四十一話 商品輸送中の休憩
─深夜の深い森(ロイン、ロンゴ、店主)─
「そろそろ休もっか。鬼人クンは、荷台から薪を適当に取ってきて。君はシーツを敷いて───」
視界がままならない、深い森での野営準備。ランタンの光は灯されているが、十メートル先すら確認出来ない。前後は整備されているが、左右は植物の密集地。
暗黒の森を巡回する怪物もそうだが、夜間の温度低下にも順応しなければならない。
火を起こして暖を取らねば、布の布団だけでは凍えていまう。
いつかは体験すると思った。エルメスに来た時は、そりゃ何度も。こういった形になったのは、まだ幸運だろう。
「ようし。……じゃっじゃーん。これなんだ」
「ん?」「お?」
店主がポケットから取り出したのは、赤い輝きを放つ宝石だ。掌に収まるサイズで、ボールを握るように持っている。
「これは……あのカニの宝石?」
「そのとーり! コレを使えば、擬似的に魔法が使えるのよ。赤いのはこのように……」
店主さんは、ロンゴが重ねた薪に宝石を掲げる。すると
ボウッ
「おおっ! ひがついた!」
小さく発火した。そのまま乾燥した薪に引火して、雄大な炎へ。ランタンよりも断然明るく、パキパキと弾ける薪の音は、心地よい。
安心感が半端じゃない。
「炎魔法が使えるんだ。元祖の魔法とは違って、深く集中する必要もないし、お手軽に発動できるんだ。ま、威力は微塵だし、使用回数が限られてるのが難点だけどね。君たちも持っておいた方がいいよ? お値段は決して安くないけど」
「そうしたいんだが、全部売っちまってな。俺は魔法が使えるから問題ないが」
「使える魔法が問題なんだが?」
三人でシーツに座り、荷車に背を付ける。
一日、休憩無しでいたため、この上なく眠い。どんだけ歩いたかは考えないようにして、心の負担を減らしてはいたが、心も体もヘトヘトだ。
ただただ焚かれる薪を眺め、何も考えず、このまま眠りにつきたい。
「じゃ、見張りは頼んだよ。私は先に寝るから」
あぁ、寝れねぇや。重要な任務を任された。
店主さんは二枚目のシーツにくるまり、頭に布を敷いた。これでも相当疲労していたようで、瞼を閉じると、スヤスヤと眠りについた。
俺たちを信頼しきっているのか、心置きなく安眠していった。
……護衛、か。怪物さえいなけりゃ、神経を尖らせることなんて無いのにな。ここでは野生の掟が一般常識。何時どこで怪物に襲われても、文句は言えない。
この辺りに出現する怪物は、どんな特性があるのか見当もつかないが、店主さんを守り切る事に専念しよう。
火を起こしてるから、怪物は寄ってこないと良いのだが……怪物によっては、炎なんぞに怖じ気づかずに強襲してくるだろう。
店主さんが寝る前に、ここら一帯に生息する怪物の情報を聞いていればよかったな。少しは有利な戦闘に持ち越せるかもしれないし。……ソレを発案するのは、いつもアイシャだったな。
「……………………」
黙っているのも気まずいので、ロンゴに目をやる。あぐらをかいて、焚き火の一点を真顔で見ている。不気味だ。何か悪しきモノに取り憑かれたよう。
「……なあロンゴ。俺眠いから、しばらく見張りを任されてくれねぇか?」
「……………………」
「…………おい? 聞こえてるか?」
「…………………………」
返事が返ってこない。開眼しているから、起きてはいるはず……。
シーツから腕を伸ばして、ロンゴの顔に手を振る。意識があるなら、何かしらの挙動を示すのだが……。
「……………………」
「…………こいつ、寝ていやがる……!」
ガッツリ見開いて寝るタイプの人だった。いや人じゃねぇな、鬼人だった。




