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これから始まる英雄譚! ~俺らの異常な冒険者スタイル~  作者: 丸々。
第三章 [自然の摂理は波瀾万丈]
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五十三話 君臨せし、旧支配者よ

 追っ掛けられない獲物のことは、もう諦めよう。

 報酬が出なかったらどうしよう。あらゆる理由を思案して、この実情をなんとか正当化しようとする俺。乞食こじきではないのだが、姑息こそくな言いぶんが巡る巡る。


 数多のなかでも、天地がひっくり返る程の天才的発想が一つ浮かんだ。


 ───セイレーンのオスを討伐したから、チャラには出来まいか?


 手柄を立てたのは絶対王者っぽい巨大な捕食者だったが、これを俺の功績として偽装すれば……あわよくば追加報酬が貰えるかもしれん。


 ……まぁ、これは虚偽の達成報告として扱われ、処分されるよな。そもそも、オス個体の素材なんて剥ぎ取れてないし。


 おとなしくセイレーンの尾ヒレを捌き、まとめて袋に入れる。

 集会所に報告する時、個体の活用をする為に遺体現場も報告するのだが……波にさらわれないか心配だ。

 セイレーンの用途ってなんだろうな? 鱗も無いし強固な骨が有るとは思えない。肉を食用とするにしても、なんか……人間っぽいから気が引ける。


 考察しても意味ないか。セリスはあっちに行ったっけ。


「……おーいセリス、終わったぞ───」


 誰か一緒にいる……。遠目からだが、人ではないような……?

 三人の不可思議な人影は、セリスと一丸となって両手を青空へ伸ばして何かを詠唱している……?


「「「「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ うがふなぐる ふたぐん いあ! いあ! くとぅるふ ふたぐん! ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん」」」」


 ヤベぇ、絶対ヤベぇ。関わったら洗脳されそう。もしかしてセリスは洗脳済み……? 

 そうだとしたら絶体絶命的な状況では!?


「お、おい! セリス! 戻ってこい! 目を覚ませ!」


「「「おお、我らがあるじよ! 永き眠りより復活を! いあ! いあ! くとぅるふ ふたぐん!」」」

「いあ! いあ! くとぅるふ ふたぐん!」

「セリス!」


 接近して始めて把握した。彼らは人類ではない。人語を話す、たとえようのない知的生命体。

 意味不明な呪文を口ずさむセリスを止めようとするが、その目は虚ろ。返事を返さずに、同じ呪文を唱え続ける。


「人の子よ、その娘は我らの一員となったのだ! 何をしようと無駄な足搔きよ!」


 三体の内一体が、声を高らかに言い放った。裂けた口をさらに豪快に引き、邪悪な微笑を浮かべる。


「何をしても……だと!? それなら、あんなことやこんなことをしても!」

「うわ人間キモい」「うわ人間ヤバい」「うわ人間ってこんなヤツらばっかなの? 引くわ……」


 ………………流石に、今のは気持ち悪かった。自重しよう。


「なんかこのが可哀想だから解放しよ。もう用済みだし」

「…………はっ今まで私は何を!」

「「「「……………………」」」」


 ……………………。


「……この魔力を利用して、ようやく復活に成功したのだ! もうすぐ我らがあるじをお目にかかれる!」


 絶対、俺が雰囲気ぶち壊したよな。余計なこと言わなきゃよかった。なんであんな事口走ったのか。


「「「我らが主《主》よ! 今ここに!」」」

「なんだ!? 一体何が……なんだあれ!」

 

  海面に巨大な魔方陣が描かれた。彼らが言う『あるじ』が召喚されるというのか!?


 海は荒れ、空は歪み、大地は割れようとしている。天変地異が……この世の終わりが訪れるのだ。

 魔方陣からは絶大なエネルギーを感じる。異界との門、地獄の扉。世界は旧支配者の手によって、滅亡される運命だったのか。


 魔方陣は奮え、ついに旧支配者が目を覚ます。

 狂う。狂う。なにもかも。究極の恐怖は世に満ち、至高の恐怖は世に満ちる。

 凄まじい、莫大な憎悪が蔓延まんえんし、今、終焉が始まる。旧支配者が蘇る───



─某所─


「馬鹿な! 魔力感知装置が暴走をしている! 途轍とてつもない魔法が発生したのか!?」

「大変です! 全装置が狂って操作が効きません!」

「原因を突き止めろ! なんとか持ち堪えるんだ!」

「ま、魔力感知機能が停止! これは……『古の龍が』復活したとでもいうのか……!? 君! すぐに本部へ連絡しろ! 歴史上の一大事だ!」



─海岸─


「…………なんだ、アレ」

「…………なんでしょうか、アレ」


 其れは、言い得て妙なモノであった。

 脈打つ島、生きる島とでも比喩出来ようか。

 ゼラチン状の巨大な物体。魔方陣の範囲内から、隙間なく詰められた廃れた緑色の表面。召喚されたものの、果たして身体の器官なのか、そもそも生物なのか。極めて冒涜的なナニか。

 それ以上でも、それ以下でもない。いくら待てど暮らせど、進展しない。ブルブルとソレが震えるだけ。


 これはなんなのだ……! 得体の知れない怖気おぞけが、悪寒おかんほとばしる。


「我が生涯しょうがいに悔いはなし……」

「この命、我らがあるじに授けましょう……」

「せやな……」

ドサッ……


 魚のような人間は息絶えた。


「えっ、アレがあるじなの? どういう事?」

「あ、頭が……クラクラする……」


 取り敢えず概要を求めたい。

 そういえば、セリスが本を持っていたな。それが原因、というか要因か?


「セリス、本、借りるぞ?」


 唸りながら頭痛を抑えるセリスから本をる。関連しているであろう、指を詩織しおり代わりにして保持していたページを開く。


「……なんだこれ、『くとぅるふ』?」


 頭はたこ、背中に蝙蝠こうもりの翼があり、水掻きのある手には鋭い鉤爪かぎづめがある、おぞましい怪物の姿。ヌメヌメした鱗状の身体に無数の触手までも備えている。

 腑抜けた書式と字体で説明された。摩訶不思議な言語とその意訳、『くとぅるふ』とはなんぞや、というのが明確にしるされている。

 『よくある誤解!』の欄には、『クトゥルフは蘇らせる事は可能だが、召喚には応じないよ! というか出来ないよ!』と。


 読者を馬鹿にしてんのか、この本は。


「うーん、うーん……」

「てことは、あのブルブルはクトゥルフの頭部……? え? 頭部だけ蘇ったの!?」


 召喚は出来ないという事なので、そう解釈するしかないが……。


────────。

「あっ消えた」


 有効時間が過ぎたのか、蒸発したようにフワッと消えた。


「…………帰るか。大丈夫かセリス?」

「は、はい。なんとか……恐ろしい悪夢を見ていた気がします……」



─某所─


「あ、あれ? 装置は全て正常に……? 暴走も止まりました! どうやら復旧したようです!」

「なに? どういうことなんだ……? ただの誤作動なのか?」

「……装置周辺、異常なし。各地に仕込まれた魔力感知装置も、正常値に戻りました……」

「ぬぅ……。やはり、ただの誤作動か。念のため、中枢機能を検査しろ」

「はい!」



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