二十九話 一難去ってまた一難
「オーガ! もっと速く走れって! 追いつかれちまうだろうが!」
「そんなこと言ってもよぉ! 顔と脛が妙に痛ぇんだよ!」
「ロンゴ! 岩が飛んできます! 右に回避を!」
「小娘も魔法使えるんだろ!? そいつで援護してくれや!」
二人の女性を脇に挟み、獣道を爆走する鬼人。非常に走り辛い条件で、なおかつ追いつかれたら『死』という最悪の追い打ち。
これには鬼人も苦悶の表情。反発の一つや二つはしたくなるもの。
「先程の罠で限界だったんです! それにロンゴも担ぐときにも……!」
「……お? あそこで乱闘が起きてるぞ……あっ後輩だ。 オーガ、あっちに舵を切れ」
「りょうか───」
「いっ───」「えっ───」
まさかこの俺が……木の根に引っかかるとはな……。
両手に花を抱えているため、手を使って受け身を取れず、顔面からスライディングしていった。極めて小さな砂利と摩擦が牙を剥き、あわや大惨事。
アイシャは両手が自由だったため、素晴らしい受け身を取って無傷。セリスは道連れになった。
「ほいっと」「ぎゃふっ!」
二人はすぐさま状態を立て直したが、未だに突っ伏している人が。
「……俺はもうダメだ……良いことが一つもねぇ……」
拗ねている。なんなら泣きそうになっている。
廃人になりかけている鬼人に見向きもせず、赤髪の女は、挑発して追ってこさせた怪物を警戒する。
一足遅れて臨場した怪物を確認して、
「銀髪、オーガの悩みを聞いてやれ」
そう言い残しす。二人から離れ、怪物に挑発を仕掛けて
「ほれこっちだ」
ピュイーーーーーッ
口笛で呼び、ロインが混戦しているであろう戦場へ。目立つ行動をした彼女に敵視が向き、怪物は後を追う。
─俺側─
繰り広げられる争いには唖然とするしかない。巨大なムカデがトロールに巻き付き、トロールは無理矢理引き剥がそうと、刺さった無数の脚を力任せに千切る。
互角に見えるが、ムカデの方が劣勢だ。確実に追い込まれている。何度か逃げる素振りもあり、勝敗は付いたも同然だった。
そして終幕。トロールがムカデの頭部を全体重で踏み潰したことでムカデは活動を停止した。
「すげぇ……」
鎧を着た武者は息絶え、豪腕の巨人は深手を負った。あれだけ執念深かったトロールが、こちらを認識しても襲ってこない。それどころか、観念したように去った。
「お、やったぜお前ら! 『カリュキュク』を仕留めてくれたぞ!」
リーダー格の男が、歓喜しながらひょっこり現れた。後に続いてメンバーの二人も。
「なんやかんやあったけど、結果オーライだな! これだけは感謝しとくぜロイン!」
俺のことを良く思ってなかった面影は消え、友好的になった。
「なんで感謝してんだ? 迷惑かけただろ?」
「このカリュキュクは、俺らの討伐対象なんだ。手間が大幅に省けて助かったぜ」
そう言って、無惨に散るムカデに指を指した。
ほーん。てことは俺の依頼とそっちの依頼、同時に達成したって事か。俺のは撃退で、あのトロールはしばらく危害を加えてこないだろう。
「縁があったらまた会おうぜ」
「生きてるから良い土産話になるね! じゃ、私は素材を剥ぎ取ってくるから」
筋肉質な男性は、綺麗に並んだ歯を見せつけ、女性はカリュキュクの素材を剥ぎにいった。
素材? ……報酬金……お金……?
そうだ。帰ったら鑑定結果を聞かないと。お昼はとっくに過ぎているから急がないと。
依頼は達成され、双方ともに小さな友情が芽生えた。
だが、第二ラウンドの開幕だ。
「おーい、こうはーい! 助けに来たぞおー! ……あれ?」
「うわっアイシャもいる! なんでいるん───」
グルロオオオオオォォォオ!!
グラロロロロロロロロロ!!
なんか来た。今まで見たこともないような、おぞましい怪物が。
黒焦げの体毛で全身を隠すした、山のような巨人。そう、トロールだ。
だが、依頼対象のトロールとは明確に異なる、歪な特徴が。
胴体に四肢はなんの変哲もない、至って普通の構造だ。しかし、それを凌駕する二つの頭、二本の尻尾。生物としては異形な形態は、俺を震撼させた。
「なんでトロールを連れてきたアイシャァア!」
「トロールじゃなくてツインヘッド。この森のボスだ。……トロールどこいった?」
「もう追っ払ったわ! なんでお前は余計なことばかりするんだよ!」
「あっそう。じゃあこれで」
「えっ」
真っ直ぐ向かってきたアイシャは、脇道へと方向転換。出会って数秒で退場した。
自我のあるお荷物を届けて。
グオオォォォオオオオ!!
グロロロロロロロロロロ!!
二つの頭が咆哮をする。元気いっぱいで襲う気満々だぁ。
「やっぱりお前ら嫌いだ! 二人とも逃げるぞ!」
「はい!」「おう!」
「言っとくけど俺も被害者だからな!」
第二回、四人仲良く、捕まったら即あの世行きの逃走劇が始まった。
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