小話 半落ち零れの憂鬱
『大地』の目覚めまで、残り十日───。
─集会所(ロイン、アイシャ、セリス、ロンゴ)─
大酒飲みが、昼間からどんちゃん騒ぎを起こす酒場。経済的な不自由はまだ尽きないのか、と横目にしながら贅沢無しの栄養を摂取する四人。
酒を喉に詰まらせればいいのに。
最近は、エルメス城周辺(と言っても半径数百キロメートル程)からの怪物被害が治まったのか、討伐依頼が激減している。
掲示板の隅々まで目を通しても採取やお遣い、または事業のバイト。報酬金は、はっきり言って微妙。採取なんて時間が掛かりすぎて、ぶっ通しで請けても日給の割には渋くなる。バイトもそうだ。討伐依頼の味を占めてしまった暁、もう元の体には戻れない。やるかやられるかの一発勝負でしか満足できない。
極めつけに、俺を含めた四人が生存出来る収入を得なければならないという呪縛。
家賃は破格の一泊一万ジル。飯も風呂も禁制にしても、合計で四万ジルは飛んでいく。
改めて考えた本当に呪縛だな。
俺らは生物の端くれなので、飲まず食わずは死に直結するのは周知の事実。
何が言いたいのかというと、討伐依頼以外では生活が苦しくなるということだ。
不景気だ。それなりに備蓄はあったものの、今では底が見え隠れしている。
「あー、楽に稼ぎてぇなぁ……」
「後輩が亜空筒を落とさなけりゃ、贅沢三昧だったのにな。地獄に堕ちろやカス」
「俺が悪いのは百も承知だけど、当たり強すぎじゃね?」
「そうですよ。いくら無能の出来損ないでも、もうちょっと柔らかく言ってあげてくださいよ」
「セリスも大概だけどね? フォローになってないよ?」
くそう。なんであの時、亜空筒を落としたかなぁ……。記憶から蘇る度に後悔に駆られてとても辛い。
「……あれ、請けてみるか? 報酬はまずまずだが、集会所からの依頼だし俺たちの株も上がるだろ」
そう言って、保身のために話題の切り替えた。他の依頼用紙と比較して一段と高品質で、いかにも待遇が良い紙を顎で指す。
内容は、『燃料の補給・納品』。随分と簡素な説明書きもあるが、読む気にはなれない。
「株も上がるって……ロインも発想がズレ始めてきましてね」
「そうかな……そうかもな。誰に毒されたかは目星ついてるけどな?」
「……あ? 私かよ。人格が変わるほど一緒にいた覚えはないけど?」
いや、一緒にいたら人格が変わる恐れがある事を自負してるのかよ。
「ま、性格が私に似通っても大歓迎よ。そん時は、片腕として過労死するまで働かせてやる。今もこれからも、私のために貢げ」
「いつまでたっても、高圧的な態度は更生しないんだな」
「見捨てる事もあるけどご愛敬」
「見捨てたらそれっきりだろうが馬鹿。愛敬もクソもあるか」
人を舐め腐り、勝ち誇った余裕顔でご飯を食べる。腹立つなコイツ。テーブルの下で、血が滲み出るまで強く拳を握った。
「……そういえば後輩、『大地』が活動を再開するって、知ってる?」
「知らん。……なぁ、最近よく耳にするけどさ、その『大地』ってなんだ? 怪物の俗名?」
毎日懲りずに、操り人形の如く依頼の制覇をしていた。ストーカー並に、初期の頃からお世話になっている受付嬢さんへ申告していれば、自然と世間話なんかが交えたりする。
彼女の会話からでも、一度だけ『大地』が主題の談話が。その時は、比喩無しで脳がパンクしてしまうと言っても過言ではないくらいに悩み詰めていたため、相槌の連発で言葉は右から左へ筒抜けになっていた。つまり覚えていない。
悩み詰めていた理由は言わずもがな、生計。
「大正解、よく出来たね偉い偉い。数十年前、エルメス城は『大地』に落城されかけたんだよねははは」
「……えっ、笑い事じゃなくね? それが復活するんだろ!?」
「そんで、その『大地』を太刀打ちするために火薬やらなんやらが必要だとさ。後輩とオーガがエルフの奴隷になってる間に、ギルマスの側近が言ってた。だけど、冒険者のお財布は見ての通りだろう? つまりそういうこと」
「危機感なさ過ぎだろここの連中」
「それで、あの依頼を請けるんですか? さんざん除外してきた[出来高制]との添え書きがありますけど……」
「訂正された跡があるけど、悪くはない報酬だし。下級の怪物退治をしたって、このラインナップじゃあ大した利益もないからな。異議はないか?」
「ない」「なし」「……」
アイシャ、セリスときてロンゴが返事する所だが、無言だった。
「オーガ? 異議あり?」
ロンゴはアイシャの問いかけに少々戸惑い、残り僅かになった肉料理を頬張った。
そして、喉仏を上下させながら口の物を呑み込んで、返答する。
「……すまん、飯食ってる時は喋らないもんでな」
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