三十九話 落とし物
─ロイン一行(アルメス城城下町)─
八人が転移されたのは、城門から少し離れた建物の影。壮絶な光が壁を反射させたが、誰も彼も見向きもしない。飛んで火に入るカニを捕らえる事で頭がいっぱいなのだ。
「では私はこれで。皆さん、存分に荒稼ぎしてくださいね」
今度は一人だけ魔方陣に乗り、修道女は姿をくらました。
「……はっ!? カニは!?」
このタイミングで、眠り姫が深い昏睡状態から目覚める。危険は無くなった事を説明すると、ロンゴの肩でバタバタ暴れ、自分を降ろすようにせがんだ。もののついでにアイシャも着地。
セリフはぐったりとし、今にも倒れてしまいそうなほど千鳥足になり、誰の家か分からぬ壁に寄りかかる。
ホヒュー……ホヒュー……と、弱々しく深呼吸を試みた。
今はもう、休んでいいんだぞ……。
『皆さん! 巨大プラムカシムの絶命が確認されました! 引き続き、プラムカシム討伐の開催します!』
カニだああぁぁぁあああ! かかれえぇええ! 宝石を取れえええぇぇえ!!
受付嬢さんの心境は、緊迫から安堵へと移り変わり、元気溌剌に冒険者たちの士気を底上げした。
城壁のバリスタや大砲を構えていた人々は、階段を下って草原に飛び出し、中には城壁から飛び降りてショートカットする猛者もいる。
血に飢えた百獣は、たった一つの嘶きによって草原に召喚された。
「出遅れる! 二人とも! 俺たちも行くぞ!」
「はいよー!」「おう!」
デクトもその仲間も、百獣の道へ走って行った。
これはまるで魑魅魍魎。生きた人間による新手の百鬼夜行である。
「私らも行くぞ! ついてこいオーガ!」
「やっほうい!」
「セリフの心配をしろよお前ら!」
すたこらさっさと門を抜け、バカ二人も夜行組へ退化した。鬼人はむしろ生業といっても信じてしまう。
「……セリフ、大丈夫か?」
「楽しい祭りだと……聞いたのに……カニが……あんなに……しばらく……ほっといて下さい……」
このお嬢様は、後で労ってあげよう。それがいい。
「じゃ、俺も行ってくるからな……ゆっくり休憩を───」
「……あの、背中さすって下さい……」
こんな痛々しいセリフは見ていられない。彼女を安心させるためにも、ここは紳士として快く引き受けよう。
「……お、おえー……」
一歩進んで二歩下がる。まだ出てはいないが、いくら美少女だからといって吐瀉物は流石に許容範囲外だ。
大きく回って隣へ。丸くなった小さな背中をさする。
昨日は昼近くから寝て深夜に起こされ、出発前にご飯も食わずで生活習慣が激しく乱れたからか、俺も気分が優れない。
宝石は……まぁいっか。夜間に呆れるほど採ってきたし。
無意識に、余った手を腰に当てる。
「…………えっ?」
有るはずの物が無い。貰ったときからずっと固定していた物が。店主さんから貰った、あの筒が。あの国宝が。
「亜空筒がねぇええええええ!!??」
指摘、感想等が御座いましたら、誰でもお気軽にコメントをして下さい。




