三十一話 不穏
─隠れた雑貨屋─
ふと感じたが、どうして表に店を構えないのだろうか。こんな人通りのない、近所の子供と虫が好みそうな所で。
看板による案内も宣伝もしていないのに、人は来るのだろうか。
……まさか、表に出せないような物でもあるのか。それとも、彼女自身が危ない存在なのか……。
まあそんな事は無いだろ。明るく元気で、後ろめたい過去がある様には思えん。
「店主ー。依頼終わった……ぞ……」
「おー、お疲れ様! 集会所から連絡来てるよ」
「……っ! ……じゃあまた……」
全身を黒い布で覆い、フードを被った女性が。俺が入ってきた事に、大袈裟なまでに反応していた。
足早にこちらへ向かってきて、俺を避けて店を出た。
怪しすぎだろ……。
後ろから付いてきた三人も、若干動揺していた。しかし、誰も口にはしなかった。
「ありがとーございましたー」
人の事を何でもかんでも聞くのは、普段だったら気が引ける。でもあの女性に関しては別だ。こんなに怪しい動きをされたら、気になってしょうがない。
「あの……さっきの人は……?」
「うーん……ウチのお得意様、かな? 週に一度来てくれる人だよ。あ、勿論プライベートは言わないから」
この店、長居はしたくないな。どうにか寝床は得ることが出来たが、あのような客人ばかりだと精神が磨り減る……。
いつか殺し屋が来るんじゃないか……?
「キミたちの寝床に布団運んどいたから、好きに使ってね。洗濯してあげてもいいけど、料金は重なるよ」
「やった。後輩、面倒くさいからやって貰おうぜ?」
「お前ら朝から暇だろ……。ちなみに一泊の合計、いくらになる?」
「一人五十万で」
「無しだ。お前ら、自分の布団は自分で管理しろよ」
「はっはっは! 冗談だよ。合計で一人、一万ジルだ」
宿屋よりかは二倍近く高いが、文句贅沢は言ってられないな。お願いしておこう。
こっちは誰かさんが脅した身だし。
そもそもの話、雑貨屋に泊めもらう輩なんぞ前代未聞だろう。常識のある人だったらそんな事はしないし、考えつくことも無い。
「あと、部屋を貸す条件として───」
「じゃ、私は部屋見てくるわ。自分の領地を確保する」
「抜け駆けは許せねぇ。オレもついてくぜ」
「あ! 待って! 枕だけは決めさせてください!」
「はしゃぐな阿呆ども! 店主の話を聞け!」
子供のように我先と、互いに押し退けて屋根裏へ突撃していった。
見ているこっちが恥ずかしい。
こんなヤツらの責任者って……。それだけで生涯の恥になりかねん。
「はっはっは! 元気でいいじゃないか。それで条件なんだけど、一つは私物の管理を徹底すること、ゴミとかは自分達で片付けてね。もう一つは、何よりも最優先で私の手伝いをすること」
「ほう? それって商業的な?」
「ま、大まかにはそうだね。雑用もこなしてもらうよ?」
「……アイツらはともかく、俺は了解したよ。遠慮無く言ってくれ」
「よろしい! ……そういえば君、あの『筒』は役に立ったかい?」
「筒? ……あ、コレか。そういえば貰ってたな」
右腰に、紐でキツく縛られた筒を取り出した。
「それだよ! ……もう、せっかく無料であげたんだから、ちゃんと活用してよ?」
「あ、ああ。ごめんな? 生きるのに必死で忘れてたよ」
「まったく……うーん、にしても、『筒』呼ばわりだと特別感がないな……よし! 命名しよう! そいつは今日から『亜空筒』だ!」
「アクウトウ……?」
「うん! 大事にしてくれたまえ!」
─集会所本部─
時刻は一時、昼過ぎちょっと。
二人の男が、個室で会話をしている。
「……それは本当か」
「はい、間違いありません」
「まじかよおい。こんな早い時期に来るか?」
「速やかに迎撃準備、もとい冒険者の集合をするべきかと」
「ウッソだろ……予想なら二ヶ月後の筈なんだが? ……非常事態だ。各地で観測されている不可解な震動も見過ごせないが、今は目の前にある問題が先だ。……すぐに銅鑼を鳴らせ。街中の冒険者を募るのだ……!」
─隠れた雑貨屋─
「占領完了、今日からここが私たちの陣地だ。よろしくな銀髪」
「枕、選ばせてくれてありがとうございます」
「くそう……男は不当な扱いを受けるのか? オレらにだって権利はあるだろ?」
「女性はプライベートを遵守する必要があるからな。優先されて当然だろ? 悔しかったら女になれば良いじゃねぇかははは」
カウンター奥の扉を開くと、右手側に階段、左手側に別の扉が。こちらには店主さんの部屋があるため、立ち入り禁止となっている。
階段を登ると、手すりに寄っ掛かったロンゴの背中が見える。
使用許可が降りた屋根裏は、一つの部屋みたいなものである。
天井は『ハ』の字になっていて、端っこに道具箱やらなんやらが放置されている。そして……カーテン代わりの布が、部屋を中央で分断していた。
カーテンの向こうは、女性陣が占拠しているんだろうな。
「おーすっげー。天窓付いてるぞ銀髪」
間違いない。
ロンゴが悲しい表情をしている。有無を言わせずに分別されたのが、聞かずとも分かる。
「わあ! 屋根に登れますよ! 良い景色です!」
ロンゴは寄っ掛かったまま腕を組み、神妙な顔で斜め上の虚空を見上げる。
「……相棒、オレたちにゃ自由が無ぇみたいだな。……こうなりゃ、力で捻じ伏せてどっちが上からわからせて」
「それだけは止めとけ。多方面の問題に関わるから」
一先ず、荷物を端にまとめる。おもむろにカーテンへの接近を試みて、一歩二歩と遠慮無しに足を運ぶ。
そしたら、膝の高さににセリス、その上にアイシャの顔がぬっと生えてきた。こちらもまた神妙な顔をしている。
「「……………………」」
「………………………」
「後輩、襲う気か?」
「しねぇよバカ」
引っ叩いてやろうかと心にした時、
バアァァアン……バアァァアン……バアァァアン……
不安を煽るような鈍い音が、三回街を浸透させた。銅鑼を鳴らしたような、鐘を鳴らしたような。
「……なんだ今の?」
「これは……集会所からの要請だな。後輩、急いで行くぞ」
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