八十二話 潤む体はドクのハナ/アオミズモリ
このキャラバンは、闘技大会が開催される前後一ヶ月に渡って運営している。
行商人とは異なり、冒険者は防衛が主軸ではない。完全に『乗客』として扱われている。
そのため、料金を払うのは冒険者側であり、お客様を安全且つ効率的に送るのが、キャラバンの御者である。
それでも、いざという時は乗客である冒険者共々が総力を挙げて脅威を退ける。勿論、無償で。
よって、キャラバンが野生に襲われ、存亡の危機に瀕している時には、冒険者の人間性が問われる。
……私は、この仕組みが気に食わない。
だって利益が欲しいもん。
見合った労働には、見合った報酬が伴う。それが世の理だろうが。なんで見返りも無しに体を張らにゃならんのだ。
「ところでお客さん、闘技大会には出場するんですかい? あなた方はそれなりの熟練者と見た」
「いやいや出場なんて、コイツらはどうか知らんが俺は勘弁だよ。死者が多発する時点でもう、ね?」
「いいんですかい? そんな逃げ腰じゃ、女に呆れられますぜ? はっはっは」
「はっはっは。余計なお世話だっての」
後輩はその場繋ぎで、御者との会話が弾ませている。
対して、私はこのキャラバンに乗ってから一言も言葉を発していない。これは御者への対抗といっていいだろう。
理由としては至ってシンプル。キャラバン居心地が悪い。よって機嫌が悪い。
当初は闘技大会に行く気満々だったが、キャラバンの座り心地の悪さについては頭に無かった。迂闊であるのだ。
御者は後輩が惹き付けているので、こっちとしては厄介な質問攻めに遭わなくて済むんだが……いやはや、退屈だ。
それにしても、なんなんだあのオーガは。白目向いて寝てやがるぞ(本当は酔ってる)。胸筋に組んで乗せた腕は上下しているから生きているんだろうが。
ツッコミ待ちだったら相当つまらんし、無意識だったら距離を置きたいレベル。
「漢はガッツがなくちゃな! そこの姉ちゃんを護れるようにしろよ?」
「ああ、コイツ俺より年上なんで」
「なんと」
「年上の私をコイツ呼ばわりだと?」
しまった。私の事を話題にされたせいで、反射的に反応してしまった。
私の艶めかしい美声が、見ず知らずの御者の耳に。
「随分と、仲がよろしいようでなによりですな!」
無言を貫き通す夢が叶わなかった。おのれ後輩、ゆるすまじ。
「へっ、どうだか。あたしゃ仲間であって味方じゃないからねぇ?」
こうなりゃ自棄だと、反感を買う台詞を敢えて放った。
同事に、この台詞を起点にいつも通りの後輩との掛け合いが始まり、御者はちょくちょく横槍をいれるだけで、置いてけぼりとなった。
……しばらく進んでいると、先頭でトラブルが発生したのか、隊列の進行が滞ってしまった。
なんだなんだとキャラバンから顔を出し、降りたりと、様子を窺う冒険者。
前方には大きな川。それ自体は問題ない。何故ならば、それに見合った立派な大きさの橋が向こう岸まで掛かっているから。
足止めを食らわせられた要因は、その橋の上に屯していた。
「……まいったな、こりゃ」
先頭の御者がお手上げのように呟く。
橋で群がっていたのは、呑気に眠っているイモリだった。
それも、全長1メートルを超える、翡翠色に黒い斑点模様がついた毒々しい色合いのイモリ。
私はその光景を見ていない。
なぜかって? それは狸寝入りをしているからさ。
キャラバンが留まった時点で察した。
あ、怪物に出会したな、と。
だが、私の策謀を邪魔するヤツが目の前にいやがる。
「仕事だオラ。起きろ」
「……終わったら起こしてくれ」
首根っこ引っ張られた。なんだこの野蛮人。




