五十八話 乱入:糸絡めの隠者
「……しっかし、この粘っこいの本当にイライラするな。本体がいないだけマシかもしれんが……丁度、ランタンの火があるし焼き尽くしてやろうかぁあん?」
「どーどーアイシャ、早まるな。……とにかく、ちゃっちゃと終わらせて帰ろうか。セリスー、ロンゴー、そっちはどうだー?」
偵察の意味も交えて振り返り、二人の進捗度合いを査定する。
二人とも、集められるだけ集めていた。俺とアイシャより仕事してる。
「おいロンゴ、なんだそのニトロ石は。蜘蛛の巣を排除してから入れろ、『換金出来ません』ってなったら骨折り損だろ?」
「つっても、面倒いんだよ。オメェらと違って指が太ぇから、細かい処理が苦手なんでい」
杜撰な工程で積もったニトロ石。蜘蛛の体内で生成された糸がこびりついた石を詰めた袋の中は、顔を背けたくなるような有様だろう。
「擦って取ればいいじゃん」
「おお、確かにな!」
時既に遅し。ニトロ石って洗っても良いんだったら、後処理が楽なんだが。果たしてどうだろうか。
「私のリュック分は満杯です。……提案なんですが、早々に出ませんか? ここ、いるだけで気味悪いですし。それになんか……視線も感じます。なんなら、先に帰っていいですか?」
「そんな事いうなよ銀髪、ある種の魔法の言葉なんだから。……ま、ぼちぼち引くか。こんくらいでいいだろ後輩? 充分の量だし、持ち帰る事も考慮したら妥当じゃねぇか?」
「そうだな。よし、足下には気をつけろよー」
「なんだ? お前らはもう帰るのか? だったら俺らも切り上げるか」
「りょーかい!」「おう」
離れた場所で、デクトが聞き耳を立てていた。なんだあいつ。さんざん忌み嫌ってた癖に、他人様の会話に横槍をいれてきて、同調までしてきて。
嫌いなのか嫌いじゃないのかハッキリしたらどうなんだ。
「蜘蛛の巣ばっかりだから怪物でも来ると踏んでいたが……最後まで怪物も事故もなかったな! ったく、ビビらせやがって。じゃあな闇鍋! 先に帰らせて貰うぜ!」
デクトがなんか、運命を左右させる発言を散らしているような……。
着実に、舞台が整い始めている。具体的には、ハチャメチャな展開に持ち越す舞台。
「……アイツら、無事には帰れねぇな」
アイシャが不吉なことを呟く。
「それじゃ、お先に失礼───」
トシュッ
何を思うより速く、彼女の予言が的中した。
悠長に、軽い足取りで退場しかけた男が天井に開通された闇の直下を過ぎたとき、喉まで出かかった声と共に質量ある白濁に押し潰された。
「「…………えっ……?」」
彼のメンバーは、奇想天外な珍事に呆然とした。俺たちも例外ではない。
たった一人を除いて。
「ようし撤退だ! ニトロ石を落とすなよ! ……おい後輩、離せ。私の引き止めに勤しむんだったら、さっさと助けてやれよ」
「お前も助けるんだよ! セリス、何があっても炎魔法は使用禁止な!」
努々、自身の尊重を念頭から離さぬ生粋の放漫娘、赤髪。逃がさぬよう、彼女が背負っているリュックを握った。
「……っ! 上だ! あの穴にナニカがいるぞ!」
「デクト、まだ息ある!? 今、ナイフで斬るから動かないで……ああもう! 全然斬れない!」
仲間を第一に考えて、適切な行動を起こすデクト一行。役割分担が為され、善処する姿勢には関心する。
……っと、そんな場合ではない! 俺も戦闘準備しなくては!
「全員避けろ!」
トシュットシュットシュシュシュシュッ
常に穴を注視していたデリクスによる、緊迫した豪気が響き渡る。
「あっぶねぇ!」「うわぁっ!?」「ほいっと」「ボフッ!」
「きゃあっ!」「ぬぅ……っ!」「…………」
穴から注射器のような突起物が這い出たと思ったら、デクトを撃沈させた塊が乱射された。
……いや、全弾、確実に狙い撃ちしていたようだ。
ロンゴはただの不注意、デリクスはリマを庇って、その身体を封じられてしまった。鬼人と巨漢の二強が拘束され、戦力が大幅に減少。敵の情報が得られないまま、窮地に追い込まれた。
「うおっ!? なんだコレ、この糸硬ぇ!」
とぐろ巻きにされた鬼人が、顔だけを出しながら見舞われた糸を実況する。
「くそう……あそこに籠もられたら攻撃が届かねぇ……」
「魔法で何とかなりますかね? 撃ち落とせば落下ダメージも与えられますが」
「やめとけ銀髪、ミスったら全員あの世行きになる。大人しく様子見してれば、獲物を回収するために相手から出てくるはずだ───」
「───おっ?」
隣にあった赤い人影が、穴に向かって飛び立った。
ロンゴが一本釣りされたのだ。
「……まずいな、こりゃ一生降りてこねぇぞ。チキン戦法で祝杯を挙げようとしてやがる」
「どうやって助けましょうか? 私の魔法は禁止されましたが」
「えらく冷静だな二人とも……今は助かる人命を救うのが先か。デクト一行を手助けするぞ!」
「へーい」「はい!」
ピンチの筈なのに、取り乱さず肝が据わっている。
天井から怨霊のような恨み声がとぼとぼと聞こえる最中、真下を通らぬように迂回してリマの元へ。
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