十五話 普通のヤツはいないのか
「凄いですね。鬼人を仲間に迎えるなんて、並みの冒険者では考えられませんよ」
この鬼人は色々と考えられん所があるんだが。
「私はアンタの事、オーガって呼ぶから。早速だけど、そこのナキムクロを担いで──」
─────────────ッ!!
この金切り声は……間違いない。さっき相手をしたナキムクロだ。
鳴き声が聞こえたと思えば、今度はこちらに向かってくる足音が。俺の耳に間違いがなければ、数匹分はあるだろう。
下手したらここで全滅してしまう……!
「まずい! 逃げるぞお前ら! 複数相手は出来な──」
ドサッ……
ドサッ? 背後から何かが倒れる音が……。危険を察知し、瞬時に後方を確認する。
まさか別個体のナキムクロか──。
「……セリイイイィィィイイス!!」
目線の先には、地面に倒れ伏せた銀髪の少女が。身体を大地に預けている。
これはかなりの窮地では!? 唯一魔法が使える人材が脱落してしまった。どうするべきか……。
「ロンゴ! セリスを担いでってくれ!」
「セリスって誰だ? 倒れてる奴か?」
あっそうだ。自己紹介してねぇや。いや今はそんなことどうでもいい!
「なあにオメェら、心配にゃ及ばねぇよ。俺がまとめ迎え撃ってやらぁ」
「やめろ! 無謀だ! さっきナキムクロにやられてただろ!」
兎に角、この場から離れようと試みるが、この鬼人はやる気満々である。セリスも面倒見なければならないし……。
─────────ッ!!
あたふたしている内に、茂みから黒い物体が飛び出してきた。それも三匹。
コイツらが一斉に叫んだら死んでしまう……! そう直感した。
一方、戦闘態勢を取っているロンゴはというと、
「いくぜぇ……!」
本格的に迎撃するようである。今の彼に何を言っても、その言葉を跳ね返してしまうだろう。
そんなロンゴは、何やら分厚い掌を合わせ、力を込め始めた。血管が浮き出る程膨らんだ筋肉が素晴らしいが、より一層目を引く『現象』が起きた。
「えっ……ロンゴ、ソレってまさか……」
「間違いねぇ。あの鬼人、風魔法が使えるぞ。……なんか違うような気がするが」
明らかに空気とは違う、藻が混ざった汚水のように濁った、緑色のオーラがロンゴの掌へと集束していった。
アイシャが明言した通り、風魔法を扱う事が出来るのか……! 色がなんか汚いけど。心なしか澱んでいる感じがする。
「どっせい!」
勢いはあるが覇気の無い掛け声を上げ、その逞しい両腕を大きく振りかぶった。
同時に、荒れ狂う暴風が辺りを駆け巡り、ナキムクロのみが魔法の餌食となった。
風を操る姿勢、その背中はさながら風神のようである。
ナキムクロたちは抵抗をするも、三匹とも荒々しい強風に吹き飛ばされ、大きな身体を大木へと強打した。
「す……すげぇ……これが風魔法! ……ん?」
「鬼人も魔法を使えるとはな。知らなかっ……ん?」
「この魔法は使いたく無かったんだが……ようしオメェら、鼻、押さえとけ」
ロンゴが魔法を放った後、異変には即座に気がついた。
「クッサ! なにこれ臭い!」
腐卵臭のような下水路の臭いのような、信じられないほどの悪臭が鼻を刺激する。
自然に囲まれた清い空間だった筈が、不浄の空気が占領する異空間へと成り果てた。
風魔法って臭いの!?
そんな疑問を訴えるようにアイシャの顔を凝視するが、
「………………ッッ!」
笑顔か真顔しか見せなかったアイシャが、もの凄い形相をしている……っ! とても口を開けそうな状況ではない、深刻な状況だ。彼女も葛藤をしているだろう。
魔法を放った張本人は、
「わりぃな、俺が風魔法を使うと何故か臭いんだよ」
謝る気がない。へらへらしている。
俺とアイシャは絶賛悶絶中だが、セリスは大丈夫そうだ。気絶して臭いは分からない。
魔法を喰らったナキムクロたちは、木に叩き付けられて撃沈したのではなく、激臭によって動けなくなっているのだろう。ピクピクしてる。
早くこの場から離れないと。別の勢力が襲ってきた。
「さ……帰るぞお前ら」
「そうだな後輩……。オーガ、ナキムクロとセリス担いでってくれ」
「任されれたぜ!」
誇り高き種族なのに……雑用係を承諾しちゃうのか……。
こんな鬼人、仲間にしたくねぇ。でも本人は乗り気だし、追い出すのも忍びない。
これ以上留まる必要も無いので帰路につくことにした。
出発前は空高く昇っていた太陽は、今では山に隠れ、夕陽となっていた。大分時間を費やした様だ。
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