七十八話 転用あいてむ
「そうかカッカするんじゃないよド素人が、えぇ? この。どうせ田舎から出しゃばって来て、ツチアラシの捕獲方法なんぞ知らんクチだろ?」
「田舎から出しゃばって悪かったな。罵倒を含めた前置きばっかしてないで、単刀直入にことを言え」
眉間にシワを寄せつつ、変に自信たっぷりのアイシャに視線を送る。
腹立たしい事に、このシーンでこのモードのアイシャの脳内では、奇策がいくつか講じられている。
『その手があったか!』と、感嘆し崇め称えられるような得策もあれば、『ざっけんなテメェおい』といった、利己主義で他者を組み込ませず踏みにじるような、是非とも畜生道に堕ちて欲しい愚策もあるが。
果たして、鬼が出るか蛇が出るか。此度の俺の命運やいかに。
フフンと鼻を鳴らして、荷物を収納する革製のバッグから、楔帷子をジャラジャラ忙しく引っ張り出した。
「じゃじゃーん、コイツを使いまーす」
「なにそれ」
「貴族とかが、ペットの猛禽類を腕に乗せる時に使うアレ。コカトリスのツメと脚の握力が合わさっても皮膚に届かない優れ物だ」
「コカトリスを基準に出されても困るんだけど。俺、コカトリス知らん人間だから」
「後輩、人間だったのか……」
「は?」
この楔帷子は円柱状で、真ん中には腕を通せる穴が貫通している。正直、これを見た瞬間にギョッとした。
コカトリスはまぁ……鳥類なのだろう。
「さ、有無も言わず疑念も抱かず、貴様の利き手に装着したまえ」
「くっそ怪しいな……。ちなみに、これどこで手に入れた? 武具屋にも一般の道具屋にも、こんな奇抜な商品はなかっただろ?」
腕を通してもブカブカな穴から指先を出し、グッパしながら記憶を辿る。が、店頭取引されている物品の中で、見掛けたことは一度もない。
「そんなん、経路なんて一つだけだろ。ヒントはエルフの店主だ」
「さては盗んだな?」
「盗んだなんて、あたしゃそんなに信頼できんか。今回ばかりはちゃーんと取引成立させた正規購入者だぞ、言質はエルフに委託した」
「なんだ、それなら心配……んんー?」
盗品ではないらしいが、それはそれで別の疑問が浮上した。
無料の贈呈ではないので、当然のことながらお金は支払う。俺が気に留めたのはそこである。
コレは一体全体、いくらしたのだろう。
時折、(俺だけ)品出しを手伝っていると、お財布に優しくない粗品や骨董品がちらほら目に入る。
どこにでも流通している市販品は定価だが、稀に恐ろしい値段の品があるということだ。
つまり俺が言いたいのは、他店舗ではまず商品として仕入れない物を、何故仕入れ、アイシャは何故買ったのか。
これは余談だが、稀に、コレはなんだと質問しても、しらを切る品もある。その一日は、ちょっと不安感に襲われる。
「……アイシャ、それ、いくらでも買い取ったんだ?」
「気になりますよね? そのお値段、なんと三万ジル! 送料無料!」
「バカなの?」
「安心しろ。アタシじゃ払えなかったから、ローン組んどいた」
「バカだろ。俺ら、返済できる保証皆無なのに」
「よく考えてみろって。この依頼の報酬金は、個数換算じゃなくてグラム換算なんだぞ? そして報酬金は、グラム五千ジル。勝てます。圧勝です。大逆転優勝間違いなし」
賭け事好きは『勝てる』を呪いのように連呼するもんだ。
……そういえば、彼女はここに来る道中にこんな事をほざいていたな。
『ツチアラシ一匹につき、約五グラム採れる』と。借金返済には、二匹屠らなければならない。
見渡す限り、目の前にいるヤツ以外に別個体はいない。相当レアな生物なのではないか……?
けど、アイシャの見解通り、楽勝なのではなかろうか。
だが、これはあくまで仕事であり、俺たちは腐っても人間である。多くの利益を得られなければ気が済まない。
ほんっとにもう。コイツが余計な物買わなければ、もっと儲かるのに。
「つーわけで行ってこい。穴に手を突っ込んで一本釣りだ! 腕、もげるなよ!」
「見届けるんなら、不吉なこと言わないで欲しい……いや、お前もやるんだよ」
「それ一個しかねぇもん。……そんな顔で睨むな、引っ張るのは手伝ったる」
こうして、ツチアラシ釣りがやっと進展した。




