三十話 レア素材? の鑑定結果
─集会所─
「こちらが報酬金となります。お疲れさまでした」
二つのパーティーが、それぞれ受付で達成報告を済ませた。
『撃退』することが条件の依頼は、俺らが追っ払った確固たる証拠がないのに大丈夫なのだろうか。頻出した怪物(個体)が姿を現さなければいいだけなのか。
「そうだロインさん! 鑑定結果が出ました。これが取引額です。どうぞお受け取りを」
「あ、そういえばそうでしたね。私とロンゴに感謝してください!」
今日の本命はこれだ。俺とアイシャが道具屋で捕まっている間、二人は依頼に出掛けた。
その副産物として、受付嬢さんが騒然する程、物珍しい素材を獲ってきたのだ。
どこかから盗み聞きしたのだが、二人がいたであろう狩場は、局地的に嵐でもやって来たのかと疑う程の大荒れだったそうな。
どれだけズッシリしているかワクワクしながら、手渡しされた袋を受け取る……。
「……うん?」
「どうしましたロイン。早く見せて下さい!」
「俺の戦果でもあるからな。さっさと袋を開けろよ!」
勝手に『重量がある』と思い込んで力んでいたが、想定より軽く、不自然に腕が上がった。
えっ……軽っ……。
「どうした後輩? ほれ、見せろ」
横から袋を奪い取られた。軽さに疑問を持つことなく、大金が詰まっていると期待して袋を開ける。
それを魔法使い二人が覗き込むと……
「「「………………」」」
三人共々、疑問符が頭上に出るような、困り果てた表情を揃えた。
なんとなく察した俺も、念の為鑑定結果を拝見する。
袋の底に、多いとも少ないとも言えない貨幣が重なっている。
おかしいな。受付嬢さんは興奮して『下手すれば百万ジルになります!』とか言ってた覚えがあるんだがな。
「……後輩、裁判ってどうやって起こすんだ?」
「訴訟ものですよこれ! 担当した鑑定士は目が腐ってるんじゃないですか!? 今すぐ責任者をここに呼んでください!」
憤怒して、なんの罪も無い受付嬢さんに噛み付くセリス。ロンゴはキョトンとしたまま、袋を覗いている。
「実はその……あの素材は、ハルムサントの近縁種にあたる、『ヒリュウダマシ』のものでして……。鱗や爪の形状、翼膜も、ハルムサントと非常に酷似していたので……期待させてすみません……」
「はああぁぁぁあああ!? それでももっと高値で売れるでしょう!? やっぱり裁判を起こしましょう!」
セリスは激怒した。必ず、かの阿爺下頷の鑑定士を除かねばならぬと決意した。セリスには相場がわからぬ。セリスは街の魔法使いである。力を操り、パーティーメンバーと冒険者として暮らし始めた。けれども自分に不都合な事に対しては、人一倍に敏感であった。
「嬢ちゃん。それに関しちゃ俺が教えたる」
横から割り込んだのは、椅子に座った、鋼の鎧を身に着けたダンディーな男性。口髭をはやし、ジョッキを片手にしている。
「ハルムサントの素材は鋼の様に頑丈で、高熱で変形し、冷やすと固まる。つまり加工がしやすいんだ。だが、ヒリュウダマシはそうじゃぁない。絶命した後、鱗は脆くなり、翼膜は破れやすくなる。唯一使えるのは骨ぐらいだ。強固さは衰えないからな。……以上だ。邪魔したな」
男性は残った酒を一気飲みし、集会所を出た。
「くっ……! あの髭オヤジ……!」
「まあ小娘、他人に当たるのはよせ。ゼロじゃなかっただけいいじゃねぇか」
「そうだぞ銀髪。当たるなら正面からぶん殴ってやれ」
「アイシャ、野蛮な事を催促するんじゃない」
結果は結果、これ以上上下はしない。納得しない御様子のセリスは、眉を寄せて拗ねている。
同行をしたロンゴは、『まあいっか』程度にこの結果を捉え、驚きはしたが気には留めていないようだ。
心が広いのか、ただの脳天気か。
一悶着あったが、エルフの『店主』から承った依頼を無事……ではないが完了させたので、報告しにいこう。
まさかあの『トロールの撃退』が彼女の要望だったとはな……。
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