二十五話 国宝級の遺物
─遡ること四時間前─
「……えっ……えぇ……」
「何見てんだコラ。みせもんちゃうぞ」
「俺様がそんなに珍しいか? それとも一目惚れか?」
「いや……ここ私の店の前なんですけど……」
「むむっ……もしや貴方、森人ではないですか?」
しばらく店を空け、遠征先で仕入れを済ませて帰ってきたら、四人の若者が店の前で寝転がっていた。一人は熟睡して気が付いていませんが。
「えぇ……まあそうですけど……」
「ほほーん? ……なあ嬢ちゃん、私たちを助けてくれないかね? 寝床が無くて困っているのだよ」
「いや……そんなことはしたくないのですが……」
「いいのかな? 君が森人ってだけで、私たち人間は大きな利益を生み出す事が出来るのだが……なあ、オーガ?」
「ふんがーっ」
「ひぇっ……」
この人たち怖い。まともな情緒を持ち合わせていないのですか……!
「二人ともふざけないで下さい」
あぁ、この子だけはまともそうだ。言葉遣いも丁寧だし、ちまっこくて可愛い。
「あの、森人のお方、我々に寝床を提供してくださりますか? ここ数日間ここで寝てるんです」
私の店の前で数日も!? すごい鳥肌が立った!
この子だけには申し訳ないけど、なんとかして追い返さないと……身の危険が……!
「……あの、宿屋とかに行かれてはどうで」
「どこも、かしこも、空いちゃいねえんだ。断ったら、後は分かるな?」
赤髪の人は本気で殺りにくる目をしている。私は逃げ道を断たれ、選択肢が『はい』か『分かりました』の二択に迫られた。
「……やっ……屋根裏で……良ければ……」
「決まりだな。もちろん代金は払うから、そこは安心してくれ」
「小娘、クズってこういうヤツのことを言うのかね?」
「でしょうね」
あ……あぁ……私の生活スペースが奪われた……。
─現在─
「脅したのかよ! 本当にスミマセン!」
「ははは、いいよいいよ。この人たちのこと、嫌いじゃなくなったし。……と、いう成り行きがありましてね。君の仲間達は見直した方が良いんじゃないかい?」
「あの赤髪は、どうやっても更生しないだろうな……」
見直すというか、根本的に排除したいんだ。でもな、それが出来ないのですよ。なんせ赤髪のクズに脅迫されましたから。『追放したら、あることないこと言いふらす』って。
それにしても君達、馴染むのが早いな。マイナスの好感度から、四時間でここまで心を通わせるとは。
なお戦犯は、ふんぞり返って鬼人とテーブルゲームをしている。セリスはギャラリーと化している。
「聞いたんだけどさ、君たち冒険者なんでしょ? 一つ頼まれてくれないかな?」
「そうだな……お詫びも含めて。何をすれば良いんだ?」
彼女はふふんと笑い、跳ねるように会計口へ向かった。
引き出しを空け、ガサガサと何かを探り出した。
細長い筒と、瓶に入った妖しい紫の光を反射する、小さな宝石だ。
それを俺に見せると、軽い口弾みで要望を語った。
「お願いは二つあるんだけど、一つはこれ。この筒を役立ててほしい」
「……なんだこれ?」
「ふっふっふ。聞いて驚け! その筒はね、あらゆる物を仕舞える『空間魔法』が封じ込められた一品なのさ! 世界に残る遺物の中の一つでもある、超レア物だよ! 気付いてたら持ってた」
気付いたらって……。なんかよく分からないけど、とてもすごそうだな、と思った。
円筒状で、不可思議な模様が彫られている。茶色が基調で、蓋が付いていない方の持ち手側に、スイッチが縦に二個付いている。
「代金は要らない。下のスイッチで吸い込んで、上のスイッチで吐き出す。思う存分に使ってくれ」
「え!? でもさっき、超レア物っていってたけど……?」
「いいのさ。ここ三十年は買い取り先がいないし、置いてあるだけ宝の持ち腐れだよ」
三十年……。一般人が聞いたら、年齢と見た目のギャップに突っこまずにはいられないだろうが、俺はもう慣れている。
「国とか学者とかに売れば良いんじゃないか? 結構な額になるだろ?」
この台詞を言い放った際、店主さんは
「国なんかに売ったら、保管されるだけで一生使われやしない。私はこれでも商人、売った物はしっかり使って欲しいんだ」
と、頬を赤らめながら恥ずかしそうに心情を伝えた。
これが商人魂というものなのか。彼女の言葉が心にジーンと染み、素直に感銘をうけた。
「これでお前の六連敗、私には勝てると思うなよ銀髪があ」
「ぐっ……おかしいです……まさかズルをしてないでしょうね!」
「小娘、実を言うと、最初から最後までしてた」
「ほらみたことか! 正々堂々と勝負してくださいよ!」
遊び呆けている外野がこの場にいなければ、だが。初めてセリスにも怒りを覚えた。
「なるほど……それで、もう一つの頼みっていうのは?」
「それはね、かなり厄介な『依頼』になるんだけど……」
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