分担小話 相性抜群? 夢のタッグ?
暫しの緊張が奔る。人間の創作物のクセして、いかにして攻めるか計略を立てているのだろうか。カラクリらしく、躯を軋ませながら無策で飛び込んでくればいいものを。
それはそれで困るな。読めない動作が脅威になるから。
むさ苦しいギャラリーも、空気を読んでお口チャック。熱狂的だった野郎どもがピタッと静まり返る。
怪物は正面ではなく、横に右脚をゆっくり踏み込み、左脚をゆっくり踏み込む。機会を窺っているが、それはこっちも同じ事。
両者共に睨み合いて────
───────────!
先手打つは、機械生命体。接合部を険しく擦り合わせ、装甲をガラガラと靡かせ、虎のように跳躍した。
「よっと!」「うおっしゃ!」
挑戦者は迅速な判断で回避し、左右へ分別した。
アイシャは決して油断せず、何よりも防御に努めて盾を構えたが、ロンゴは横に大ジャンプしただけで受け身すらとれていなかった。
機械生命体の選択肢は二つ。厳つい生命体を殺めるか、授かった依り代に砂利を投げつけてきた挙げ句、負傷させた生命体を屠るか。
ターゲットは決めてある。守りに徹している者だ。
「チッ、こっちかよ!」
なるべく怪我を負いたくないんだが……。逃げ回っても、体格差によって相手が断然有利か。背を向ければ、あっという間に押し潰されるだろし。向き合いながら逃げても、私が転倒する。
となると、生存ルートは……張り付きか。
──────ッ!
「ほいっと!」
大地に窪みが出来上がる程の威力をみせる、豪腕による叩き付け。屈強な上半身全体を活かした技だが、隙だらけだ。
肉球を表現したかったのか、黒いゴム? が指の付け根に接着されていた。
これを防ぐなんて、軟弱な人類は試す事もなく無理だと分かるので、バックステップで凌ぐ。
「赤髪ー! クソ、赤髪がやられたか!」
「生きてるわ! お前を殺してやろうか!」
ギギギギ────ブォン!
「ゴヘェッ!」
「オーガーーー!! もっと役立つ肉壁になれって!」
尻尾の辺りで大声を出した鬼人を粛清。剣山のような針を逆立たせ、鞭のようにうねる尻尾を鬼人の脇腹にクリーンヒットさせた。
幸い、棘は上下に成長しているので刺さりはしなかったが……それでも激痛は走る走る。肋骨にヒビが入ったのではないかという、永続的に針で貫かれるような、そんな。
「仲間割れかよ! そんなことしてる暇はねぇぞ!」
「集中しろ!」
外野は本当にうるっせぇな! これが私らの『通常』なんだよ!
「余所見するな! くるぞネーチャン! 避けろぉ!」
怪物は退化した右翼を地面に落とし、地表面を削ぐように薙ぎ払った。
───今だ!
ありったけの脚力に物を言わせ、長縄を跳ぶように前方向へ飛翔。久しぶりに全力を出した。怪物の前腕を踏み台にして、上腕、肩、首筋、頭部へと駆け上る。
失敗、反撃覚悟のぶっつけ本番だったが、迷わず一気に攻略したため意外にも絶好調にいった。
あまりにも一瞬の出来事。赤髪の女性が跳んでから一秒も経っていないだろう。
私の秘めたる反射神経が解禁されたか。
騎乗されている事を愉快には感じない怪物は、精一杯の反抗をする。頭を上下左右に反復させては届かぬ後頭部を掻き毟る。
自滅する危険性を諸共せず、顔面を砂利に強打したりするも振り払えず。
難易度最大級のロデオ状態。ダメージを稼ぎ、希望は薄いが、あわよくば気絶を狙って何度も盾を振り下ろす。
「暴れんなって! ……おいオーガ! いつまで寝てんだよ! テメェが選んだ人形だろうが!」
「もう無理……骨、折れたかも知れねぇ……」
「天下無双のオーガだろ! 精神貧弱すぎじゃねぇか! ……うわっ!?」
なんでオーガを宥めなきゃならないんだ、と不満が残るも、急に上昇した頭部。角を掴んでいた手が滑り、そのまま宙に投げ出されるが……不時着したのは訓練施設ではなく蠢く甲板上。
鱗代わりに研磨された小粒の石がビッシリ装飾された、頑丈な胴体であった。
頭部よりかは揺れにくいので、しがみつきは維持できるが、なんせ取っ手が少ない。突き放されはしないが。傾れ落ちてしまう。
「おぁー……痛みが引いてきたな。……よしよし、うんうん、好調好調!」
呑気にヤブ医者のような自己健康診断を済ませ、笑顔が取り戻された鬼人。笑ってる場合じゃねえよ。
「お前、私を護る前提で挑んだだろうが! さっさと助けろ!」
「そうだったな! だが安心しろ! オレが復活したからにはもう───」
退場。周りが見えていないのか、白熱した演説を最後まで言い切りたかったのか。本人の意志はどうであれ、縦横無尽に暴走する無機質な躯に装着された丸太のような尾は、遠慮容赦なく、猛き者を風の前の塵のように舞い上がらせた。
爽やかだった、あの微笑み。非道の演舞の所業によって、阿修羅のような苦悶と成り果てた。
「ゴフッ……後は……任せた……ぜ……」
「アアアアアアアア! オーガテメェこの野郎! マジでいい加減にしろよお前!! 真正の役立たずか!?」
「もうやだ……生きてて何も良いことがない……」
ああ駄目だコレ! 致命的に覇気が無い! 慰めるまで復帰しない面倒なモードだ!
怒りというか呆れというか、この私が珍しくオーガにぶつけるべき無類の殺意が湧いた。コイツはもう廃棄処分してしまおうか。
「鬼人が脱落したぞ! これじゃぁ勝てねぇ!」
「あの鬼人がやられた! ネーチャン頑張れ! 持ち堪えろ!」
持ち堪えろったって限度があるわ! どうやって機能停止させるんだこのカラクリ!
……仕方ない。癪に障るが、オーガを慰めるか。
「オーガ! お前の力がないと突破出来ねぇんだ! お前だけが頼りなんだよ!」
「頼りにしてんなら暴言なんか吐かなかったろ……今更訂正しても意味ねぇよ……」
あはー、殴りてぇ。より一層屈辱的な面に変形させてぇ。
「だが……」
お?
「オレがいないと突破出来ねぇのは確かだな! このオレ様が手助けしてやろう!」
うーんなんだろうね。間違っちゃいないけど、ズレにズレている。
単純すぎて笑えるレベルの情緒で、面白いほど扱いやすいなコイツ。
「宣言する暇あったら殴るか蹴るかしろ! そして私を護れ!」
「合点承知! 征くぜええぇぇぇえええ!」
その後、怪物に囚われの姫を救出すべく、勇敢に立ち向かった鬼人の晴れ姿を見た者は、誰一人として居なかった。
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