七十六話 自堕落パーティー
大変長らく期間が空きました。
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「金が足りねぇえ……。俺たちはただただ生活して、ただただ仕事して、ただただ食事で散財してるだけなのに……」
とある街角の、とある一軒の名を馳せぬ店舗。その一室には、机に突っ伏した若き男がいた。
財布代わりの巾着袋を開けば、こめかみを押さえて溜息を出すのみ。沈黙を破ったと思えば、下腹部がキュッと痛くなる一言を呟いた。
その名は、田舎から来た『ロイン』。凡人である。
「いやー何でだろうな後輩。私たちは普通に生活して、普通に仕事して、普通に食事で贅沢して散財してるだけなのにな」
同じ空間に、まるで心配もせず、そして興味なさげに応答する赤髪の美人さんが一人、壁にもたれ掛かっている。
本来ならば商売用に出品するであろう、瓶詰めされた植物のようなナニカの漬物を、しれっと盗み食いしている。デリカシーの欠片も常識もない。彼女の常識は、世間一般からみたら非常識なのである。
その名は、自由奔放の『アイシャ』。奇人である。
「だよな。オレらはいつも通り生きて、いつも通り働いて、いつも通り食事を豪華にして散財してるだけなんだがな」
打ちひしぐ男と向かい合い、机に肘をだらしなく置く、体色の赤い角付き大男が一人。
柄にもなく、何処から借りたか知れない分厚い本を熟読……いや、流し読みをしている。内容なんて二の次と言わんばかりに、文字で埋まったページを見ているだけ。絵のあるページに出会したら、一瞬だけ目が留まる。
肘の周辺には、乱雑に積み重なった雑誌が。
その名は、闘志滾る鬼人『ロンゴ』。異人である。
「そうですよね。私たちの生活は普段となんの変哲もない筈ですが、なぜか食事の時だけ出費が激しいんですよね」
二階、もとい屋根裏へと続く階段を陣取り、指先から小さな水玉を浮かばせて、不規則に浮遊させる、あからさまな銀髪暇人少女が一人。
虚ろな眼を、揺れる水玉の軌道に合わせて泳がせる。その様子を傍観していると、精神状態が心配になる。無心の境地に達すしているのだろうか。
その名は、異才の魔術師『セリス』。才人である。
「「「はぁぁ~~~~……」」」
「……いやね、君たち。分かってるなら直しなさいよ」
赤髪以外の三人が、嫌でも耳に届く大きさの溜息を吐くのに対し、冷静なツッコミを入れる金髪美女。
なんでこんな者共を招き入れてしまったのだと、心の底から後悔している御様子。蔑みの視線を四人に配り、その内の一人には、今にでも制裁を科してやろうかという眼差しを向ける。
その名は、雑貨屋の主『店主さん』。商人である。
「食事はオレら人間が生きるための生理現象、阻んではならない欲求なのだ。天地がひっくり返っても抗えねぇんだ」
「君は鬼人でしょう? 人間と偽るんじゃないよ。家賃払えないなら、里にお帰りなさい」
「そういうオメェは森人じゃねぇかよ。森に帰れってんだ……悪かった、その鈍器を降ろしてくれ」
異種族同士のいがみ合い。血が流れる騒ぎに発展しそうだったが、早くも決着がついた。
……またもや、沈黙が訪れた。『家賃』という単語に焦燥感を覚えたのもあるが、刺激の無い一日が繰り返されているので脱力感が半端ない。
やっている仕事といえば、雑用やら採取やらの依頼。のらりくらりと一日数回は達成しているが、それでもお金が……お金が……。
「そもそもだね君たち! この部屋は立派な店内なんだから、ここでくつろぐのは止めて貰えないかな! 迷惑してるんだよこっちは! 客足は遠のくし、来たと思えば君たちを見て静かに帰っちゃうし! 疫病神か君たちは! 先週から家賃払ってないし! ……アイシャ! 今食べてるものの代金は貰うからね!」
「へーい」
きいているだけで、こころがいたい。
流石にこのままだと、ただのクズ人間になりかねない。店主さんは血相を変えて憤慨しているし、こちらとしても、危機感は感じすぎて胃腸が不調気味だ。
現状では、地位と『闇鍋パーティー』の名が廃る。
「ロインくん! リーダーなんだから、君がしっかりしてくれよ!」
……なれば、我々がするべき義務はたった一つ。我が命を惜しまず、身を犠牲にして金を手に入れること。
そのためには、危険度の高い依頼を請けるしかない。今まで通り、報酬金の少ない依頼をチマチマやっても、所持金は減る一方なのだ。
「……よし。依頼、請けに行くぞ」
意を決して巾着袋の口を縛り、ガシッと掴み取って席を立つ。
「おいおい……一人で行くつもりか? 何処へ行こうとオレらは戦友、死ぬときも一緒だぜ……?」
向かいに座るロンゴがイケメンな顔をしながら本を閉じ、キザな台詞を放って立ち上がった。
「へっ……面白くなりそうじゃねぇか。いっちょ、暴れてやろうかね。私の邪魔はしないでくれよな」
澄ました顔で瓶の蓋を閉め、商品棚に戻したアイシャは、この流れに乗って即興の台詞を述べた。
「私を忘れてもらっては困りますね。どんな時でも、魔法を使って導いてあげますよ」
光を取り戻したセリスが水玉を掴み取り、凛として自信に満ち溢れた表情で力強く身を起こした。
「お前たち……っ! さあ、行くぞ! 準備はいいか!」
「ああ!」「おうよ!」「はい!」
勇ましく、そして逞しく、彼らは戦場へと向かった。立ちはだかる壁を前にしても、どんな困難に直面しても、彼らの闘争心は燃え滾るだろう。
進め、若き冒険者よ。その一歩は、世界が始まる、雄大な足跡となるだろう。
「……………………」
寂しくドアが閉められ、一人残された森人の子。突然の寸劇に唖然とし、僅かに開いた口が塞がらない。
密度が高かった一室は、心なしか広々としているように錯覚してしまう。
……あんなにやる気があるなら、最初からやればよかったんじゃないのか……。
そう心の中で突っかかりながらも、平穏を取り戻した自分の家に安堵する。
闇鍋パーティー一行が出て行ったドアに焦点を当てる。
ふと、その横の壁紙に目をやると。
「あ……そういえば、もうこんな時期でしたね」
一際、大々的に描かれた竜の紋章と、『闘技大会開催!』の文字が荒々しい字体で書かれていた。




