三十三話 緊急:地に降り注ぐ、星々の欠片
─隠れた雑貨屋(深夜)─
「……起きろ後輩。朝だぞ」
「………………」
バシッ
「痛ぇ」
目覚ましビンタをくらい、ハッキリと目が覚めた。左頬がジンジンする。この人は寝ている人の起こし方を知らないのか。どこまで非常識なんだ。
バカを睨む前に、首を曲げて時計を探す。枕元にある時計は、午前零時を指していた。
「……十二時だが……」
「ロイン、おはようございます」
言葉通りの深夜。コレを朝だと言える精神はなんだ。セリスも『おはようございます』って。早すぎるわ。
彼女らは眠気など感じないのか、目を細めたり、欠伸をせずにパッチリと目が見開いている。
俺の起床を確認したら、アイシャはロンゴの腹の上であぐらをかいた。
「………………」
「…………う……お……ストン……ロクスが……」
バチィン!
容赦ないビンタをが炸裂した。
ロンゴが不遇すぎる。せめて『起きろ』ぐらい言ってやれ。
「よし、行くか。エルフの店主に邪魔しねぇようにな」
まことに珍しく、アイシャが他人を気遣っている。天変地異の前触れか。それとも悪巧みか……。後者の方が圧倒的に可能性があるのが、実に不思議だ。
階段を軽やかに降る四人。それはまるで、気配を遮断する泥棒のよう。
「じゃあ先行っててくれ。後から追いつく」
言動が完全に悪の組織のアイシャ。促されるままに出入り口を開け、セリス、ロンゴ、俺の順番で裏路地に出る。
ふとアイシャが気に掛かって、振り返る。
「どうした? 行ってていいぞ?」
「おい、袋にしまった物を棚に戻せ」
やっぱりだよ。コイツはこういうことを抜け目なくやるヤツだから。
太陽が照る時刻とは似ても似つかぬ、別世界のような夜道。人っ子一人出歩く者はいない。
野垂れ死んでいる人はいる。酒に酔って泥酔し、所構わずまぶたを閉じている。
街は寝静まり、各々《おのおの》の寝床で新たな日を待っていた。
それでも関所には、警備員がいる。多少怪しまれたが、アイシャが事情を説明すると、すんなり納得してくれた。秘かに応援する意思がみられる。
─荒れ地(深夜二時程)─
「さっっっむ……!!」
くっそ寒い。凍え死にそうだ。
空気は冷え、地面は冷たく、生物が棲《すめる環境とはとても思えない。
街中では建造物により、冷たい風が肌に触れることは無かったが、ここは裸地のようなもの。障壁となる岩石はあるが、岩肌自体が冷気を発しているように冷たく、防風として機能していない。
もっと厚着をしてくればよかった……。後悔がドッと心を蝕む。
そんな俺よりも、格段に死にそうな御方がいる。
熱い魂を持つ種族、鬼人その人である。不変の格好、即ち、ピッタリ張り付いた戦闘服である。暗闇に紛れる漆黒は、怪盗よろしく同化している。
だが、泣く子も黙る強面は青白くなり、身震いが絶えず、必死に身体を温めようと、筋肉を無理矢理縮こめている。
今にもぶっ倒れそうな、意気消沈した顔は見るに堪えない。
哀れ、鬼人の弱体化……。
以前、バクレツイワモドキを駆除する際に訪れた荒野と同じ場所。天高く太陽が見下ろす時間帯とは真逆、風が執拗に吹き乱れ、不気味な風音を奏でる。
「毎年この辺りだが……」
先陣を切る、月光に反射する赤髪は、どこから取り出したのか分からぬ単眼望遠鏡を、右目に添えた。
「いますか?」
「うーん……あ、いた。あそこに固まってる。早く行こっ!」
「はい!」
レンズ越しに見た物を伝えず、銀髪と赤髪は、示唆した方向へ駆けだした。
「……ロンゴ、大丈夫か……?」
「あ……ああ……大丈夫だ……ちょっと寒ぃぐらいだ……気にするこたぁねぇ……」
威厳を保とうとしているのか、やせ我慢をしているのか、どちらにせよ、尋常じゃない震え方をしている。
走っていれば温まるからと催促し、ロンゴとともに二人を追う。
変わらぬ地平線を眺め、ロンゴの顔色も元の赤色に戻った頃、不意にキラキラと輝く物体がチラリと見えた。
幻覚かと思ったが、走る距離が増すにつれて、星ではない輝きが増えていく。
二人に追いつき、脚を止める。
「なんだこりゃ……」
「こ……これは凄い……! 辺り一体宝石の山……!」
「ふっふっふ……これを全部独り占めすれば億万長者に待ったも同然……!」
閑散とした夜景を覆す、幻想的な光景。
紅、蒼、翠。荒れ地に出現した無類の宝石は、月光を屈折させ、甲乙を見定められぬ輝きを放っていた。一つ一つは微弱な光だが、一面を満遍なく照らし、廃れた世界を煌めかせていた
「すげぇ……」
縦に横に、広く流れる地上の『天の河』。向こう岸には、より逞しい星が落ちている。
絶句し、心を奪わた。……これから宝石を奪うわけだが。
「タイムリミットは日の出だ。お前ら、ありったけ掻き集めてこい!」
「おー!」「おう!」「お……う……(小刻みに震えながら)」
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