表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴァラール魔法学院の今日の事件!! 〜名門魔法学校の用務員は異世界から召喚したヤンデレ系女装メイド少年に愛されているけど、今日も問題行動を起こして学院長から正座で説教されてます〜  作者: 山下愁
第100章:vs偽七魔法王!!〜問題用務員、偽七魔法王暴行事件〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

957/958

第120章第10話【問題用務員と始業式】

 桜の花がゆっくりと満開を迎えて。

 学生と一部の働かねえ阿呆どもが享受した春休みも過ぎ去り。


 ――ヴァラール魔法学院の1001回目の始業式が始まった。



『今年度も勉強を頑張ってください。以上』


『学院長』


『演説って苦手だって話したはずだけれど』



 在校生を集めた大講堂に、そんな漫才のようなやり取りが響き渡る。


 在校生は全員揃って進級を果たし、残すは新入生が仲間入りを果たすだけとなっていた。空席である1学年の場所だけぽっかりと開いており、少しばかり寂しげな空気が漂うが、入学式を迎えれば空欄も埋まることだろう。ヴァラール魔法学院も賑やかになりそうだ。

 そして、式典でのもはや恒例行事となっているのが、学院長のグローリアと司会者の教職員が演説の長さを競い合っていることだった。学院長としての威厳を保つべくもう少し演説を長めにしてほしい司会者の教職員に対し、グローリアは「別に誰の心に響くものじゃないから短くてもいいじゃないか」と言い返していた。このやり取りも散々見た光景である。



「面倒臭えやり取りだな」


「いつものことだよねぇ」


「見飽きた!!」


「何が楽しいのかしラ♪」


「やれやれですね」



 始業式に参加中の問題児こと用務員一同は、大講堂の壇上のやり取りに呆れた眼差しを投げかけていた。


 普段だったらサボっているはずの問題児が、何故始業式に参加しているのか。知り合いが始業式に出席するからではなく、問題児の身体を戒める縄が原因だった。

 何と可哀想なことに、問題児は全身を縄で縛られて始業式に出席させられていた。逃げることも叶わぬままくだらねえ壇上のやり取りを聞く羽目になっている訳である。今朝、用務員室に引き篭もろうとした矢先に「始業式に出席するように。給料払ってるんだから」と学院長からのお達しから逃げようとしたら縄で締め上げられたのだ。


 ユフィーリアは深々とため息を吐き、



「もういいだろ、十分だろこれ」


「日課のランニングに行きたいんだけどぉ」


「遊びに行きたい!!」


「疲れちゃったワ♪」


「俺もランニング行きたいです」



 ぶつくさと文句を垂れる問題児など華麗に無視されて、大講堂の壇上に立つグローリアは『あー、続きまして』と言葉を続けた。



『今年度より新たな教科を新設いたしました。「死者蘇生魔法学基礎」と「冥府文化学」、それから「葬儀学基礎および応用」の3科目となります。死を取り扱う授業はやや選択しにくいかと思いますが、今まで未解明だった冥府という世界を知るいいきっかけとなります。ぜひ皆さん、新たな教科を学んでみてください』



 新設の教科が3つもあるとは驚きである。しかも、どれもこれも冥府が関連する特殊な科目だ。

 始業式にやるような話の内容ではないが、冥府の文化というのは未だに解明されていないことが多い。これは興味のある生徒もいるのではなかろうか。


 そしてグローリアは、新設した科目の担当教員を紹介する。



『新設科目の担当教員はこちらの方です。ご挨拶を』



 壇上に置かれた教壇の前から退いたグローリアが、舞台袖に控えていた担当教員に挨拶を促す。


 舞台袖から現れたのは、長身痩躯の男だった。艶やかな黒髪は地面に届くほど長く伸ばされ、頭頂部に乗せられた髑髏どくろのお面が不気味な空気を醸し出す。顔立ちは美しく整っており、ルビーを想起させる真っ赤な瞳が大勢の生徒たちをぐるりと見渡していた。

 装飾の少ない神父服ではなく、喪服を思わせる真っ黒な着物に身を包み、教壇の前に立つその姿勢は堂々としたものだ。緊張など感じられない。一瞬だけ、彼が大講堂に姿を現したその時が冥府の法廷に見えてしまった。



『冥府総督府、冥王裁判課元課長のアズマ・キクガだ。冥王第一補佐官の立場も元となる訳だが』



 元冥王第一補佐官のアズマ・キクガは、朗らかな笑顔を見せて挨拶する。



『今年度より5年間、ヴァラール魔法学院にて死者蘇生魔法学基礎などの教鞭を取ることになる訳だが。至らない部分もあるかもしれないが、どうかよろしく頼む』



 新たな教員としてやってきたキクガに、問題児は声を裏返した。



「親父さん!?!!」


「父さん何でぇ!?」



 壇上から問題児たちが慌てふためく様子が見えていたらしく、キクガはそれはそれは楽しそうに笑った。



 ☆



 そんな訳で、用務員室で事情聴取である。



「父さん、カツ丼食べるか。今ならまだやり直せるが」


「そんな、刑事さん……私は無実なんです、冤罪なんです……」


「親父さん、乗らなくていいから」



 用務員室を訪れたキクガをとっ捕まえて尋問を始めるショウの後頭部を引っ叩き、ユフィーリアは「で」と口を開く。



「何で親父さんはうちの学校で先生になってんだよ。冥王第一補佐官の仕事は?」


「元がつくので辞めた扱いにはなる訳だが」



 アイゼルネから淹れたての紅茶を受け取ったキクガは、



「ある試験を受ける為に、現世で5年間の実地研修が必要になってくる訳だが。就職先を探している最中にイーストエンド学院長より『ぜひうちで死者蘇生魔法の分野を』と誘われ、引き受けた訳だが」


「試験?」


「冥王登用試験を受けようかと」



 キクガの回答に、ユフィーリアの思考回路が停止しかけた。


 冥王登用試験――つまり冥王になる為の試験。長いことあの椅子は冥王ザァトが占領していたが、ついに明け渡すことを選んだらしい。

 その明け渡す先が、歴代の冥王第一補佐官の中でも異例の経歴を持つキクガとなったら冥府の法廷もますます厳しくなるだろう。かなり難しい試験となるが、冥王第一補佐官として優秀な実績を残していた彼ならば冥王を任せても問題あるまい。


 ただ、心配なのは彼のいなくなった冥王第一補佐官の後釜である。



「冥王第一補佐官は誰がやるんだ?」


「心配ない、オルトが冥王裁判課の課長の試験を受けると息巻いていた。きっと優秀な冥王第一補佐官になるはずだ」


「あのジジイか」



 自称祖父は、まあ態度に目を瞑れば優秀な魔法使いである。冥王第一補佐官を任せても大丈夫だろう。



「ところで」


「何すか、親父さん」


「君たちがいつもやる問題行動はいつやるのかね?」


「何でそんなものを期待しちゃうんだ」



 キクガは期待に満ちた眼差しをユフィーリアに向けてくる。


 教職員として登用されたが、キクガは根っからの問題児側である。暴力も辞さないし、ショウと同じく舌鋒も冴え渡っており、異世界知識も豊富だ。まともな教職員ではなく問題児が1名増えたと言ってもいいだろう。

 ただ、問題児の中でキクガは『怒らせるとアカンほど怖い』という印象である。下手に問題行動に巻き込めない。


 そんなこんなで色々と言えずに答えあぐねていると、キクガが驚いたような表情で言う。



「まさか、この日に限って何もせずに大人しくしていると?」


「いやあの、あー……」



 ユフィーリアは天井付近に視線を彷徨わせると、



「もう仕掛け終わってると言うか、あれって言うか……」


「?」



 キクガが首を傾げた直後のことだった。





 ――――ドゴオオオオオオオ!!





 轟音が、晴れ渡った春の空に響き渡った。


 ユフィーリアは用務員室の窓を開けて、外を確認する。主に上の方である。

 窓枠から身を乗り出して校舎を確認すると、ちょうど学院長室のある場所から巨大な桜の木が生えていた。桃色の小さな花弁を雨の如く降らせ、幹も立派な桜の木である。そのおかげで学院長室の天井が吹き飛び、ヴァラール魔法学院の校舎の中心を桜の木がぶち抜いているように見えた。


 実に楽しそうに笑ったユフィーリアは、



「春だからな、桜は必須だろ」


「咲いたぁ?」


「咲いたっぽい!!」


「咲いたかしラ♪」


「これで学院長室でお花見が出来るな」



 ホクホク顔で桜の木の出現を喜ぶ問題児たちに、キクガは不思議そうに問いかけた。



「何をしたのかね」


「卒業式で卒業生が咲かせた桜の苗が余ったらしいから、学院長室に植えてきた。成長促進魔法をかけてご覧の通り」



 ユフィーリアが問題行動のネタを明かすと同時に、遠くの方でグローリアの絶叫が轟いた。



「ユフィーリア、君って魔女は!!!!」



 さて、逃げよう。

 怒髪天を衝く勢いで怒りを露わにする学院長と鉢合わせする前に、問題児は用務員室から飛び出して逃亡を図るのだった。

《作者から一言》


ここまで読んでくださった読者の皆様、ヴァラール魔法学院での1年間の模様は楽しんでいただけましたでしょうか。少しでも楽しんでいただけたのであれば幸いです。

長きに渡る名門魔法学校での物語も、これにて無事に閉幕です。ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング登録中です。よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
やましゅーさん、三年間、本当に楽しくて素晴らしい物語を読ませていただき、ありがとうございました!!この三年間、毎日楽しく読ませていただきました。仕事の合間に、旅行先で、疲れが溜まってどうにもならなくな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ