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これから始まる英雄譚! ~俺らの異常な冒険者スタイル~  作者: 丸々。
第三章 [自然の摂理は波瀾万丈]
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分担小話 アイシャの裏路地奮闘記

 私が人助けだなんて、ヤツら(・・・)に知れ渡ったりでもしたら、四六時中態度が改まるだろうな。


 概要を簡潔に言うと、『我が子が行方不明になった』らしい。


 なんでそうなるかな。保護者の目が行き届いていれば、防げた事故、育児放棄に通ずるものがある。……そういえば、あの受付嬢、この依頼見て笑ってたな。人間性の欠片も備わってないじゃん。


 しっかしなぁ、こんなだだっ広い城下町から迷子を捜せとな? 保護者も捜索してる筈だが、道具屋とか娯楽施設とはスケールが違う。

 考慮すべきはそれだけではない。地下や隠し部屋があるかもしれんし、安全区域外、つまり城壁の外という可能性も無きにしもあらず。


 ……食べ歩きでもするか。腹が減ってはなんとやら。


 近くの屋台で串焼きを二本。うめぇ。そうだヤツらの為に串を残しておこう、ささやかなプレゼントだ。


 依頼の紙には似顔絵があるが……これ、人権もクソもねぇじゃん。個人情報ダダ漏れだよ。

年齢、身長、特徴、外見……大丈夫なのかねぇ、悪用する輩がいるだろうに。私みたいに思慮深くなれや。


クラルルルッ

「んおっ」


 街中に怪物が。成敗しなければならぬ……じゃなくて、


「あらら、ごめんなさいねぇ。……こら、迷惑かけないの」


 日頃から鬱憤ばかり溜まる、人間の癒しとして飼われる怪物だ。首輪が装着され、リードの持ち手にはオバさんが。


『ケム』。小型で、縦社会に忠実な怪物。四足歩行の短足、個体によって異なる毛皮の色。基本的には、白、黒、茶色である。犬と狐を足して割ったような、そんな外見。尻尾がモフモフでかわいい。


クラルルルルルルッ!!

「あっ!」


 瞬発力がものをいい、オバさんが握っていたリードは、勢いよく旅立つ。ケムが真っ先に向かってくるではないか!


クラルルルルルル!!

「おーおいでケム。おねーさんが遊んでゴブハッ!?」


 衝突寸前で跳躍し、顔面に渾身のタックルが決まった。



「……誘拐路線だとして、こういう所にいそうだな」


 ここは見慣れた通路、裏道とも言える。店主が営む雑貨屋に襲来するには、必ず通る。年中通して気温が低く、日中も薄暗い裏路地だ。


 表より裏を捜索したほうが確率は高い。保障は無い。


 ……ん?


「───だから、頼むって!」

「嫌だよ。全部、自業自得でしょ? お金の管理も自己責任って決めてたじゃない」

「そこを何とか!」


 おやおやおやおや、この声は非常に聞き慣れているぞぉ? こんな所で出くわすとはなぁ? ちょっと盗み聞きしちゃえ、何かしらのボロが出るかもしれん。そしてソレを武器に手駒にしてやろ。


「お願いだ! 借りた分は返すから、不満だったら利子も付けて返すから!」

「それほど信用できない言葉って、なかなか無いよね。……っていうか、この前貸した分も帰ってきてないけど? 沢山依頼やってたんだから、溜まってるはずよ?」

「それは……その」


 他人のいざこざほどワクワクする物ってないな。


 男の方は確か……デクトだっけ? そんで女の方はリマ? 二人の関係はさほど興味ないが、これはこれは面白い。デクトがリマにお金をせがんでいる。


「よぉ、お二人さん。元気してる?」

「げっ」

「うわっ、アイシャじゃん。こんな所で何してんの?」

「いやぁ、ちょっとした依頼でねぇ。君たちこそ何してんのかなぁって?」


 リマは平然としているが、デクトは酷く困惑してる。


「なっ、なんでもないし? ただの会話だし?」

「……ヒモ男」

「聞いてたじゃねぇかテメェエ! 言うなよ? 絶対に他のヤツらに広めるなよ!? そもそもヒモじゃねぇし!? 一時的な貸借だし!?」


 うっはー、相手より優位に立つってめっちゃ愉快だわ。必死に弁明してるのが滑稽で滑稽で。


「だーから、自業自得だって言ってるでしょ。何にお金貢みついでるのか知らないけど、反省しなよ?」

「……はい」


 いや本当にたのしい。笑顔がこぼれちゃうわ。シチュエーション的には、夫と妻の家庭事情ってとこか。本人にとっては深刻だが、傍から見ると『おいおいマジかよ』ってネタ話になるヤツ。


「じゃーね。皆には『デクトは風俗に貢いで、彼女に借金してる』って広めとくわ」

「ヤメロォオ!」「彼女じゃないし!」



 いいもん見たな、世界は広い。

 更に暗い裏路地へ、警戒はせずに突き進む。不良の溜まり場とか、不快害虫ふかいがいちゅう蔓延はびこっていそうだ。


 冒険心ぼうけんしんとでも言うのか、探求心たんきゅうしんとでも言うのか。今まで踏み入れた事のない、当に未開の地を探索すりのは、女であれ、こんなにも昂揚するものなんだな。


 分かれ道を発見、『T』の字になっている。私はこういう時、いっつも左側にしている。理由は単純、右利きだからだ。違和感なく曲がれる。


 ま、アタリハズレは、また別の問題だけども。


「あん? なんだねーちゃん、ここは女が一人で来て良い場所じゃねぇぜ?」


 三人の男が、狭い通路を陣取っている。リーダー格の男はのっそりと腰を上げ、私の前にはだかる。


「軟弱な女が一人、屈強な男が複数人。どうなるかは分かってんだろ?」


 虎の威を借るクソザコ雑兵は、ケッケッケと妖しく笑う。

 さっきから笑顔に包まれ過ぎだろ。私もだが、裏路地でに見合ってないんだよな。明るいわ。


「分からんね、何されるんだか」

「へっ。だったら、身体で教えてやるよ」


 三人は私を囲み、逃げられない状況を作り出した。


「ねーちゃん、左手を出しな」


 正面に立つボスが、謎の要求をする。断ってもいいんだが、後々が怖いからな。気が狂ったように裸踊りしだしたら恐怖だもん。

 バカ正直に左手を出すと、ボスはガシッと握手するように握った。


「覚悟はいいな? ……ジャーンケン───」

「おい、ちょっと話をしようか」

「あ? なんだねねーちゃん。略してなんだねーちゃん?」

「略されてねぇよそれ。お前コレどういう事だ、あの台詞の後はジャンケンをする風習はねぇぞ。普通襲うだろ」

「恥ずかしい事するワケねぇだろ! あと女なんだからそんな事言うんじゃねぇ!」


 えっなにコイツ、ピュアかよ。


「あと、やるんだったら喧嘩だろ」

「おいおいねーちゃん、無意味な暴力は平和には成らねぇぜ? それに国が定めてんだろうが。立派な暴力事件として賠償金を払ったり、牢屋に入れられたり、場合によっちゃ追放ぜぇ? 相手には一生消えねぇ傷を負わせ、自分には一生拭ぬぐいきれねぇ罪が付き纏う。暴力なんてつかの間の快感、むなしいだけよ」


 えっなにコイツ。長々と持論を説いてくるし、こんな見た目で私より善人じゃん。


「じゃあこの手はなんだ」

「対戦前の握手に決まってんだろ。礼儀はしっかり表さねぇとなぁ……」

「じゃあもう離せ」

「ごめんなさい」



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