうか。
『語弊があるから訂正しよう。その機会をくれ』
『いいでしょう、かつて演劇祭に協力したよしみです。お話だけは1分間だけ耳を傾けてあげます』
『ありがたい』
アリオの決死の説得に、ショウは大人しく話に耳を傾けることにする。他の生徒たちから羨望の眼差しを受けていたので、調子に乗ったら即燃やそうと心に決めた。
『主任用務員のユフィーリア・エイクトベルは七魔法王の中でも最強と名高い【世界終焉】だ。それを差し引いても、かの魔女の魔法の腕前は凄まじいものだ。日々勉強して進化しているだけある』
『よく分かっていらっしゃいますね』
『その天才魔女と実力勝負が出来る場が、追い出し式なのだ。勝とうとは到底思えないが、かの魔女と真っ向からぶつかり合う機会など滅多にないからな。だから我々卒業生は追い出し式に意欲的なのだ』
アリオの言葉を後押しするように、生徒たちから『あの人の技術は目で見て学びたいよね』『本当に的確なんだもん』と称賛の言葉が飛んでくる。
確かにユフィーリアの魔法の実力は凄まじいものがある。彼女は時代に取り残されないようにと日々魔導書で魔法を学んでおり、その実力は常に進化していると言っていいだろう。
最愛の旦那様をこうして褒められるのも悪い気はしない。追い出し式なんていうユフィーリアに迷惑をかけるような行事は歓迎できないが、まあ卒業生と魔法の天才との実力差を見せつけるいい機会である。ここは嫁として容認してやろうではないか。
ただし、
『それだと学院に対する感謝がないですね』
『む、そうだろうか』
『そうですよ。最後の最後で暴れて終わりだなんて華がありません』
ショウは『そこで』と言い、
『6学年の皆さんの実力を合わせれば、こんな作戦も可能かと思います。ぜひやってみましょう。拒否権はないです』
☆
「――それが、事前に桜の苗を湖に放り込んでおき、脱落した生徒たちが成長促進魔法で桜の苗を成長させて維持していくという作戦です。めでたしめでたし」
「そんなタネがあったとはなぁ」
最愛の嫁から語られた真実に、ユフィーリアはしみじみと呟く。
いつしか生徒たちの実力が向上してきたと思ったが、どうやら魔法の天才を自他共に認めるユフィーリアと全力で真っ向勝負をしたかったから追い出し式に参加していたらしい。全く、呆れた生徒たちである。そんなことをしなくても、いつでも喧嘩を売ってくれればやってやるのに。
とはいえ、生徒たちが楽しそうで何よりである。今も湖の水面に魔法で浮かび、卒業を喜んでいる様子だった。こうして見ると、やはり彼らは子供である。
無事に卒業を迎えた生徒たちに温かな眼差しを向けるユフィーリアたちを横目に、今まで黙っていたキクガが口を開いた。
「また、ヴァラール魔法学院に入学してくれるかなー!!」
そんな馬鹿な呼びかけに、卒業生たちは悪戯めいた笑みと共に答えた。
「「「「「いいともーッ!!!!」」」」」
ふざけんじゃねえ。
「「「「「もう来るなあああああああああああああああ!!!!」」」」」
かくして、ヴァラール魔法学院の1000回目の卒業式は七魔法王たちによる心からの絶叫で幕を閉じたのだった。
《登場人物より一言》
【リタ】え、えと、私が最後? いえそんなことないですよね。来年度もヴァラール魔法学院で勉強を頑張ります! あとスカイハイレースも負けません! 先輩になりますので!
【リオン】いいなぁいいなぁ、オレもヴァラール魔法学院に入学したいなぁ! しちゃダメか!?
【カーシム】ヴァラール魔法学院に出資したら、アーリフ連合国の食事を出すレストランでも作っていただけますかね。交渉してみましょうか。
【フェイツイ】ふむ、あの問題児の兄弟はまた龍帝国に遊びに来てくれるだろうか。
【エリナ】お兄ちゃん、あたしは今日も元気だよ! 風邪引かないでねー!
【オルトレイ】登場するのが遅いんだよなー、オレ。もう少し早い段階で出たかった!
【アッシュ】オルト、テメェが本編に出ると色々と大変なんだよ馬鹿タレ。




