六十四話 出で来るは、跋扈たる旋風
「なぁなぁ、わざわざスコップで穴掘って埋めるより、小娘の泥魔法の泥濘に落としゃよくねぇか? そうすりゃ疲れずにパッパと終わんのによ」
「アホかお前は。んなことしたら火薬がオシャカになっちまうだろ。スポンジ脳味噌で少しは考えろ」
「待てよ? スポンジっつーことは、容量が多くて吸収が速いってことじゃね? やっぱ天才だわオレって」
「幸せな思考回路してんなコイツ」
アイシャとロンゴは平常運転。鬼人の進歩といえば、煽りにめげずに長所として捉える方法を講じたこと。偏屈で関わり辛い人柄へと改悪されてしまった。今のやりとりが特別という線も否めないが。
熱心にスコップを脚で刺し、てこの原理を流用して土を盛り上げて穴を掘る。なんとも退屈で面倒で栄えのない労働だこと。こんなことやるんだったら、もっと人手を借りて効率化すればいいのに。
「コラそこ、手ぇ動かして真面目にやれ。鬼人は体力にも自信があるんだろ? セリスと店主さんを見習え」
「だけどな相棒、オレぁもっと大胆に、そして豪快にやらなきゃつまらんのだよ。こんなチマチマやって何が楽しいんだか」
「そうだぜ? 相棒?」
「うるせぇ、やれ」
亀のようなローペースでサボる二人組に何を言っても無意味だろう。此度の戦が終結して無事に生還出来たら、二人を解雇しよう。もっと騎士道精神の教養を受け、誠心誠意が込められた人材を雇いたい。そこまで高望みせずとも、一般的な趣旨、思案、発言をする人と出会いたい。
アイシャはいざという時にイケメン化するが、一目散に退場するか人徳廃れた狼藉者となる場合が大概。なんだこいつ。
ロンゴは頓珍漢。これに尽きる。あと木偶の坊辺りが適当か。超人ばりの怪力や濁色の魔法は強力なのだが、本人は発揮する気が無いしコントロールもする気がない。なんだこいつ。
「……そうえば店主さん、なんで火薬が足りないって分かったんだ? 実は集会所の関係者だったりする?」
全く関連性のない話を振る行為は無駄口と言えば該当するが、殺伐とした空気で作業を進めるのは面白くないため、気分転換として有効だ。
以上より、何の脈絡もなく店主さんに話題を振った。
「いやぁ、集会所とはこれっぽっちも縁はないよ? 私はしがない雑貨屋の店主だからね。……その聞き方だと、とうに忘れちゃったのかな?」
「何を? なんかあったっけ?」
俺は店主さん疑惑の目を向けると、彼女はこめかみをトントンと突く身振りをした。
この合図の意図は、『頭の違い』だとか『頭がイカレてる』とかの意味で活用されているが、今現在の俺と店主さんの間では示すものが違った。
「? ……あー、そういえば小細工されてたな。周りの会話も聞こえるなんて便利な───いや待て、盗聴器かコレ!? プライバシーの侵害か!?」
一獲千金のお祭りで抜け駆けした際に発覚した、唐突の仕様と告白。俺の意識が無い間に、店主さんは人間の中枢部である脳に悪戯をしたのだ。
悪戯といっても一発ネタではなく、永続的に寄生するたちの悪いもの。被験者の是非を問わずして、無断で仕組んだ人体実験。
「そんな心配しなくても大丈夫だよ、利用者が私なんだから。ちゃんと弁えてるし、全部筒抜けって訳でもないからね。私が必要としている時とか、安否の確認やらしか利用しないから、平気平気」
「機械を植え込んだんじゃないよな? これ取り除けないの?」
「魔法の類だから解除は出来るけど……会話相手も欲しいし、このままでいいんじゃないかな」
「そ、そうか……」
私生活に支障が出るのは明白。許容できたもんじゃないが、今後の動向を踏まえると『あってよかったお助け機能』として観点を変えて見れば、これはこれで良いと思える。
日夜監視されるのは頂けないが。俺にそんな性癖はない。
「おーい後輩! イチャついてないで働けやーい」
「ヒューヒュー!」
囃し立てるバカ二人は成敗しないと気が済まない。あの生意気な面に平手打ちしてみたい。
「……っはー、にしてもホントにやり甲斐が無ぇ。別に火薬が露出してたっていいだろ、絨毯みたいにすればよくねぇか?」
「狡い事考えてないで……いや、いいなそれ」
ニトロ石は衝撃が加わると爆発する。そして相手は超巨大と聞いた。
と、なるならば、杜撰な罠でも安易に引っかかるだろう。ニトロ石なら、デカい図体でちょっと踏んだだけで爆発するだろうし、等間隔に並べて連鎖爆発を起こせば、一極集中でなくともダメージに期待出来る。
討伐が目的ではないので、撃退だって構わない。爆音で脅かせば進路を変更して、街への直撃は防げるだろう。
店主さんの商品には粉末状の物もあったが、瓶ごと置いときゃ問題ないだろ。
「確かに、それだったら時間も掛かりませんし、何より楽ですね。作戦に影響は及ばないでしょうし、任務に背くかも知れませんが、賢明だと思います!」
「いたのか銀髪」
「喋ってなかっただけです!」
職場に革命的な案が検討され、会議せずとも採用された。
「じゃあ君たち、三分の二くらいはここに設置して、残りはもう一カ所に置いちゃおうか」
「おー」
そうと決まれば時間は有限。早速火薬を荷下ろす───その時。
クエェェエエエ!! クエェェエエ! クエッ!! クエエエェェェエ!! クルエエェェエエッ!! クエェッ! クエッ!!
七羽のキャクチョウが、共鳴するかのように大合唱を始めた。矢庭に喚く怪鳥は、近縁のナキムクロより声は抑え気味だが、七羽も集まれば耳が痛い。
「なんだぁ!? 急に騒ぎ立てやがってよぉ! 心臓に悪いわ!」
ロンゴが異種族に一喝するが、恐慌は治まらず。
これは不吉の兆しか、繋がれた杭を折る勢いで動乱する怪鳥。彼ら野性にしか感じ取れない超常現象が起こるのか、はたまた我々の手に負えない自然の災害が訪れるのか。
「っ! みなさん! アレを!」
否。幼気な少女が目にしたモノが、全てを物語っていた。
空を制し、地を制す波乱万丈。百鬼夜行の如く魑魅魍魎。
夜明けを畏れた焦心の嘶き。其れは大地より惑う者共。
即ち───
「大量の怪物が押し寄せてきます!!」
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