三十二話 緊急:一足早く、波はくる
─集会所─
通路が塞がれる程の人集りが出来ている。一階は勿論のこと、二階にも大勢の方々が。個性ある髪型や顔立ち、それぞれが馴染んだ装備、どれも同じ者はいない。
そして、人間ではない者もいない。俺のパーティーにいるロンゴだけだ。
冒険者は皆、十人十色だが、この場で仲間と広げる話題は、どのパーティーも一貫して同じであった。
そう、なぜ招集されたか、である。
無論この俺も、何が始まるかなんて分かるワケも無い。
「こんなに冒険者がいたのか……アイシャ、これって何の騒ぎだ?」
「さあな。あの時期にしては早すぎるし、集会所が潰れるって事でも無さそうだが……」
「……おい相棒、偉そうなオッサンが来たぞ」
大扉をバンと開き、役人らしき人物を二人引き連れて、ロンゴの言うとおり偉そうな男性が。
大股でズカズカと、受付の前にはだかる。
老けてはいないが、四十代半ばぐらいの容姿をしている。どちらかというと、『オヤジ』の見た目だ。白髪頭に厳つい眉毛、鋭い眼光を光らせる目。幹部のような軍曹のような服の水面下には、冒険者によくいるムキムキマッチョマンに負けず劣らずの筋肉。
「俺は皆さんご存知、集会所の……ギルドマスターだ」
シーンとした空気が、しばし流れる。ギルドマスターの付添人は真顔を貫く。
「急遽、君達に集まって貰ったのは他でもない。あの怪物の進行を確認した。早すぎるよな、俺も同意だ」
この発言により、集会所内の冒険者たちが響めく。
『あの時期』だとか『あの怪物』だとか、俺だけ置いてけぼりにされている。他の皆々は恒例のように熟知している様子……ロンゴもサッパリのようだ。
誰かに教えて欲しくても、教えて貰うのは恥ずかしいらしい。挙動不審になっている。
「彼らは例年通り、このエルメス城の背後にある臨海部を目指すだろう……」
ギルドマスターやらは、仁王立ちをしたまま演説を続ける。
「明日には、かつてない程の大群が押し寄せる。我が国の大切な資源だ! 功績によって報酬を弾もう! 貴様ら! 存分に採り尽くせ!」
ウオオオオォォォォオオオオオオォォォォオオォォォオオォォオオオ!!!
滾る興奮をありったけ表現し、半狂乱する者ども。一人一人の雄叫びは怒号とも呼べる。男女問わず人間性を失った様であった。目は血走り、血湧き肉躍っている。
「以上! 解散!」
そんな中、俺達四人は極めて冷静だった。俺は終始困惑中、アイシャはニヤリと笑みを浮かべ、セリスは満面の笑みでソワソワして、ロンゴはハタハタしているだけである。
俺のパーティーメンバーのこと、オカシイだとかヤバイ奴らとか関わりたくないとか闇鍋パーティーだとか、散々な罵詈雑言を浴びせてきたお前達。そっくりそのまま返してやるよ。
「アイシャ、そろそろ教えてくれ。どういう騒ぎだ?」
「後輩、どうせこの祭りは初めてだろ? 一攫千金の大チャンスだ。しくじるなよ……!」
「いやだから教えろって」
「噂には聞いてましたが、こんなにも早く来るとは! 一度体験してみたかったんですよ……!」
「……なぁ、え? おいコレ……人間こわっ……近づかんとこ……」
これだけは理解できた。人間の倫理観を崩壊させる程のイベントがやって来ること、怪物が関連していること、一攫千金が狙えること。
一部の団体は集会所を出て行き、留まった団体は、先程の狂喜乱舞から打って変わって、小声で作戦会議を始めた。一人残らず真剣そのものである。
「お前ら、今日はもう寝るぞ。明日は朝早く……出来れば夜中に出発だ」
「だから、概要を、教えろって」
女二人組は、溢れ出る歓びを隠しきれずに集会所を飛び出し、『雑貨屋』へと向かった。
あまりの突拍子な事に、取り残された俺達。
「何がここまで駆り立てるのか……おい相棒、昼飯食おうぜ」
「もう寝るって言ってたが……食うか。アイツら深夜に起きる気でいるから、朝食は食えんだろうし」
お昼時はとっくに過ぎているため、ちゃんとしたご飯を食べている人はいない。酒やつまみ等の軽食のみだ。
所望する料理が丁度決まったタイミングで、従業員が傍を通ったので注文を。
俺は腹が膨れた状態で寝るのは苦しいので、腹八分より少ない料理を頼む。
「オレは……このステーキ……」
ロンゴは違った。ガッツリ、肉厚のステーキをご注文した。
個人のアレなので、とやかく言うつもりはないが……。
「を二つ」
を二つ!?
指摘、感想等が御座いましたら、誰でもお気軽にコメントをして下さい。




