五十二話 海王裁くは傲慢無礼
クオォォオオ……
「やっと一体かよ……手こずらせやがって……。これじゃあ埒があかねぇ!」
───────────ッッッ!!!
一体の討伐が完了したが、オス個体の咆哮、招集命令が大海原に響き渡ると更に二体が乱入。
「クソ! 数の暴力は卑怯だろ! 絶対勝てねぇじゃねえかよ!」
種族の壁を越えてクレームを叫ぶ。
急襲をカウンターしたセイレーンを、やっとこさ片付けた。ヤツらの替え玉は幾らでも参入出来るので、このままではジリ貧となり、疲弊した素振りでも見せようものなら怒涛の猛襲により瞬殺されるだろう。
運が悪ければ、海に引きずり込まれて窒息死……。
ロンゴかアイシャでもいればもっと効率的に、連携プレーで苦労せずに討伐出来たのになぁ!
標的を一体に絞って、隙を狙っては斬り込み、隙を狙っては斬り込みという消極的なヒットアンドアウェー戦法で仕留めるが、毎度毎度が命懸け。
剣を振る前も後も、ターゲットとそれ以外の個体にも目を配らなければならない。
陸上といっても、セイレーンたちは波が寄せられる範囲までしかやって来ない。俺が待ち伏せをしても、積極的に乾いた砂浜を横断しようとはしない。
だから、俺が直々に敵陣営へ踏み入れないとならない。
オマケに、砂に海水が染み込んで泥濘んでしまうため、そちらにも注意しなければならないという悪条件。
戦時中に、このビーチが流行らない理由が理解出来たかもしれない。ここを住み家とする、あのオス個体が占領しているからだ。
そんな事はどうでもいい! とにかく、残り四体を狩らねば!
~ヒットアンドアウェー戦法中~
「はぁ……はぁ……よ、よし。残り一体で最後か……辛ぇよこれ……」
海岸に打ち上がった四体分の死骸。一刺しで絶命させられたモノもあれば、何十回と戯れたモノも。
一つ言える事は、途方もない時間が掛かったということ。体感一時間は、この調子で虚無的な作業をしている。
せめて会話相手がいれば捗るのになぁ! 無言で坦々と同じ動きをサイクルするなんて、精神がイカれてしまう! しかも、一歩間違えたらあの世行きだ!
セイレーンたちは、仲間が葬られていくのに危機感を覚えたのか、オス個体が命令を下しても優柔不断となり、この調子では最早勝ち目は無いと悟っている。
─────────ッッッ!!!
戦意が失せたメス個体に苛立ったのか、オス個体はこれまでとは異なる声色で絶叫した。
岩場から懐中へ飛び込み、直接制裁を加えんと波を切って潜行してくる。
ただいまの俺は絶好調だ。たとえ彼女らの強化版だとしても、負ける兆しなど何もない! むしろ、コイツさえ始末すれば苦行から救われると考えると、嫌でも意欲が湧く。
───────────ッッ!!
「こいやああぁぁああ!!」
両者共に居合い切り。怒りに任せた捨て身の突進をするセイレーンは、鋭い八重歯を剥き出して。対する俺は真面に扱えた剣を構え、いざ尋常に───
ブオオォォォオオン……!!
恵みをもたらす大海より、武士の一騎討ちを邪魔する敵。蒼白の覇者、肉を切り裂く凶悪な牙を疾風に。深き潮から目覚めれば、蛮族従う海賊を喰らう。
大波を連れて現れたのは、鰐と鮫を複合させたような、巨大な海竜。全身は拝めないが、体長は二十メートルを余裕で越すだろう。
丸々太った巨体、骨をも砕く顎は、大海を支配する象徴。逆らうものなら、無慈悲にも食い尽くされるであろう。
!?!!?
「……えっ……ええええええええ!?」
どんなに肝が据わった人物でも、これには動揺せざるを得ないだろう。メス個体のセイレーンも俺も、ド級の招かれざる客には開いた口が塞がらない。
オス個体のセイレーンは、不運にも海竜に『獲物』と判断されてしまい、渦潮と共に呑まれていった。
ブオオォォォオオングルルウウゥゥゥ……
ザッバーン……
深海へ沈む執行者。嵐が過ぎ去ったように、静寂が辺りを包んだ。
呆然とする一同。
セイレーンはハッとなり、居るべき場所へと帰っていった。
砂浜に留まるは死した四匹の海獣と、ひ弱な殺戮者のみであった。
「……あっ! セイレーン五匹の討伐なのに一匹足りねぇ!」
不足分の条件を満たそうとも、対象は海へ舞い戻り、二度と人前に帰す事はなかろう。頂点に達したオス個体は腹の中、彼の威を借りる事は無くなり、見栄っ張りな性格も引っ込んだ。
金輪際、陸地に関与しなくなるだろう。
受付嬢さん、情けをかけてくれないかな。
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