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これから始まる英雄譚! ~俺らの異常な冒険者スタイル~  作者: 丸々。
第三章 [自然の摂理は波瀾万丈]
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五十話 依頼/船乗り曰く、噂の美人 後編

 当然のように無計画な乱射をする。これは頭が悪い。

 手から噴き出す、炎をまとった雨霰あめあられ。標的なんぞ定めぬ無差別テロは、水面を橙色に染め上げた。


「おまっ……せめて二、三発にしろよ!」

「慌てず騒がず、これも私が編み出した究極の策略です。果報は寝て待てと言うじゃないですか」

「これは違うよな? 自分が播いた火種だよな?」

「じゃあ後は任せますね、私は私の使命を果たすので。あっちの砂浜にいますね」

「厄介事が嫌なら依頼請けんなよ! 頭無いのか?」


 犯人は、早足で現場から離れた。どー考えても、あの本が怪しい。

 そんな討伐に加担するのが嫌だったんなら、依頼を請けなくても勝手に海に行けばいいじゃん。任せたって言われても……俺、セイレーンの知識は皆無なんだが。どうすれば───


 ──────────ッッ

「……セイレーンの……歌?」


 火の海が鎮圧され、さざ波うつ岩石の篭城する怪獣。かれは空を仰ぎ喉を震わせ、美声を上げた。

 まるで子守唄。切なく響き渡る無垢な歌声は、老若男女を問わずしても、多忙な労働の最中であっても、その手を止め脚を止め、ついつい聴き入ってしまうだろう。


 だが、勘違いしてはならない。海原へ誘う鎮魂歌は、集客のために開かれた演劇でもなければ、愛嬌を振り撒くファンサービスでもない。


 クォオックォオッ!! クォオックォオックォオッ!!

「うおっ!? なんかいっぱい来た!」


 深き海より這い出るゴブリン。体長は人間大の1.5~2メートル。サル顔で薄毛の頭皮、毛むくじゃらの背中。オールのようなヒレを交互に匍匐させ、数匹と陸へ参る。

 依頼用紙に載った怪物、討伐対象となっている『メス個体』だ。でる下半身は水性哺乳類のような、オス個体と同じく尾ヒレがある。


 ……この下半身と尾ヒレ、遠近感の為業かもしれないが、オス個体よりもごんぶとい(・・・・・)。体格もゴツい気がする。それに、長い。


 同種族と提言されても、まず疑いから入るであろう似ても似つかぬ雲泥の差。どうしてこんな生物になってしまったのか、甚だ疑問である。

 岩場で指揮を執るオス個体はメス個体を呼び出して、自分の代わりに、自分の命を防衛するべく戦闘へ送り出したのだ。


「ちょ、数多いって!」


 陸を住み家とする我々にとっては、陸に不慣れな怪物を一方的に叩ける、かなり有利な局面であるが……あいにく、投擲武器も射撃武器も持っていない。

 あるのは、生活費やら家賃やらを視野に入れて悩みに悩んで購入した、結局鉄製のロングソード。ちょっと背伸びした感じで、ちょっとお高い。財布が痛いが、爪痕も残せない短剣より数段良い。


 依頼において、存在意義がピンとこない魔法使いさんはどっか行ったので、魔法で一掃もサポートもないです。もう知らん。


「……だがな、人間様が陸上で負ける訳がないんだよ。こんな余裕すぎる勝負なんか、ちゃっちゃと終わらせて───」


 意外! それは生命の進化、セイレーンたちの隠し球。

 前脚ヒレを着地させなければ陸上での活動は不可、そう考えていた時期が、俺にもありました。


 俺が執着していた予測、前脚ヒレを駆使して、鈍足ながらも一生懸命陸地に進出する。

 ……を、裏切ってくれた。

 彼女らは、太くご立派な下半身を砂浜と垂直に立て、コブラの様な態勢をとった。

 接地面積が広い尾ヒレによって安定されたバランス。つまり、不器用ながらも陸に適応しているのだ。


 クォオッ!

「おわっ!」


 こいつ、折り曲げた下半身を一気に伸ばし、その瞬発力によって跳びかかってきた!

 こんな不細工なメスにのしかかれてもなぁ!


「セ、セリス! お前まだ近くにいるんだろ!?」

「いませーん。頭の無い私は助け方が分かりませーん」

「悪かったから! 訂正するから! 助けてくれませんかねぇ!?」

「嫌です」

「畜生め!」


 発言には、責任を持つと誓った瞬間であった。

 怒りと絶望を糧に、馬乗りされた状態からセイレーンの腹部を蹴り上げ、窮地を脱する。


クォオックォオッ!

「オラァ!」


 さらに二体が同時に仕掛けてきたが、時間差があったため、一体は我武者羅なまぐれ一太刀で斬りふせ、もう一体は咄嗟の判断で、何とか後退してのし掛かりを防いだ。

 それでも、彼女らはやる気満々である。


 こうなったら……


 ───────ッッ!

 クォオッ! クォォォオオッッ!!

「オルァアアア!!」


 自棄やけになっての脳死突撃。こういう時には、意外と効果てきめんだったりもする。


 無知による無謀むぼう無略むりゃくな特攻は、海獣を蹴散らす画期的な手段となるかもしれない。


 一筋の賭けに、命運を託す!

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