六十七話 恐るるに足らず、虚勢の軍隊
「また赤髪が変なことしてるな……付添いにいる娘って、もしかして森人か?」
「だな。あの耳は紛れもない。噂とか週刊誌とかでしか見聞きしてねぇが、相当な美人じゃね? 百聞は一見にしかずとは言ったもんだな」
軍事を差し置いて、素性の知らない八方美人に目を奪われる男。気を緩めているが、ここは既に戦場なわけで。
「魔法班、攻撃開始! 敵陣の進路を狙え! ……貴様ら! 井戸端会議に乗じる暇があるなら、目前の戦に集中しろ!」
野太い声で指揮を執る現場監督に叱られる。
怒りを露わにした統率者の攻撃合図が送られ、各魔法使いによる、力を最大限までに溜めた魔法が対峙する集団へ迸る。
セリスが扱える、土魔法と筋力増強魔法以外が一斉に射出された。
彩色豊かでド派手な演出であるが、魔法の操作性が難点らしく、何十人もいる内の指で数える程度は狙った位置に標準を定められない。
指示通りに最前線を狙うも、集団の密集地に迷い込む。とは言え、効果は抜群であるが。
司令官が、魔法を怪物に当てないよう要請したのにはとある理由が。
それは怪物の大量虐殺を防ぐためにあった。下手したらこちら側が壊滅状態になりかねないが、堅い条例もあるが故に避けるべき問題なのだ。あと後処理も大変。
命は奪わず難所を越えるのはハードルが高いが、不殺生を達成する方針で事を進めている。不可抗力の場合はしょうがなく仕留めるしかない。
非科学的な雨霰が猛威を振るい、火花や水飛沫を散らす。予告もなく生じた鮮烈な焼夷に泡を食い、先導を司る怪物どもは急停止あるいは撃沈。
生物による玉突き事故が多発し、ある怪物は下敷きにされ肉壁を形成する基盤となり、転んだ怪物を踏んでさらに転びという負の連鎖によって、呻く防壁が完成した。
「攻撃止め!」
「よっしゃあ! 進行を止めたぞ!」
「やるやん? こんな呆気なく終わるなんてな。見かけ倒しじゃん」
「この調子なら、目玉が来るまで兵器は保留でよさそうだな」
物足りない勝利で微妙な歓声が上あがる中、魔法の爆心地でモクモクと砂煙が舞い上がり、やがて砂塵が晴れる。
一連の禍乱によって頭が冷やされたのか、騒乱状態だった魑魅たちは一呼吸置き、難攻不落のエルメスではなく我が家とも言える森へ帰っていく個体も。
現地解散する逃亡者。放心したり負傷した怪物は立ち竦んでいる。
おー、思ってたよりあっさりと片が付いたな。エルフの武器いらねぇじゃん。なんで来たんだよ。
話題に取り上げられた女性二人はというと。
優美な顔を晒して街中を歩けば皆が振り返り、口説き落とそうとする輩も少なくないであろう数多の男性を魅了する美貌の持ち主は、兵器が横並びになる陣営の中央で、手引書無しで鉄製の武器を工作している。
そんな森人の助手となっているのは、街の有名人、赤髪ことアイシャである。何故赤髪が森人と交友関係を結んでいるのか甚だ疑問であるが、それを問うては鬼人がいる経緯も気になって仕方がない。
まあ、相手が相手なので、厄介事に絡まれるのも嫌だから尋問はしないが。触らぬ赤髪に祟りなし。
彼女もまた、鉄製の物体を組み立てている。
「これで合ってる? ていうかもう終わっ」
「うん! 合ってる合ってる。後はこれとソレを合体させて、と」
アイシャと店主さんがそれぞれ組み立てた、上部と下部。二つの鉄球を装填して、それをガチョンとドッキングすると……
「いやもう終わっ」
「完成! いつぞや闇市場で入札した、怪しい遺産の破壊力が楽しみだ!」
「お前……」
大砲に負けず劣らずのバズーカ砲が爆誕した。等身大の金属筒が合併し、人二人分の長さまで急成長を遂げた。
「アイシャさん、反動が凄まじいらしいから、しっかり押さえててね!」
「『らしい』ってなんだ。大丈夫? 急に爆発したりケツから弾出たりしない?」
「しない」
キャクチョウが速すぎたのか、未だに小さな怪物たち目掛けて、発射口が太陽光を反射させた。
「それじゃあ、いっちょ派手にいきますか……あれ?」
「……盛り上がってるとこ悪いけどな、もう終わったぞ」
何かに没頭していると、周りが見えなくなる店主さん。快進撃への決め台詞を吐いたものの、討つべき獲物は即時退散。
醒めた冒険者は、揚々とした森人に羞恥、店主さんには慚愧が残る。
寒々とした空気に包まれ、森人は顔を火照らせ赤らめた。
「……そういうのは早く行ってよ!」




