二十八話 乱入:地底の捕食者
─三人パーティーとロイン─
俺たちは今、洞穴に潜んでいる。どういった経緯で作られたのかは不明だが、かなり奥まで続いているようだ。天井からは根っこが垂れ、土がパラパラと降り注ぐ、衛生的とは言えない横穴だ。
フゴッフゴッ……フゴッフゴッフゴッ……
「「「………………」」」
三人が、怪訝そうにこっちを見てる……。本当にスミマセン……。申し訳ないです……。
トロールが近くにいるので、全身全霊の詫びと謝罪が出来ないこの時間が、かな~り心にくる。
三人の内唯一の女性が、顔をまじまじと拝見して、こんなことを。
『ねぇアンタ、ロインでしょ? あの「闇鍋パーティー」のリーダー』
『は? ……おう。そうだが……』
闇鍋パーティー!? そんな蔑称で呼ばれてたの!?
いやまぁ確かに、異様な物をブチ込んだ『パーティー』だし、妙に納得できる謎のセンスではあるが……この『闇鍋パーティー』というあだ名の制作者を問い詰めたい。
『お前と銀髪の娘はまともだと思ってたが……まさかリーダーさえ非常識だったとはな。なぜ俺たちに擦り付けたんだよ……』
『本当に……申し訳ないです……』
リーダー格の男性は批難した目で見てくる。
小声で話しているが、重い口調で言われているのも合わさって胸が苦しい。
『ま、ワザとじゃないようだし、許してやろうぜ? コイツだって、他意があってやった訳じゃねぇだろ。逃げた先に俺たちがいただけだ。それに……俺はコイツに同情するしな』
もう一人の筋肉質な男性は、優しい心の持ち主だった。
そう言ってくれると有り難い……。少し肩の荷が降りて、気持ちが楽になった。
グホッグホッ……ホゴッホゴッホゴッ……
『……まずい、近づいてきた。……皆、奥へ移動してくれ。音を立てるな……』
リーダーに従って、洞穴の奥地へ避難。可能な限り音を立てずに後ずさるため、その動きは忍者さながら。
カカッ……
『……うん? ねえ皆、今奥から変な音が───』
女性が簡易的なランタンに火を灯し、薄暗がりの洞穴に柔らかい光を充満させた。暗闇から解放され、不安が安心に変わる……筈が、反応は真逆であった。
「きゃあああああぁぁぁああ!!!」
キイィィィィイイイイッッ!!
爪で引っ掻くような鳴き声。それは、この『狩り場』と洞穴の主であった。
弱い灯に照る黒光りの鎧、ガラス玉のような四対の眼。赤く、鞭のように長い触角に、裂けた大顎、さらに収納された刃のような顎。突起する甲殻の棘、両側で構える大鎌。
どれをとっても、それは『獣』とは遠く離れたものだった。地を這い、壁を這い、多くから忌み嫌われる存在。固く、堅い生物の王者だ。
闇に潜む、正体不明の怪物を第一に目撃した女性は、背筋を凍らせ、洞穴に木霊する絶叫を上げた。
キイィィィィイイッッ!! カカカカカカッ!
「おい! ここから出るぞ───」
グオオオォォォオオオォォォオ!!
地獄絵図だ。前には怒り狂う巨人、後には血に飢えた怪物。
やっべえ。死んだわコレ。
後にも先にも無いであろう絶体絶命の瞬間トップテンのランキングは、この事態が第一位に輝くだろう。生きていたら話だが。
軽く放心しているところに、次の試練が。
「うわっぶねぇ!」
トロールが、洞穴に片腕を挿入した。そのまま掻き乱し、洞穴内は土埃で視界がままならな───
「あぁぁあああっ! 目が亜あぁぁぁあああ!!!」
フクレテッポウの二の舞を、華麗に演じた。くっそ前が見えねぇえ!
さっきまではハンデ無しだが、音と震動と本能で、身の危険を察知しなければならないデスゲームに移り変わった。
キイィィィィイイイイッッ!!
再び金切り声を反響させた『主』は、我が家を荒らす不届き者に噛み付いた。
発達した両腕で指を挟み、強靱な顎で食らいつく。
その激痛に耐えかねたトロールは、火を触ったように腕を引っ込めた。
主は食らいついたまま離そうとせず、為されるがままに一本釣りをされる。
全体像が初めて露わになった。
胴体が一枚一枚の甲殻で接がれ、全長はゆうに二十メートルはある巨大なムカデのような怪物。最前列の脚以外は、身体を移動させる機能がある。尻側は、質量が大きい糸のようなものが、幾本も付着している。
「いまだ! 争っているうちに逃げるぞ!」
「おう!」「はい!」
「目がああぁあぁぁぁあ!!」
なんでお前らは損傷無いんだ!?
何が起こっているか分からないが、彼らは逃げるそうだ。俺も涙が溢れて止まらない目を押さえて、転げるように地上へ這い上がる。
グオオオォォォオオオッゴゴオオッオッオ!!
キュイィィィィイイイイッッ!!
絡み合う巨体と巨体。暴れ回るその暴虐っぷりは、激しい生存本能を感じる。
見えないが。
流れ弾を喰らわないように、安全地帯まで離れようとした。
この大怪獣バトルに燃料を投下し、状況を追加で激化、悪化させる、本当に病院へ連れて行きたくなるような闇鍋集団が、新たな刺客を誘導しているとはつゆ知らず。
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