二十四話 エルフが営む隠れた名店
早朝、頭痛が痛い。頭の中で反響しているような感覚だ。
地位は変わったが寝床は変わらず。ヒンヤリした石畳が頬にあたり、妙な安心感を得る。
今日はもうずっと寝ていたい……。何もしたくない……。
屋外で堕落した姿は、どう見ても酔っ払いのそれである。換金を申し込んだ素材達は、昼頃に鑑定結果が出るそうな。青位に成ったからといって、依頼を何日も請けずにいると、冒険者の階位が下がったり、剥奪の可能性もある。
だが、昨日までは働き過ぎた。昇格のペースも速すぎるし、しばらくは休んで良いかもな。鑑定結果次第では、大金も手に入る予定だし。
項垂れる時間が過ぎ、太陽は頂点を目指して昇っていく。
民家の陰となった裏路地は、好奇心旺盛な子供以外は踏み入らないだろう。
「……えっ……えぇ……」
ただ一人、木箱を運ぶ、とんがり耳を持つ女性を除いて。
「あ……集会所行かなきゃ……」
結局、昼近くまで寝過ごしてしまった。
そろそろ集会所に行って、換金額を受け取らなければ。ワクワクがとまらねぇ。
メンバーの目覚まし係になろうと、昨夜、彼女らが寝ていた位置に目を配るが……やはりというか、この時間でも爆睡しているのはセリスだけだった。
「起きなさい」
「起きてます」
「うわあ起きてる」
「さらに言うと四時間前から起きてます」
そんな早くから起きたんだったら、皆と一緒に移動すれば良かったのに。
もしかすると俺の身を案じて見守ってくれたのか?
「もしかして……俺を心配して」
「ジャンケンで負けました。所謂、罰ゲームです」
そうですね知ってました。
罰ゲームということも踏まえて、朝から心底残念な心情となった。
というか、そこまでするんだったら起こせよ。
「じゃ、集会所にいくか。二人もそこに行ったんだろ?」
「いえ、実はですね……」
「おっ、やっぱり起きてたか相棒! さっさと来いって」
壁から出てきた!? ……と、そんなことはなく、民家の勝手口? からガチャリとドアを開けて登場した。
「……まさかとは思うが、お前ら強盗した訳ではないよな?」
「そうかもしれませんね。さ、中に入りますよ」
セリスは、『ようやく解放された』と言いたげに溜息を吐き、ロンゴが開けっ放しにした勝手口へ、我が物のように入っていった。
……セリスが言うんだったら非道ではないだろう。
全員待っているらしいし、家の中にお邪魔しよう。家主は居るのだろうか……?
─隠れた雑貨屋─
中は小綺麗で、お洒落な照明器具で部屋全体が暖かい光に照らされている。
裏路地から入ってきたにも関わらず、様々な雑貨が分類されて展示されている。一般的な道具から何かの素材、怪物の部位等、普通の雑貨屋では見られないような商品も。
ここで違和感が。やけに爆薬類が多い。
「私がチャンピオンだ! 約束通り何かよこせー」
「くそう……五連敗とはなんて運が無い……。じゃあこの薬草をあげましょう」
「おちょくってんのかガキがこのやろう」
無礼な素振りを直さない、博打打ちのやり取りが。そこには、机を囲んだアイシャとロンゴに加え、見知らぬ若い娘が。
「……あっ! その人がリーダーさん?」
絶世の美女と言うべき顔つき。麗しく透き通るような金髪を肩まで伸ばし、何枚もの服を来重ねたような格好。立ち上がると、思っていた以上に背丈が高く、俺と同じほど。着目するのは失礼だが、胸は控えめ。前髪が長く、茶色の目は半目のようになっている。
一番の特徴として、髪の間から露わになった耳はとんがっている。
「私は、知る人ぞ知るこの店の店主だ。君、名前は何て言うの?」
「俺はロインだが……」
チラチラと目に映る耳が気になってしょうがない。この人、もしかして……。
「あまり口外はしないで頂きたいがね、私はこう見えても『森人』なのだよ。評判通り美しいだろう?」
服装のせいで体つきが分からないし、前髪も長くて全貌がよく分からないのだが。
そして、推測通り森人であったか。この種族はよく知っている。
古郷エルメンの里を囲む山脈、エルメン山脈の麓にある樹海で生活していた種族だからだ。交流もあったし、なんなら一人だけ森人の友人もいた。
森人一族は、美男美女の集まり。男としての意見だが、男性はムカつくほどの整った顔、女性は一目惚れするほどの美人さんだ。性格は知らん。
「すまないが、森人の美貌はもう慣れたから」
「あっ、そうですか……」
「ちょっと後輩、今のは聞き流せないなぁ? どういうことから説明を」
「そっちの名前は何て言うんだ?」
「それは敢えて言いません。あ、別にやましいことも裏もないですよ? まあ私のことは『店主』とでも呼んでくれ」
焦る素振りも嫌がる気もなく、名前の件は軽く流された。
こんな事よりも、個人的に気になった点が一つ。
「なんで俺たちを簡単に招き入れたんだ?」
森人はあまり、自分の生活空間などに人を呼ばない。
かの友人もそうだった。遊びに来るのはよくあったが、こちらが招かれることは一度も無かった。むしろ来るなとまで言われた程。
そんな森人が、積極的に他者を招くことが珍しかったのだ。
「ああー……それは君の仲間達がだね……」
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