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これから始まる英雄譚! ~俺らの異常な冒険者スタイル~  作者: 丸々。
第三章 [自然の摂理は波瀾万丈]
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四十五話 禁忌の書(子供向け)

「……これは……」


 途轍とてつもない存在感を放つ、浅黒い古本。辞典にも劣らない厚さ、興味を惹く見たこともない刺繍ししゅう

 忘れられたかのように、本棚の一番隅に横たわる。


「お、重い……。えぇと……『子供向けネクロノミコン』……?」


 見た目通りに質量がある、この表紙には、謎の怪物の挿絵と、この異本の題名が。

 こんな分厚い本なんか、子供たちは率先して読むはずがないでしょ。売れ残って、処理に困ったのかな?


 読むつもりは無く、パラパラとページをめくる。所々には、現世には存在しえない怪物の絵画が。


 ありえない構造をした怪物、人間のようで人間ではない怪物、生物かどうかすら怪しい怪物、既存の生物を改造したような怪物……。


 ポップな字体に相反して、写実的なゴリッゴリの怪物がわんさか図録になっている。

 冒涜的な怪物たちは、どれもこれも『神話生物こわいどうぶつ』や『旧支配者つよいどうぶつ』として紹介されていた。


 封印方法、召喚方法まで。先生が園児に教えるように。


「異界の怪物を召喚…………」


 私の心にねむる感情が奮起した。魔が差して、寂しく放置された異本を脇に挟む。そして、ささやかに興奮しながら屋根裏へ戻り、自分専用の引き出しへ仕舞った。


 いつか実践してみよう!

 

 窃盗という立派な犯罪を犯した自覚など、彼女の意思決定には不要なものであった。刃のように輝く銀髪を振りながら、嬉々として階段を駆け下りる。


 楽しみが増えた。退屈しない日々を過ごす余興として、食事と入浴を堪能たんのうしよう! 今の私はすこぶる気分がいい!


 窃盗したことは、とっくの昔に忘却の彼方へ。私にとって不利な記憶は、都合の良い方向へ捻じ曲がっていった。


 開けっ放しの窓のふちまたぎ、一日ぶりの室外へ。


「「「……あっ」」」

「……えっ?」

 

 奇行、即ち、扉があるのに窓から外出する輩を発見した男三人組。先頭の男は大男、その両脇には子分らしき男が二名。

 

「……おいお嬢さん、泥棒とは感心しねぇなあ?」

「い、いや! これには理由がありまして!」

「理由はどうであれ、罪は罪だ。俺は子供相手でも容赦はしねぇぜ? 恨むんだったら、非行に走った自分を恨むんだなぁ」


 とりまきがケッケッケと下劣な笑いをする。じわりじわりと、追い込み漁のように近付いてくる。


「本来なら、警備員に報告して逮捕だが……俺は優しいんでな、俺の言うことを聞けば見逃してやらんでもねぇぜ?」

「いやあの、そもそも私は……ひっ!?」


 背には障壁、これ以上の後退は不可。かといって、扇状に広がる男三人を避けて逃げ延びることは、私には出来ない。


「何をするべきか、分かってんだろ? ……さあ、俺の命令に従え!」

「せりゃあ!」


 しかし、不可能を可能にする手段はある。人知を超越した非科学的な超常現象、そう、魔法ならば。

 いつかこんなシチュエーションに対峙したいと思っていた。自慢の筋力増強魔法を駆使して、悪党を懲らしめ、千切っては投げ千切っては投げの大活躍を納めたい……と。


「ごふぇっ!!」


 目にも止まらぬ迅速な正拳突き。生身の人間では再現不可の超音速。

 鍛え抜かれた腹筋を貫く最強の矛が、今、一人の少女によって爆誕した。


 予備動作など生じぬ技に、洞察力など無意味。

 防御が間に合わなかった大男は、弾道に沿い、壁面に衝突した。壁面にはクッキリとした人型のクレーターが完成し、大男は力尽きた。


「「あ、兄貴ー!」」

「……へっ、安心しやがれ……コイツ(・・・)が無かったら、あの世行きの昇天パンチだったぜぇ……!」

「えっ生きてる……頑丈な人だ……うわっ!?」


 大男は気が狂ったのか、半裸をもろともしない蛮勇で服を引き裂く。


「コイツが目に入らぬかぁあああ!!」

「イヤアアアアアア! 変態だあああああ!!」

「紳士です。……俺はこの事態を想定して、この鉄板によって生命保険を懸けていたのだぁ……!」


 大男の身体ボディには、私の拳が型取りされた鉄板が。心なしか、大男の額には青筋が立っている。


 それでも衝撃は防げなかったのね……。


 そんな虚勢を張っている大男は、おぼつかない足取りで前屈みになりながら私の正面に立つ。なんだか申し訳ない気持ちになった。


「嬢ちゃん……初対面の人間にハラパンはやめような……」


 弱音を吐いた……。


「ふぅ……ふぅう……よし、嬢ちゃん、改めて話し合おうか……」

「くっ……」


 不敵な笑みを浮かべながらにじり寄って来る。

 今すぐにでも撃沈させたいが、魔法の代償により力が抜けていく。


「派手にやってくれたじゃねぇか……。この借りは返してくれなくて構わないぜ……?」

「はい……え?」


 壁際まで迫られ、背中にヒンヤリとした感触が伝わる。大男と壁の間に私が。恋が始まるとは到底思えない。


「まず最初に……二度と犯罪に手を染めないと誓うんだなぁ……。生半可な反省じゃぁ許さねぇ。再犯をしねぇと強く誓え!」

「はい…………えっ?」

「どうした? 早くしねぇと叱るぞ……?」

「えっ……えっと……本当にすみませんでした」


 どういうことなのか。


「よろしい!」


 いいんだ!


「そして二つ目……盗んだモンを、ちゃぁんと返すんだなぁ! それさえ従えば、見逃してやんよ」

「いやあの……何も盗んでないんですが……というか私、ここに住んでいる(・・・・・)のですが……」

「えっそうなの? ごめんなさい」


 物分かり良すぎでしょ! なんなのこの人! しかもすっごい常識人で心優しいし!


誤字脱字がありましたら、ご報告をお願いいたします。


もののついでに、評価もしていただけると幸いです。

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