八十話 闘技大会、参加者募集中
ツチアラシはなんというか、生理的にムリな外見でまったく姿を現さなくてイライラしたが、それ以外はなんともなかった。
口が上下左右に裂けて、腕に喰らいついてきたときは失禁しそうになったが。
ビジュアルがこの世の生物にいちゃいけないようなヤツだった。トラウマになりそう。
依頼も無事(心的外傷あり)に終わり、半べそかきながら報酬獲得。受付嬢さんは若干引いていた気がする。
集会所に入った際に、一つの話題が囁かれていた。
───闘技大会。なんとまあ野蛮なこと。所詮、俺は田舎モンなので初耳だが、血みどろで泥臭い娯楽になる未来が容易に想像出来る。
それはそれとして、例の二人を待つのは億劫だと赤髪の誰かさんが厚かましくも訴えてきたので、そそくさと例の場所へ。
─雑貨屋─
「店主さんただいまー……」
「ああ……うん、おかえり……」
扉を開けた。店主さんの「おかえり」と共にロインこと俺の視界の両端には、満身創痍になった人物が映った。
膝と頭を抱えた、見るに堪えない人が部屋の角で埃と同化している。
「あの二人は、その……そっとしておいてあげて……」
なんというか、励ましの言葉を掛けていい感じではない。
彼らを横目に、席に着く。
「さてさて、今回の成果は~?」
そんな事などお構いなしに、揚々たる口調と声量で、開口一番はアイシャが頂いた。
「なんと八万ジル! やったな大成功じゃなの、このこの~」
「やめろツンツンすんな」
異様にテンションが高くて怖いよこの人。
……それでも鬼人と魔法使いの顔は上がらず。
傷だらけで服もズタボロになって、一体全体何とやりあったのだろうか。
ここは暗黙の了解として、触れないでおこう。
「どうした~? 元気がないぞ筋肉野郎にがきんちょめ! 君たちは強敵と一戦交えて大勝利を収めたのだろう? いやー! 今日はめでたい万々歳!」
「やめたげて! セリスの涙袋が尋常じゃないほどに膨れてる!」
顔を赤くし涙を流し、所々に傷があるセリスの背中をさすって落ち着かせる。ロンゴは強い子だからいいだろ。
「……あ、そうだ!」
気まずい雰囲気を打破すべく、店主さんが手をポンッと叩いて、無理矢理明るく振る舞う。
「みんな、こんなお祭りが始まるんだけど、興味ない? ストレス発散とか、気分転換になるかもよ?」
そう言って、机に一枚の紙を落とす。
ガタガタッ
さっきまで部屋の一角に、自分の領域を造っていた二人が迅速に着席してきた。
なんなの。怖いよこいつら。
「五年に一度の!」「祭りと聞いて!」
ほんとなんなの?
急に水を得た魚のように活発になった二人は、我先にと紙を手に取る。
そこに記載されていたのは……。
「フフフ……この瞬間を何度夢みたことか!」
「闘技大会が! 血湧き肉躍る熱い闘いが! オレ様の筋肉を呼んでいるッッッ!!」
ロンゴとセリスが互いに悦びを分かち合っている隙に、紙を手に取る。
「闘技大会……そういや、集会所の人たちも言ってたな。やけに盛り上がってたけど……なんだこれ?」
「それは『紙』という物だぞ、後輩。文字を書いたり絵を描ける優れもんだ」
「そういう事を聞いてるんじゃねぇ」
先ほど、集会所で小耳にはさんだ話題と合致する。
この広告には、開催日時と場所、優勝賞金、注意事項、添え書き等が記載されている。
時刻は十時。ここより東にある大規模な街、『ジトラピア』で、二十日後の昼から五日間に渡って開催されるそう。
「これはね、世界中から腕自慢の狩人が集まって怪物と闘うっていう、シンプルな大会だよ。もともとは貴族様方の娯楽だったんだけど、今じゃ血に飢えた民衆のための一大イベントさ」
店主さんがサラッと言ったけど、その民衆たちの感性はどうなっているのだろうか。
「賞金もたんまり貰えるんだ、やるしかないだろ?」
賞金と言う名の釣針で、客引きの為にでかでかと書かれた「0《ゼロ》」が何個も付いた数字を指差して、俺に当大会の参加を詰め寄るアイシャ。
「……なあ、右下に『前大会死亡者数』ってのがあるんだけど。『出場は自己責任です。運営は一切の責任を負いません』って書いてあるんだけど」
「さあ? 記載ミスじゃね?」
俺はこの時、意地でも出場しない事を決意した。




