分担小話 アイシャの裏路地奮闘記
私が人助けだなんて、ヤツらに知れ渡ったりでもしたら、四六時中態度が改まるだろうな。
概要を簡潔に言うと、『我が子が行方不明になった』らしい。
なんでそうなるかな。保護者の目が行き届いていれば、防げた事故、育児放棄に通ずるものがある。……そういえば、あの受付嬢、この依頼見て笑ってたな。人間性の欠片も備わってないじゃん。
しっかしなぁ、こんなだだっ広い城下町から迷子を捜せとな? 保護者も捜索してる筈だが、道具屋とか娯楽施設とはスケールが違う。
考慮すべきはそれだけではない。地下や隠し部屋があるかもしれんし、安全区域外、つまり城壁の外という可能性も無きにしもあらず。
……食べ歩きでもするか。腹が減ってはなんとやら。
近くの屋台で串焼きを二本。うめぇ。そうだヤツらの為に串を残しておこう、ささやかなプレゼントだ。
依頼の紙には似顔絵があるが……これ、人権もクソもねぇじゃん。個人情報ダダ漏れだよ。
年齢、身長、特徴、外見……大丈夫なのかねぇ、悪用する輩がいるだろうに。私みたいに思慮深くなれや。
クラルルルッ
「んおっ」
街中に怪物が。成敗しなければならぬ……じゃなくて、
「あらら、ごめんなさいねぇ。……こら、迷惑かけないの」
日頃から鬱憤ばかり溜まる、人間の癒しとして飼われる怪物だ。首輪が装着され、リードの持ち手にはオバさんが。
『ケム』。小型で、縦社会に忠実な怪物。四足歩行の短足、個体によって異なる毛皮の色。基本的には、白、黒、茶色である。犬と狐を足して割ったような、そんな外見。尻尾がモフモフでかわいい。
クラルルルルルルッ!!
「あっ!」
瞬発力がものをいい、オバさんが握っていたリードは、勢いよく旅立つ。ケムが真っ先に向かってくるではないか!
クラルルルルルル!!
「おーおいでケム。おねーさんが遊んでゴブハッ!?」
衝突寸前で跳躍し、顔面に渾身のタックルが決まった。
「……誘拐路線だとして、こういう所にいそうだな」
ここは見慣れた通路、裏道とも言える。店主が営む雑貨屋に襲来するには、必ず通る。年中通して気温が低く、日中も薄暗い裏路地だ。
表より裏を捜索したほうが確率は高い。保障は無い。
……ん?
「───だから、頼むって!」
「嫌だよ。全部、自業自得でしょ? お金の管理も自己責任って決めてたじゃない」
「そこを何とか!」
おやおやおやおや、この声は非常に聞き慣れているぞぉ? こんな所で出くわすとはなぁ? ちょっと盗み聞きしちゃえ、何かしらのボロが出るかもしれん。そしてソレを武器に手駒にしてやろ。
「お願いだ! 借りた分は返すから、不満だったら利子も付けて返すから!」
「それほど信用できない言葉って、なかなか無いよね。……っていうか、この前貸した分も帰ってきてないけど? 沢山依頼やってたんだから、溜まってるはずよ?」
「それは……その」
他人のいざこざほどワクワクする物ってないな。
男の方は確か……デクトだっけ? そんで女の方はリマ? 二人の関係はさほど興味ないが、これはこれは面白い。デクトがリマにお金をせがんでいる。
「よぉ、お二人さん。元気してる?」
「げっ」
「うわっ、アイシャじゃん。こんな所で何してんの?」
「いやぁ、ちょっとした依頼でねぇ。君たちこそ何してんのかなぁって?」
リマは平然としているが、デクトは酷く困惑してる。
「なっ、なんでもないし? ただの会話だし?」
「……ヒモ男」
「聞いてたじゃねぇかテメェエ! 言うなよ? 絶対に他のヤツらに広めるなよ!? そもそもヒモじゃねぇし!? 一時的な貸借だし!?」
うっはー、相手より優位に立つってめっちゃ愉快だわ。必死に弁明してるのが滑稽で滑稽で。
「だーから、自業自得だって言ってるでしょ。何にお金貢いでるのか知らないけど、反省しなよ?」
「……はい」
いや本当に愉しい。笑顔が溢れちゃうわ。シチュエーション的には、夫と妻の家庭事情ってとこか。本人にとっては深刻だが、傍から見ると『おいおいマジかよ』ってネタ話になるヤツ。
「じゃーね。皆には『デクトは風俗に貢いで、彼女に借金してる』って広めとくわ」
「ヤメロォオ!」「彼女じゃないし!」
いいもん見たな、世界は広い。
更に暗い裏路地へ、警戒はせずに突き進む。不良の溜まり場とか、不快害虫が蔓延っていそうだ。
冒険心とでも言うのか、探求心とでも言うのか。今まで踏み入れた事のない、当に未開の地を探索すりのは、女であれ、こんなにも昂揚するものなんだな。
分かれ道を発見、『T』の字になっている。私はこういう時、いっつも左側にしている。理由は単純、右利きだからだ。違和感なく曲がれる。
ま、アタリハズレは、また別の問題だけども。
「あん? なんだねーちゃん、ここは女が一人で来て良い場所じゃねぇぜ?」
三人の男が、狭い通路を陣取っている。リーダー格の男はのっそりと腰を上げ、私の前にはだかる。
「軟弱な女が一人、屈強な男が複数人。どうなるかは分かってんだろ?」
虎の威を借るクソザコ雑兵は、ケッケッケと妖しく笑う。
さっきから笑顔に包まれ過ぎだろ。私もだが、裏路地でに見合ってないんだよな。明るいわ。
「分からんね、何されるんだか」
「へっ。だったら、身体で教えてやるよ」
三人は私を囲み、逃げられない状況を作り出した。
「ねーちゃん、左手を出しな」
正面に立つボスが、謎の要求をする。断ってもいいんだが、後々が怖いからな。気が狂ったように裸踊りしだしたら恐怖だもん。
バカ正直に左手を出すと、ボスはガシッと握手するように握った。
「覚悟はいいな? ……ジャーンケン───」
「おい、ちょっと話をしようか」
「あ? なんだねねーちゃん。略してなんだねーちゃん?」
「略されてねぇよそれ。お前コレどういう事だ、あの台詞の後はジャンケンをする風習はねぇぞ。普通襲うだろ」
「恥ずかしい事するワケねぇだろ! あと女なんだからそんな事言うんじゃねぇ!」
えっなにコイツ、ピュアかよ。
「あと、やるんだったら喧嘩だろ」
「おいおいねーちゃん、無意味な暴力は平和には成らねぇぜ? それに国が定めてんだろうが。立派な暴力事件として賠償金を払ったり、牢屋に入れられたり、場合によっちゃ追放ぜぇ? 相手には一生消えねぇ傷を負わせ、自分には一生拭いきれねぇ罪が付き纏う。暴力なんてつかの間の快感、虚しいだけよ」
えっなにコイツ。長々と持論を説いてくるし、こんな見た目で私より善人じゃん。
「じゃあこの手はなんだ」
「対戦前の握手に決まってんだろ。礼儀はしっかり表さねぇとなぁ……」
「じゃあもう離せ」
「ごめんなさい」
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