七十二話 赤髪は何かを思いついたようです。
生ける砲台は四足歩行に戻り、強引に開拓した通路を目指してゆっくり進み始めた。
『大地』が楽々と入場出来る大海への近道は、報復と言える火球により焼け野原へと改悪された。
「主力の兵器が……全部壊れちまった……」
「これもう無理だろ……好調だったのに……」
「あんなの聞いてねぇって! 隠し球持ってるなんてよお!」
『大地』の本気を体感した冒険者は、次々と弱音を吐いて戦意が減退していく。兵器は全滅、人員は窶れ、頭の中で反復するのは溜息と強者の足音のみであった。
「……っふおぉぅい、やっと登れたぜぇ……。急に爆発したときは流石に驚いたな! ガッハッハ!」
重い雰囲気の中、空気を読めない鬼人が陽気に参上した。場違いな発言と高らかな笑い声に、複数の冒険者たちは非難の目を向ける。
俺もその中の一人。パーティーメンバーという肩書きもあって、より鋭い眼光を飛ばす。
「……皆々、ご苦労であった。貴様らの抗いは決して徒労ではない。時間稼ぎの甲斐もあり、住民の避難は完遂された。暫くは復興作業で忙しくなるが、協力を願おう」
司令官の隣にいたギルドマスターが、冒険者一同に励ましの言葉と、先を見据えて今後の予定を言い渡した。
打ちひしがれる彼らは、聞こえているかすら怪しい。
「……ギルドマスター」
銀髪を揺らして、セリスがギルドマスターに語り掛けた。
「まだ、魔法班が残っています。まだ魔法を使ってないので、魔力が有り余っている筈です! 勿論、私も加わります! 射程圏に入ってから一斉に発動すれば……」
「駄目だ。たとえ貴様の体調や精神が優れているとしても、他の者は違う。先程の火球により、軽いパニック状態になり精神が不安定になった者が続出している。それに、彼らには荷が重すぎる。過度なプレッシャーを与え、無理強いをするのは御法度だ」
「そ……そうですけど……」
「貴様も見たであろう? 名を明かさぬ森人が持参した兵器……大砲の何倍もの威力を発揮する凶器だ。それを何発当てても、ヤツに重傷を負わせることが出来なかった。魔法使いには悪いが、全く歯が立たないだろう」
有効打は皆無。陽気だったロンゴからも笑顔は消え失せ、事の深刻さが感じ取れる。
……何か、何か対抗策はないのか?
起死回生の一手は……。城壁は崩壊したが、民家は原形を留めており無事ではある。『大地』がこのまま直進すれば、なんとか無傷でいる建築物や道路、そしてエルメスの象徴であるエルメス城が踏み倒されてしまうだろう。
被害を最小限に抑えるには、いかにしてこれ以上の進行を止めるか、息の根を止めるしかない。とはいうものの、そのどちらも出来ないのだ。
「……ふんふん……んー……おぉ? ……おぉー……?」
「……どうしたアイシャ。そんな残骸見て頷いて、何してんだ?」
現実逃避でもしているのか、資源の運搬や物質の固定等に使用されたロープやシーツを商品感覚で目を通すアイシャ。
彼女に限って現実逃避はないと思う。もっともな理由があっての行動選択だろうけど、なんとも意図が読めない行動をするものだ。
「ふっ……やっぱ私って、閃きの才能が隠しきれないわ。なあ後輩、最高にすんばらしいアイデアが浮かんできた。もしかしたら、ヤツを追い返せるかもしれんぞ?」
「……はぁ? そんな雑貨品で何ができるんだ? 流石に冗談がキツいぞ」
疑心を宿す俺を尻目にアイシャはフフンと鼻を鳴らして、
「おい銀髪。今からとち狂った風魔法使えるか?」
「えっ……まあ、はい。一回でも使ったら限界が来ますけど……無駄足掻きだと思いますよ? 私の風魔法がいくら強力だとはいえ、『大地』にとっては穏やかな微風レベルでしょうけど……それと、とち狂ってませ」
「なあオーガ、とち狂った風魔法使えるだろ?」
「おうよ。調子が乗ってきてっから、今なら劇物並の魔法が撃てるぜ?」
得意気に力コブを作っているが、臭いのは誇らしくないからな。
「そりゃ好都合だ」
「えっ」「はい?」「あん?」
「お前、英雄になる気はないかね?」
……これから何が起こるのか、だいたいは読めた気がする。




