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これから始まる英雄譚! ~俺らの異常な冒険者スタイル~  作者: 丸々。
第四章 [其れは生命、大地の化身]
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六十五話 轟く大地、歩む生命。

 メインディッシュ前の前菜、第一波の刺客が群を為して猛進してきた。

 本来ならば森林に潜み光を拒む怪物や、一族一丸となっての団体行動をする怪物など、生活圏を越えて大狂乱な逃走劇が幕を開けた。

 

 共通の追っ手がいる以上、草食も肉食も関係なし。我が身を護るためには走るだけ。飛び抜けて素早い種族もいれば、鈍足で不遇な種族もいる。


「やっべぇ、私は先に逃げとくわ。君に決めたそいやー!」

「アイシャちょっと待───」

「私も先においとましますね! 武器の一つも装備してませんので悪しからず! キャクチョウ、一羽借りるから!」

「うえぁあ店主さんまで!?」


 赤髪は恒例行事だったが、店主さんまでもが戦線離脱してしまった。俺が声を張る前に、立ち竦む怪鳥へ騎乗した彼女らは、迷わず悔いなく躊躇ためらわず皆が迎えるエルメスへと走り去った。

 最低でもアイシャだけは確保しておきたかったが、華麗な身のこなしで避けられた。


「がーんばーれよおぉぉぉ……───」

「ご武運をおぉぉぉぉ……───」

「アイシャは帰るな! 戻ってこい!」


 流石はキャクチョウ。あっという間に米粒サイズまで離れてしまった。

 捕縛から解放されたキャクチョウは騎手の命令を待ちきれずに、大軍の進行方向、つまりエルメスへ全力疾走した。

 キャクチョウの健脚は百鬼夜行の怪物、陸上生物より群を抜いての迅速なので、追いつかれることはなかろう。


「相棒、オレらも避難するぞ! オレはソリに乗る!」

「ああくそう……今回ばかりは賛成だ!」

「ちょっと! みなさん待ってください!」


 敵前逃亡に待ったをかけたセリス。その心は


「ニトロ石だけでも守らないと爆発してしまいます! 今までの苦労が台無し、全てが無駄骨に! もう、三人で死守しますよ!」


 生命ではなく、資源の護衛をするためである。

 一ヶ月前から公募されていた前準備は、これからご尊顔するであろう『大地』へのおもてなしに向けてだ。

 俺たちが手間暇かけて採取したニトロ石は、こんな小者を一網打尽にするお飯事ままごとの為ではない。


「合点承知! 敵に背を向けるなんて鬼人オーガの恥よ!」


 情緒不安定かこの鬼人オーガ。言葉に一貫性が何もない、言葉の羅列が酷い。脊髄で喋ってんじゃねぇか?


「ここにいても俺は何も出来ないが!?」

「火薬を私たちの真後ろにまとめてください! それぐらい出来ますよね! 怪物は私とロンゴで退けます!」


 少々の怒気が孕まれたセリスの声に気圧されながら、自分がやるべきお勤めを果たす。

 店主さんが置いてった愛車にぐるまを運用して、埋めかけのニトロ石やら火薬しょうひんやらを、焦りながらも慎重に積む。

 土が混入しているが、まあ気に留めることではない。


ドドドドドドドドドドドド!!!

「ロンゴ! 迎え撃ちますよ!」

「あいよぉ小娘! オレ様の魔法が火を噴くぜ!」

────────────────ッッ!!!

 

 地面を揺さぶる轟音と振動。そして数多の雄叫びが複合された冥界の呼び声が、風と共に轟々と押し寄せてきた。


 勇敢な人間と鬼人オーガの腕には、半透明で妖美なオーラが溢れている。人知を超える超常現象、不可能を可能にする奇天烈な能力。それが、彼、彼女がお披露目する魔法なのだ!


「せえええええい!」

「オッルゥアア!!」

「ひいぃぃぃいいい!!」

 

 秀でた特技も能力も無い俺は、積みきれない瓶やニトロ石を我が子のように匿って、視界の両端を遮る皮膚や鱗に圧倒されながら悲鳴を上げる。

 普段は人畜無害な怪物でも、時には猛獣となる事を身体で覚えた決定的瞬間。


グルゥオオウ!!

「ぬあっヤベッ!」


 前衛では、ロンゴが噴出した汚染物質に直撃した怪物が、鼻につんざく激臭に悶絶して気絶する事から劣勢が始まっていた。


「ちょ、ロンゴ! その下品な魔法禁止! 無償の力技で押しやってくださいよ! 独活の大木! ハゲ!」

「ぶほあっ! ……っしゃーねーだろ! 範囲も広いし使い勝手がいいんだからよぉ! 小娘も雑言吐いてねぇで撃ちまくぬぐぅ!?」


 不幸にも濁色の魔法に蝕まれた、全長四メートル程の猪と狼を足した外見をした怪物は意識朦朧。身体機能が停止した瞬間に足を取られ、助走を乗せたまま鬼人オーガへとスライディングタックルした。

 自分が播いた種を咄嗟に受け止めたものの、視野と両手両足が制限されてしまった。


 何故だか苛立ちを覚え、沸点に達した怒髪の銀髪。見かけに反して、弱々しい脆弱な声のハゲ頭。とりあえず俺は身動き不可なので、口論を小耳にはさんで状況を想像する。


ドドドドドドドドドドドドドドド!!!

「……っ! ま、まずいです……力が抜けてきました……」

「この猪野郎、横に流せねぇ! このままじゃ潰れちまう!」


 どうやら危機的状況の様子。これは非常に困った。

 俺にも特殊能力があったらなぁ!


 どうするもこうするも、俺の使命は火薬のお守り。それは依然として変化無し。


「二人とも、なんとか持ち堪えてくれ! ……そうだ、帰ったら何でも奢ってやる! ここが踏ん張り処だ!」


 俺にも出来る支援は鼓舞だけ。これで火事場の底力が湧くとは思えないが、なにもコンタクトを取らないよりは数段マシだ。


「そうは、言われても……っあ!」

「ぬぉおっ!? っせいやあ!」


 頭と腹に響く騒音が途端に止んだ。嵐は過ぎたようだ。

 セリスはへなへなと膝から崩れ、ロンゴは防いでいた怪物を右へ倒した。彼の足下を見ると、爪先立ちで押し負けて、地面がえぐられた跡があった。


「や……やったあ! 疲れ……た……」

「ふぃー、ま、ざっとこんなもんよ! がっはっはっ……は?」

「大丈夫か二人とも? 怪我とか……して……」


ズオォンz────ズオォン────ズオォン─────。


 安心も束の間であった。

 種族の壁を超越した軍団の果て。乱流に呑まれ、抜け出す先にそびえる赤黒い山肌。


 それは大地を装う、無量の地脈。それは大地を背負う、広大な地盤。それは大地を揺るがす、無類の生命。

 生きる霊山か、生きる霊峰か。神たる覇気にひざまずく者が総て。神たる威厳に叛逆はんぎゃくする愚者はおらず。

 永遠の眠りより目覚める地母神。無礼が過ぎれば太古の怒りが地を統べる。大地の胎動は大地の循環。生ある者の統括者。岩窟に潜める、膨大な者。


 ───其れは生命。大地の化身。



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