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これから始まる英雄譚! ~俺らの異常な冒険者スタイル~  作者: 丸々。
第三章 [自然の摂理は波瀾万丈]
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小話 世界規模でやらかした

─隠れた雑貨屋─


「えっと……何かあったの? ぐったりし過ぎというか、元気がないというか……」


 『店主』こと私は、はひどく困惑していた。

 依頼に出掛けたロイン君とセリスさんは、いつにも増して額に青筋をたてていた。


 ロイン君は、労働後の疲れや運動後の疲れのように、筋肉を使って何かをした疲労感であった。

 セリスさんは……病院へ連れて行った方がいい。精神に何らかの異常があるようで、血色の悪い虚ろな感情しか表せていない。魔術か何かを仕組まれたのか、相手に何かをされたような疲労感であった。


 瞳孔どうこうが縮こまっているのは気のせいだろうか。


「店主さん、この本が原因なんだろうけど……もしかして。見覚え、ある?」


 ロイン君はそう言うと、一冊の異本を差し出した。禍々しいオーラを感じるこれは……どこか記憶の片隅に……


「……あっ!? これって『子供向けネクロノミコン』じゃんか! なんで持ってるの!?」


 何年も売れ残ってた禁書じゃん!


「ほらセリス、事情を言いなさい」

「これはその……言い忘れてましたが、モヒカンの人が店主さん宛に差し入れをくれまして……冷蔵庫に保管しなきゃと思って、店主さんの部屋に入ったんですよ……」

「え、入ったの? ……まあいいけどさ。ちゃんと理由はあるし」

「……それで、用事を済ませたらすぐ出るつもりだったんですが、その本に惹かれてしまって……」

「勝手に持ち出したと、そういう事か……」

「はい……」


 この子なりに配慮して、それでも招いた事態って事か。悪気なんて無いのは十分承知している。これ以上責め立てて負担を抱えさせるのは可哀想だし、この件は水に流そう。


「セリス、ただでさえ店主さんに迷惑掛けてるんだから、もっと自制をだな……」

「まあまあロイン君、そう言わないで、ね? 怪我をしなくて良かったし、他人を巻き込んだりしてないんでしょ? それなら、大目に見てあげなよ……」


 この本に記された呪文やら儀式やらには、本当に効力がある説が濃厚なんだけど……まさか、何らかの怪物の召喚に成功したとかは……ないか。そんな大事には至らなかったのが何よりの証拠だし───

 ───いや、あったな。そんな大事。しかも丁度、今日。


 街中にある、魔法が動力となる製品や機械が、同時刻に狂い始めた事件が。研究員たちが慌てふためき、民衆の間では天変地異の前触れかと噂が流れた。

 恐らくこの事変は、世界中に渡っているだろうと直感した。


 それ位の異常事態が、ロイン君とセリスさんが出勤した後に起きた。オーガクンとアイシャさんが真犯人という仮説も捨てきれないけど……私の悪い予感は、嫌なことに高確率で的中する。


「……一応聞くけど、ナニカの召喚に成功したとかは、ないよね?」


 ロイン君の顔は苦虫を噛み潰したように、セリスさんの顔は絶望に陥れられたように、あからさまな表情をした。

 ……成功、したんだね。


「憶測でしかないけど、その事は誰にも口外しない方が身のためだよ? ちょっとした怪事件があったんだけどね、ソレがなんか……関連性満載というか……」


 研究員たちは、まだ原因を把握していない筈だから……身柄を確保されることもないだろうし、監視されることもないと思うけど……慢心できないなぁ。


「あ、そうでした。店主さん、モヒカンの人が粉ミルクと哺乳瓶二個を請求してました」

「モヒカンの人……あぁ、あの人か。まだ在庫あったっけな……」

「粉ミルクは新しいもので、と言ってましたけど……」

「うっ……あの人、アレでも消費期限見てるのか……取り寄せるのも楽じゃないんだけどなぁ……」



─集会所本部─


 「……貴女あなたから此方こちらうかがったということは、余程の重要課題なのでしょうな」

「はい、そうですね。わたくしの予知でも感じ取れなかった、想定外の事様です」


 不変の対面方式。扉の前には女性警備員、中央の机にはギルドマスターと修道女。

 魔法の乱用を毛嫌いする彼女から来訪する珍事には、図太い精神をこしらえるギルドマスターでも、疑念が過る。我々には対処しきれない不穏が権現するのでは……


 ……などではなく、要件は聞かずとも熟知している。


 本日、街中が、世界中が恐れ慌てた。正体不明の奇々怪々。


 絶大な魔力が一瞬の内に世界を被い、魔法が関与する装置は悉くやられた。

 人間に限った話ではない。怪物たちの挙動までもが不可解になってしまった。現地での調査を行っていた研究員は、臨時的に帰省して異常性を報告してきた。


 これらが何を意味するか。

 

 端的に、極端に言えば、世界滅亡であろう。


「しかし、貴女の予知ならば事態の会得えとくが出来たでしょう?」

「私が見れるのは、そのままの未来(・・・・・・・)なのです。つまり今回の事変は、時空そのものが歪んだり、想定もされなかった、起こること事態が不可能であった事が実現してしまった、と考えるのが妥当でしょうかね」

「なるほど。全てにおいて、ワケが分からん。あまり難しい話をするな、ついて行けなくなるだろう?」

「どうやってギルドマスターになったんですか」

「専門外というワケだ、ルイシュよ」


 修道女は茶をすすり、ギルドマスターは席を立って腕組みをしながら窓の外を眺める。女性警備員は姿勢や表情を崩さず、二人を見守る。


「確か……」

「む? なんだね」

「確か、魔力の発生源については周辺機器が破損したために、特定する事が叶わないんでしたよね?」

「そうだな。困った事に、発生源が分からなければ、何がどうなって招かれた結果なのかすら闇の中だ」

わたくし、存じ上げますよ」

「……まじで? 嘘じゃない?」

「疑り深う人は嫌いですよ。……助言、と見做みなして頂ければ結構です。場所はエルメス城の臨海部、その外れにある砂浜(・・)です」

「あそこの砂浜だと? 面積も大したことない、平凡な?」


 修道女はニコッと笑うと、飲み干したコップを起いて静かに立ち上がる。


「これを境に、予期せぬ事態が連鎖するかも知れませんね。例えば、そう、『古の龍の再生』とか……ふふふ。伝えたいことは伝えたので、これでおいとましますね。ではまた」


 スタスタ……キィ……バタン


「いやいや、もうちょっと具体的に……行ってしまったか」


 寂しくなった部屋。ギルドマスターは寂しいのは好きじゃないので、話し相手を捜す習性がある。

 

「……ゲ」

「ケイルです。冗談抜きで訴えますよ。それと、たまに私語で会話するのを控えて下さい。無関係かも知れませんが、威厳がなくなります」

「分かった、次からは気をつけよう。……しかしだね、私は『ゲイルよ』『ケイルです』のやり取りが割かし気に入っているのだよ。一つのコミュニケーションとして、受け止めてくれないか?」

「はぁ……」


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