六十一話 作戦、準備
太く小綺麗な人指し指を立てた。
「一つ。今から一ヶ月ほど前から告知していた通り、『大地』が姿を現した。それについては周知の事実だろうから、詳細は省くとしよう」
静聴していた冒険者たちが小声でざわつく。
「そこで、貴様ら冒険者に仕事を任せたい。魔法使いは遠距離での一斉攻撃、その他の戦力は兵器の利用、その支援をしてもらう。一部人材を選抜して、ニトロ石を使用した地雷も仕掛ける。微量だが、足止めを食わせるくらいは出来るだろう。指示については後ほど」
未だに私語は止まず。濃霧を切り裂くかのように、人指し指に続いて中指を立てたギルドマスターが声を張る。
「二つ。以前から、集会所より要請された資源の調達。これを請けた者は僅か七名。二つのパーティーしか請けていない。どういうことだ」
この問い質しにざわつく者はおらず、依頼に参加した俺とデクトのパーティーも含めて体裁が悪そうにした。
さらに薬指を立たせ、声色を変えて言い放った。
「三つ。これを機に問おう。某日、莫大な魔力を検知し、生活に支障が生じた事件はご存知だろう。その発生源がエルメス城付近の浜辺である事が判明した」
…………ん?
「現場の調査をしたところ、新種の怪物を確認したと同時にセイレーンの死体、血痕を発見。身に覚えのある者、そのパーティーはここぬに残るように」
またもや騒然とする集会所。犯人探しをする冒険者たちは、自分の目撃談をでっち上げては否定されを繰り返している。
今なら……
『……なあセリス。コレ、俺とお前だよな……?』
『はい……海岸に用事がある人なんて、他に誰一人いませんよ』
『なんだ後輩、お前が犯人か? 大人しく自首しとけ、財産は預かってやるから心配するな』
『少しは擁護しようとは思わないのか? 一応言っとくが、連帯責任だからな。お前も同行するんだぞ?』
『相棒、黙っときゃバレねぇって。調査されたっつっても、断定まではされてねぇだろ?』
『それだ』
俺は名案だと言わんばかりに、ロンゴを指差す。
時効になるまで口をつぐめればいい。罪悪感が纏わり付く呪いを背負うことになるが、致し方な───
「先に言っておくが、個人の特定は完遂している。真っ正直に来ることを勧めよう」
終わった。どんな処罰が為されるか楽しみだよチクショウ。
『因果応報とはこの事だな、後輩。迷惑掛けるんだから、私らにも罪を償えよ』
顔面蒼白で青筋が立つ。後悔の波が心を浸食した。
「以上! 諸君、城壁周辺に向かえ!」
オオオォォォオオオオォォォオ!!!
それぞれ特徴のある雄叫びが混合して、怪物のような咆哮と化した。一人残らず出入り口に駆け寄り、強引に扉を開張すると物凄い勢いで押し出されていった。
闇鍋? 闇鍋だな やっぱり闇鍋だったか 俺は知ってたぞ? 流石闇鍋としか言えないな 闇鍋…… また闇鍋パーティーか……
椅子に座っている、俺たちを除いて。
一向に動こうとしない四人一組を横目で、微妙に聞こえる捨て台詞を吐かれた。
一語一句頭にくるが、紛う事無き現行犯なので俯くしか出来ない。
つらい。
だだっ広い集会所内に佇むのは、ギルドマスターとその側近。そして通称闇鍋パーティー。
ギルドマスターの威圧感が半端ない。眼力だけで殺されそう。
「……貴様ら、『闇鍋パーティー』って呼ばれてるのか……さて、素直に居残ってくれたことはプラス点だ。だが、それはそれとして。貴様らの悪事については全て承知している」
「マジかよ変態じゃん」
「アイシャ黙れ」
変態呼ばわりされて、ちょっと困惑した顔を隠しきれないギルドマスター。
「……ストンロクスの誘導、被害者は気に留めていないが道具屋への恐喝行為、他パーティーの妨害行為、自然界に原因不明の悪臭を残留。謎の魔力検知……数え挙げたらきりが無い様々な非行。よく分かっているだろう?」
「……全部、俺のメンバーが取り乱した行為です。しっかり教育しておきますので───」
「ロイン。貴様、入国手続きをしていないだろう?」
…………。
「え、後輩お前……」
「ロイン、本当ですか?」
「…………本当、です…………」
何もかもお見通しじゃないか……っ!
「なに、投獄しようだなんて思ってはいない。貴様らの活躍ぶりには目を見張るものだ。聞けば、並ならぬ能力を有しているそうではないか」
「並ならぬっていうか、異質だけどな。オーガがいい例だ」
何故かロンゴが誇らしげな照れ顔になる。褒められてはいないんだがな。
「そんな貴様らに、特別任務を依頼する。拒否権はない。それでは───」
「ギルドマスターはいますか!」
ギルドマスターの言葉を遮って、開けっ放しの扉から若い女性の声が耳に届いた。それは、毎日聞いている声で、居候先で売買をしている人物の声に瓜二つ。
風が吹き入れる出入り口に目をやると、
「あ? 店主の嬢ちゃんじゃねぇか。どうしたってんだ、さっさと逃げねぇと危ねぇぞ?」
ロンゴが言ったように、耳が尖った一人の森人が息を切らせて立っていた。




