六十八話 離脱ときどき不発
─ロイン一行 (ロイン・セリス・ロンゴ)─
クエエエエッ!! クエエッ! クエエエエエッッ!!
「何やってるんですかロイン! 速くしてくださいよ!」
「うわあああ急かすな! ちょ、キャクチョウを鎮めろ! 綱が暴れて結び目が解けねぇんだよ! お前らも手伝っいててててて肉挟んだ! キツい!」
「誰かがキャクチョウを押さえないと、解けた途端に勝手に逃げちゃいますから!」
森人の愛らしさに和んだ城壁の雰囲気とは打って変わり、こちらは専ら危機的状況。冒険者や商人の運搬係が無事で助かった。
キャクチョウが野性に返らないように、必ず厳守すべき約束事。それは、地面に専用の杭を打ち、その杭とキャクチョウを綱で繋ぎ止めること。
彼らは運搬係として重要な役目を担っているので、逃がしてしまっては運営が黙っちゃいない。
俺は人間の製造物と激闘を繰り広げるが、進展は見られず。大地を揺るがす『大地』には慈悲は無く、刻々と迫って来る。
ズオォオン……ズオォオン……ズオォオン……
「こなくそー!」
「相棒、腰に短剣があるだろ? それを使うって手もあるんだがなぁ?」
ブチブチッ
「ん?」「へ?」
その手があったと顔を上げる前に、不可思議な、なにかが千切れる音が聞こえてきた。
「ってことでオレは先に行く! オメェら生きて戻ってこいよぉー!」
「えっ」「はい!?」
絶妙に腹が立つ口調で打開策を立案したロンゴ。彼は火薬を運搬したソリに腰を据え、手をひらひらと振りながら出荷されていく。
一心不乱に鋸の真似事をしている俺が見ない間に、力自慢の鬼人が試行した、人間離れした荒技。
銀髪の少女は、一部始終を目録していた。それは、実に鬼人らしい力任せの妙案。
怪鳥と杭を繋ぐ極太のロープ、それを荒々しく漢らしく、腕力と握力だけで断ったのである。
断面は粗面。用無しとなったロープは投げ出され、地面に刺さる杭と寂しく残された。
「ロンゴォ! お前絶対に許さんからな!」
「ロイン! 罵倒はいいですから私を逃がしてください!」
一人抜け駆けして、二匹の怪鳥の脚によって爽やかな笑顔で搬送される巨漢には、一握りの殺意が滲み出た。
一ミリたりとも役立ってない近接武器を購入した過去を思い出し、短剣を鞘から抜き出す。因みに、数日前にオーダーした新品。もう、武器を買い替えるのは何度目か……今までの剣は金の浪費だった。粗悪品を買ったのかもしれない。
いくら量産品だとしても安くはないんだぞこんちくしょー。
杭の部分で切ると、切除されたロープがキャクチョウの脚に引っかかる危険性があるため、付け根で斬る必要がある。
後ろ蹴りを喰らわないように、セリスがスタンバイする怪鳥の尾部に駆けつけ、銀色に光る刃で荒ぶるロープを叩く。
「いっ!?」
「どうしたんですか! 早くしてくださいよ! はよ!」
「なんだコレ全然切れねぇ! 刃毀れしてねぇ新品なのに不良品か!?」
血管を浮き出して、決して発達していない筋肉を膨張させて切り刻まんとする。俺の腕が悪いのか、武器そのものが欠陥品なのか定かではないが、鋸を扱うようにギコギコしても鉈のように叩いても、ちょっと解れるだけで切断出来そうにない。
ズオォオン……! ドオオォォオン……! ドオオォォオン!!
「セリース! 炎魔法で焼き切ってくれ!」
「残念ですが、さっきの攻防で使い果たしました!」
「うおおおおおおおお!!」
人間基準では距離があるが、一歩一歩が大幅な怪物にとっては微々たる距離。鈍間に見えるが、かなりのスピードで迫ってきている。
このままじゃ踏み潰されちまう!
崖っ縁に立たされ、摩擦熱で火が生まれそうな程に全力で刃を前後させる。
その成果もあり、やっとのことで一本のロープが切り離せた。
クエエェェェエエッ!!
「うわっ! ……ありがとうございまーす! ロインの事は忘れませーん……!」
「まだ死なねぇから! 縁起でも無いこと言うな!」
ロープが切れた瞬間に、猛ダッシュで消えていった。
「あとは……この二羽か」
クエエェェエッ!
一羽はロンゴを引き摺ったキャクチョウ、もう一羽は俺が乗って来たキャクチョウ。二匹を解放しなくちゃいけないのだが……
───────────────ッッ!!
ドゴオォォオン! ドゴオォォオン! ドゴオォォオン!
うーん、こりゃ厳しい。『大地』はもう目と鼻の先にいるよ。
超巨大な怪物は、全体像が判明出来ない程に接近している。
考えている時間が惜しいので、先ずは騎乗しない方の怪鳥から。
刃の角度か入れ方の違いなのか、今度はすんなりと切れてくれた。解き放たれた怪鳥は良好なスタートダッシュを切り、慌てふためきながら走っていった。
残るは一羽。俺はロープだけ切ってキャクチョウに乗らないなんて阿呆なヘマはしない策士なので、騎乗して片手で手綱を握り締めてからロープを切る。
ドゴオォォオン! ドゴオォォオン!
「急げえええぇぇぇえ!!」
片手なので、そりゃあ切りにくい。
ドゴオォォオン!
「ひいっ!?」
すぐ後ろに大木が落下してきた。いや、正しくは脚であるが。
『大地』の感覚で、あと一寸前に脚を下ろしていたら、俺は粉微塵になっていた。
この鞭によって拍車が掛かり、極度の焦心と恐怖心で加速した短剣の前後運動。死にたくない一心で命を燃やす。
「切れろって早く! ぬおおぉぉぉぉおお!!」
ブチッ
「いよっしゃ……つおっ!?」
クエエェェエッ!!
命辛々緊急脱出。今度は謎の奇行ではなく、理由ありきの馬鹿げた速度。この生物の体力は無限大ではないかと錯覚してしまう。
背後では、破壊行為が行われているような鳴動が等間隔で聞こえる。
乗ってるキャクチョウが優秀な個体なのか、先行したセリスに追いつきそう。
追いついた。
「あっロイン! 生きていたんですね!」
「セリスはそんな事言う人間じゃないと信じてたんだが! ところで質問がある!」
「なんですか! って速いですねロイン! 置いてかないで!」
今、一つだけ不安な事がある。
「火薬、爆発してねぇよな!?」
「た……確かに、言われてみれば爆発音がしませんね!? だからなんだと言うんですか! 私は溶岩に飛び込む真似はしませんよ!」
これは……非常に不味い事態になってしまった……!
この一手で勝敗が決まると豪語しても、街の存続が掛かっていると言っても過言ではない。その術計が不発に終わってしまうなど、あってはならないのだ! それぐらいは俺でも分かっている。
だが、『大地』が地雷(未完成)の上を通り過ぎても、爆発していない。
怪物の大群が突っ込んで来た時に、火薬を一点に回収してしまい、火薬が散る範囲が少なくなったからだ。範囲が縮まれば、『大地』が歩いても踏んでくれる蓋然性が極端に低くなる。
セリスの言い分のように、たとえ『大地』の足下がガバガバだとしても、危険が危ない。
セリスの魔法で誘発させようにも、彼女曰く使えないらしい。
一体、どうすれば……!




