六十六話 第一波迎撃用意
報告を忘れていました。
暫く諸事情により二日に一回のペースで投稿します。
─エルメス城城壁─
「……おっ、誰かこっちに向かってくるぞ?」
「確か雑用係が何かぼやいてただろ、『キャクチョウがうんたらかんたら』って。ソイツらが帰ってきたんだろ。偵察役でも引き受けたんじゃねぇの?」
「んなわけあるか、そしたら観測船の存在意義が薄れるだろうが。どうせ集会所側の入り用だろ? お偉い様の考えなんか、考えても考えるだけ無駄だな」
「今の文、ちょっと頭が混乱するな。何て言った?」
「余計なことに首を突っ込まなくていいからな」
右目を瞑って単眼鏡を覗く男が、ずっと奥に何かを見つけた。裸眼だったら認識なんて到底出来ない遠距離に、見慣れた怪鳥と不特定の騎手がいる。
この男が盗み聞きした会話が正しければ、『キャクチョウに乗った四人と、引き回された一人』の計五人が遠征した筈だが……帰還したのは二名のみ。
空気を穿つ鉄が装填された、黒光りするご立派な大砲。肉壁を断つ矛が装填された、木材と金具で造られたバリスタ。
不備無し、不良無し。兵器が完備され、やや浮かれた雰囲気の冒険者諸君。
親しい友人間や初対面の同業者との交流を深め、恐れるべき『大地』そっちのけで和気藹々《わきあいあい》とまったり時間。
興味本位で単眼鏡を寄こせと強請った男に、円筒状の器具をぶっきら棒に渡す。受け取った男も同じように右目を瞑って覗く。
「おー、アレか。……なあ、キャクチョウに乗ってる片方ってアイシャじゃね? 赤髪なんて少数派だから、アイツ目立つな」
「すぐ判別出来るもんな。お陰様でヤツを避けて通れるんだけども……アイシャ(仮)の隣にいる人、何か訴えてね? 全然声が届いてないんだが」
「門を開けろ~とか、そんな感じ……じゃねぇな。俺には分かる、あれは警告だな」
「根拠はどこにあるん? がせ流さない確証あんの? 嘘吐いたらそれなりの報復を受けてもらうが」
「ごめんやっぱ分からねぇわ。……ん? んん~?」
「どした、拡大して胸元でも見てんのか? 破廉恥め」
「は? 死ねよバカ。いやなんか、目に狂いがなけりゃ大量の怪物が向かってくるんだが───」
「皆様! 怪物の軍勢が押し寄せてきます!」
「聞こえただろう、昼休みは終わりだ! 予定は狂ったが、怪物どもを迎撃する。魔法班は配置につき魔法の発動準備、バリスタ及び大砲班は指示に備えろ!」
観測船から時間差で通達された、狂瀾怒涛の大行列。
現場は急変、予期せぬ来客に応急処置を促す。各自、作戦通りに持ち場について、荒波に抗う意志を示した。
大慌てで忙しい上部に次いで、流離いの放浪者を迎え入れるために城門を開く警備員。お勤めだとしても、身分確認なんてする暇は有るわけないので、風を巻き起こして走り抜ける二羽の来場を許した。
残像が門を潜った直後に、落とし格子を急降下させた。実に扱いが荒い門番である。
「君たち……は……」
警備員が呼び止めようとするも、二つの影は速度を保ったまま石畳を駆け、大通りを凱旋していった。
クエエエエッ
「で、こっからどうすんだ? 秘策があるって話だけど、おさらばドロンでもするの?」
「ちがわい! 私の店で、埃を被った非売品を取りに行く!」
もっと具体的に教えて欲しいんだが。そんな遠回しに言わなくてもいいじゃん。
城門から店主さんの雑貨屋まで徒歩十数分の距離を、一分経たずで完走し、脇道へ身を潜める。
その裏路地の一角には、店主さんと四人が巡り会った終点が。どんな佳境でも、寂寥たる店構えは恒久である。
「ほら、私の部屋に入ってアイシャさんも手伝って! 結構重いから」
「へいへい、お邪魔しますよ」
私が何度か潜入を試みて、その全てが未遂に終わった店主さんのマイルームにこんな易々と招待されるとは思わなかった。日頃は頑なに断固拒否するくせに。
朝起きれば必ず映る店内の奥、店主さんの部屋に例の非売品があるらしい。
私が禁足地を拝んでいると、森人は床板をパカッと開け、金目の物が管理されていそうな蝦蟇口の鞄を引っ張り出した。
お? なんかいかにもなアイテムだな……。床下に色々溜め込んでそうだから、今度漁ってみるか。臍繰り金とかありそうだし。
邪念が過る私を他所に、銀色に反射する機器のパーツ? を点検する店主さん。それぞれの部品を接合して組み立てる……武器かコレ? コンパクトサイズの大砲みたいだな。コンパクトと言っても、人の背丈程はある。
握り拳より大きな銃口。それに見合った、ゴツくて太い銃身。初めて見た形状だが、何処がどう繋がるのかは予想が出来る。
加えて、砲弾のような鉛球が六発分。砲丸投げとかで使えそう。
これは……面白そうじゃん。
「コイツで蹴散らすのか。まあ取り敢えず、戦うなら早くしろ。悠長に愛でてる時間は無いだろ?」
「うんうん、部品に欠損無し! それじゃ、年季が入った不人気な逸品の晴れ舞台へ! はい、そっち持って!」
「りょーかい……うわ重っ」
こんな楽しそうな玩具を見せられると、女の私であろうとワクワク感が止まらない。
「なあなあ、これってキャクチョウに乗せれる?」
「…………分割すればいける!」




