三十五話 緊急:ちりは積もりて荒波となる
「あの、わざわざ崩して集めなくても、地面に生えてる宝石を直接入れた方が早くないですか?」
天才か。破壊したものより、よほど価値が上がるだろうし、なにより回収が楽だ。
「おお確かに。……あーでも、『何でも吸い込める』的なこと言ってたからな……」
「条件が分からねぇから、下手に実行出来ねぇってこったな。地面と宝石は繋がってっから、もしかしたらこの世界が仕舞われるって可能性も……」
ロンゴの言うとおり。範囲が分からないし、繋がった物も一緒に収納されるのかも分からない。
「じゃ、なんで空気は仕舞われないんだ? おかしいだろうが」
「頓智を効かせたつもりかこの野郎」
「野郎じゃない、私はレディだ」
アイシャ、お前はセリスを見習え。せめて敬語を習得しろ。
「……あ、皆さん、朝日が昇りました」
─デクト一行─
三人もロインたちと同じ計画を立てていた。冒険者たちが寝静まった夜中、抜け駆けをして宝石の採掘をしたのだ。
彼らが持参した麻袋や篭には、溢れんばかりの多彩な宝石たちがはみ出ている。
「……まずいですねぇ。太陽が昇ってきたよ?」
「早い内に切り上げて正解だったな。ここまで来れば心配要らないだろ。ロインたちはどうなるか知らんが」
「まあアイツらのことだ、死にはしないだろ。鬼人もいるし、魔法使いもいる。認めたかぁねぇが、俺らより戦力はあるからな」
エルメス城はまだまだ先。視界がオレンジ色に包まれた帰路を、一仕事終えた感覚で安心しきって進む。
「あとは帰るだけだ! こんな楽して安全に稼げるなんて、やっぱ最高だな!」
計画通りに物事が進み、ご満悦のデクトであった。
後の展開など、見据えられぬままに。
─ロイン一行─
銀髪の呼びかけで、河の向こう岸から頭を出す太陽を見る。まだ眩しくない。
深夜の極寒は嘘のように、なんて暖かく、優しい光なのだ。一日の幕開け、宝石の河のに劣らない壮大さ。神秘的で雄大な自然は、疲弊した俺に活気を与えた。
だが、万物を照らす神は、この日だけ、地中に潜伏する怪物を呼び覚ます、戦の合図であった。
「……ん?」
陽光を浴びた宝石たちは、より一層輝きを放ち、生命を吹き込まれたかのように揺らめいた。
ボコッボコボコッ
地面を盛り上げる、黄色く、艶のある塊。ただ揺れながらではなく、同色の脚、同色のハサミを地表に突き刺して、一生懸命引き抜いている。
極小から超巨大まで、遅れを取らずに蠢き、軋みだした。
「……小娘、なんだありゃ?」
「あれは───」
「やっべ逃げるぞ」
「おう待てやアイシャ。今回は逃がさんぞ」
首根っこを鷲掴みにし、俺の隣へ持ってくる。
全ての宝石に生命が宿り終え、この大鉱脈を形成する怪物の正体が明らかとなる。
「……カ……ニ……?」
なんと、カニだ。川や海、はたまた沼や池に生息する、美味しいカニだ。
顎が合わさって、盾の様な形をし、右腕のハサミは身体にフィットしているが、左腕のハサミは、非対称に細く、小さなもの。宝石を除けば、凹凸のない丸みを帯びたシルエットになるだろう。
ニョキッと天に伸びる、棒状の目は真っ黒。個体そのものの大きさによって、背負う宝石の大小が比例する。
そう。つまり奥に見える超巨大な宝石は……超巨大な、カニ。
「『プラムカシム』の大移動が始まるぞ」
「あー、つまりこの大群が、押し寄せて来るっつーワケだなねーちゃん?」
「オーガ、ねーちゃんって私のことか。……ま、そういうワケだな。退散!」
シュイイィィィイイ!!!
最後列を陣取る大将軍が、口から泡を放出しながら右腕を大きく振り回す。
シュイイィィイイイィィイィイイ!!!
将軍様の大号令に呼応し、一族は大海へと大進行を開始した!
大地に轟く無数の足音、立ちこめる砂埃、障害物なんてなんのその。前列の同胞を急かして一刻も早く、蒼い海を目指す。
命ある大鉱脈は動き、歩み、道行く者を呑む大波となった。微々たる力を大集結させ、一種の自然現象を生んだ。
「オーガ! 私を担げ! そして走れ!」
「ロンゴ! 私もお願いします!」
お前らは……
「だーっ! 自分で走れよ! オメェら重すぎなんだ───」
バチィイン!
ロンゴが、二人にビンタされた。余計なこと言わなければ良かったのに……。鬼人の赤い肌は、部分的に赤さが増した。
「喧嘩してねぇで逃げるぞ皆!」
カニたちは身体を横に向けず、正面を進行方向に向けらながらやって来る。
指摘、感想等が御座いましたら、誰でもお気軽にコメントをして下さい。




