分担小話 私は若干、恐怖した
「誰だオメェ。……おい、女を招き入れるなんてどういう事だ?」
「なんでも、捜している子がいるんだとよ」
これは……既に険悪ムードだ。一触即発、下手な言動は控えねばならねぇな。
特等席に座った大柄の男が、重く口を開く。
「おい女、誰を捜してるって?」
「あ、この子です。行方不明扱いされてるんでね」
先程と同様に、ひらりと紙を見せる。机にそっと乗せると、三人は食いついた。描かれた似顔絵をご尊顔すると、膨よかに育った男が。
「この子は……『エッシル』ちゃんでヤンス。四日前の夕方、森の中で遭難していた子でヤンス」
「ほう? その言い方だと、ここにいるんだろうね? 私が預かっておくから、面会させてちょーだい」
この態度が気に入らなかったのか、男どもの眼光がギラリと趨る。
ガタッ
三人一斉に席を立つ。
「……女、何者かハッキリして貰おうじゃねぇか。あの子の保護者か?」
「ちゃうちゃう。私はしがない冒険者、冒険してない冒険者だ。依頼で捜してるだけ」
スッ
三人一斉に席に座る。
「フッ……貴様もやはり、幼気な少女を擁護する事が好きなんだな」
「いや別に」
ガタッ
「天と地がひっくり返るほど大好きです。擁護しなければ生きていけません」
スッ
なんだコイツら。
「お前ら! 大事なお客様だ! 冷蔵庫にショートケーキがあるだろ! フォークは一番清潔な物を並べろ! それとコーヒーも淹れてやれ! ……おっと、砂糖とミルクも忘れるな? 量は女の自由だ! お前らが勝手に入れるなよ!」
「「「イェッサー!!!」」」
ここの人、こんな身なりで皆良い奴だろ。逆に怖いんだが。
さっきの三人組もそうだ。『命が欲しけりゃ荷物を置いてけ』って言いそうな外見なのに、暴力反対派だもん。
一種の異界だろ、ここ。
……本当にショートケーキが……。
テキパキと、無駄のない洗礼された動作には、この私ですら感服した。ボス以外の三人が、分担して作業をしている姿は、まごう事無き主婦そのものであった。
ショートケーキにはご丁寧に、イチゴがちょこんと乗っている。フォークは一切錆びておらず、汚れも傷も無い。
コーヒーからは湯気が上がっている。角砂糖が幾つも入った小瓶と、ミルクが入った小瓶は、取っ手を右向きにしてくれている。
いやだから、なんでコイツらここにいんの?
「食い終わったら隣の部屋に移動する。ゆっくり、自分のペースでいいからな」
「ご親切にどうも」
………………。
いや、食べにくいわ。そんな凝縮しないでくれよ。
「……ごちそうさん」
「よし……お前ら! 食器を洗え! 砂糖、ミルクも片付けろ!」
「「「イェッサー!!!」」」
いつまでこのテンションなの。
「……そういや、ここの紹介をしてなかったな。俺たちは迷子になったり、仕事上、親が面倒見切れない子供をここで擁護し、ここで世話してるんだ。ちなみに、病院の役割もある。ありとあらゆる最先端の医療品が揃い、コイツはあ治癒能力がある魔法を使える」
「で、ヤンス」
丸々と肥えた、ヤンスが口癖の男が医者とは……ギャップというか、なんというか。
「へぇ。丁度今、ウチにも病弱気味な少女がいるから、ここで───」
ガタッ
「反応するな、座れ」
スッ
「……よし、エッシルちゃんを連れてこよう。付いてきな」
おお、これでやっと帰れる。長居したらこっちまで毒されそうだ。
眼前には木の扉。
……耳を澄ますと、キャーキャーと子供の声がする。ボスがギイィっと、慎重に扉を押す。
まさか、児童虐待とかしてはいないだろうな───
「「「キャー!!!」」」
「ぬはは! 捕まったらコチョコチョの刑に処す! 精々逃げ惑うんだなあ!」
まあ知ってた。こういうヤツらだろうとは思っていたよ全く。まあそれはそれとして、このシチュエーションは事案の一角だな。後で通報しておこう。それが世のため人のため、必要な犠牲なのだ。
子供部屋のような空間。全体的に明るく、オモチャや本が整頓されている。奥にもまだ部屋がある。
「『ジニス』! あまり怖がらせんなよ! ……さて、エッシルちゃんはいるか?」
くおおおお、ちゃん付けは止めてくれぇ! 鳥肌が立っちまう!
「はーい!」
奥の部屋から、一人の女の子が。年は八歳前後か、セリスを少しだけ幼くしたような容姿をしている。元気一杯のおてんば娘だな。
エッシルを連れて、最初の部屋に戻った。
「つまりお前は……この子の受け渡しをするって事だな?」
「さっきからそう言ってるけどね?」
「……なるほど。だったら、その保護者をここに連れてこい。話はそれからだ」
「え、面倒くさ」
ガタッ
「誠心誠意連れて参ります」
スッ
親を連れてくる事より、コイツらが面倒くせぇ。
「ここはスタッフルームだ。お前が入ってきたのは裏口、正面玄関は子供がいた部屋の奥だ。待合室にもなっている」
「まじか」
子供の猛攻を掻い潜り、待合室へ。お客さんがいるようで、誰かさんの母親が、受付スタッフと話をしている。
このメンツが保護者とやり取りをしているのを想像すると……。いや、そんなワケないか。流石にね。
「いつもありがとうね。本当に助かってるよ」
「いえいえ、オイラたちは好きで運営してるだけでガンス。例には及ばんでガンスよ」
………………………………。
「……連れてきたぞ。待合室で待機させてる」
「仕事速いなお前。俺たちの仲間入りするか?」
「嫌で───、大丈夫です」
「そうか。それじゃあエッシルちゃん、ママに会いに行くぞ」
「うん!」
ボス、その面でママとか言うなよ。
体格差が大きい二人は手を繋ぎ、スタッフルームから出て行った。エッシルは、随分とボスに懐いている。
……そういえば。
「……なあオマエら、あのスライムって、何?」
「あれか? あれはな、身体を掃除するためのスライムだ。品種改良されたやつでな、無菌で清潔、人間に害は無いから安心してくれ。コイツがいれば、水の心配は無くなるからな!」
よし、通報しよう。この施設はダメだ。
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