四十話 落とした物
─隠れた雑貨屋─
セリスをおんぶして輸送し、屋根裏に寝かせた。
「…………」
「……………………」
祭りは収束した。大漁であった者、不況であった者……。集会所では街中の冒険者がわんさか押し合い、カニの気持ちを考えずにぶんどった宝石を精算する。悔し涙を流す者もいれば、嬉し涙を流す者もいる。
プラムカシムの宝石は『集積鉱石』と呼ばれ、たいへん密度が高く、頑丈で上質。個体差はあれど、微量の『魔力(魔法を扱う際に関与する成分)』を含み、この宝石を使えば誰でもなんちゃって魔法使いになれる。
装飾品から実用用、はたまた貿易に加担する。大半が高額で取引され、エルメス城の外交には必要不可欠の資源でもある。
「…………君は……」
「……………………」
大盛況の集会所より外れて、とある雑貨屋には一対一で対面をする男女が。
男性は阻喪。トンガリ耳の女性は言葉を失っている。
とんでもない事をしでかしたのは痛いほど分かっている。俯いた顔は簡単には上げられない。
この状況下の俺に顔を上げる資格は、無い。
「……本当に、無くしたの?」
「…………はい…………」
説教とまではいかないが、俺を責め立てている。
ぐうの音も出ぬ失態。目星はついている。あの時だ。
修道女の転移魔法を受け、足を踏み外し転倒したあの時。それ以外考えられない。
「……まぁ、私が困ることじゃないけど、人の善意を仇にするのは頂けないなぁ……」
「……はい……」
脳内は『ごめんなさい』という、安易な謝罪の言葉に犯されている。
「たっだいまー……なにやってんだ後輩?」
「説教中だろ? 関わってやるな」
二人が帰ってきた。亜空筒に保管してあった宝石は、筒ごとさっぱり消えてしまったので、換金出来たのは雀の涙。冒険者との乱闘になりながらも、やっと手中に入れた一握り。
アイシャが手にする財布代わりの袋は、張りがなかった。
二人は迂回して階段を登り、自室と言っても過言ではない旧物置部屋へ。
「いやまぁ……私も怒ってるつもりじゃないから、この件は水に流していいよ」
「分かりました……そうさせて頂きます」
「……君が敬語遣うと、気持ち悪いね」
─集会所本部─
「……ふむ。貴女がおっしゃるのであれば、やはりあの震動は誤りではなかったか」
「はい、ギルドマスターさん」
お茶を飲む、修道服を着た女性と、オヤジなギルドマスターが言葉のキャッチボールをする。
「最後の記録は三十年前……。貴女の予知では、活動が本格的になるのはいつだね?」
「一ヶ月後です」
「おいおいおいおい、え? 一ヶ月後? 揶揄ってる?」
「五月蝿いですね大真面目です。あのカニたちは、『大地』から逃げるべく早期の大進行をしたのですよ。彼らもまた、被害者です」
重大な報告を淡々と、澄まし顔で伝える風格は、一種の賢者のよう。
「では、私はこれで。ご武運をお祈りしています」
「貴女が加勢してくれたら、苦労もせず事なきを得るんだがなぁ?」
「今回のプラムカシムは特例です。数年前から突如として現れた変異体。当初は本来の生態行動をまっとうするのみでしたが、今年は凶暴化してしまったため、近辺の環境そのものを変動させてしまう可能性があったため、です」
「それ言ったら『大地』が生態行動するだけで地殻変動が」
「滅ぼしますよ、この街」
「もうアンタが『古の龍』だよ。文明崩壊させたの貴女か?」
厄介者を相手する目で、ルイシュに怪訝な目線を送るギルドマスター。
「乙女に対して『古の龍』だなんて、面白い冗談ですね。これっぽっちも笑えません」
ティーカップの中身を空にし、微笑みながら速やかに退出をするルイシュ。
「……『大地』の歩行はもうすぐ、か。どうしたものかね……君はどう思う?」
会話相手を求めて、一人で部屋を警護する女性役員に話をふる。
「一大事だと思います」
「いやそうだが、そうじゃないのだよゲイルくん」
「ケイルです」
「そうか。でも私がゲイルと呼称したら、君は紛れもないゲイルだ」
「不愉快です。退職しやがってください」
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