十一話 司令塔、到来
─俺側─
尻尾で振り払ったり、身体を木にぶつけたりして引き剥がそうとするも、皮膚に食い込んだ爪は抜けず、状況の打破は叶わない。
走り去ろうと踏ん張りを見せるが、纏わり付くハンターにより転倒した。
体力が持つ限り抵抗するも、徐々に力が抜け、最後には動かなくなった。
クルルルッ
「あっ」
仕留めた獲物に乗った一匹が、ようやくこちらの存在に気が付いた。いや、気付いてしまった。
体勢を低くし、威嚇をしてきた。その一匹の行動により、他の個体もこちらを向く。
獲物は横取りしないから! こっちに来るな!
下手に刺激しないよう心の中で懇願したが、当然のようににじり寄ってくる。
今の俺が可能なことは、ひたすらボタンを連打するのみだ。
心強い仲間が、早く参戦してくるのを願う一心で。
そんな状況は、無慈悲にも長くは続かず。
キシャアッッ!!
「ひいっ! 待って! 話せば和解出来るから!」
最前線にいたトストプが、謎の供述をする俺の腹部を片腕で圧迫した。そのまま鋭利な歯が並ぶ口内を開張した。
冒険者になって早々、死を悟った。
───その時、
「ていやっ!」
記憶に新しい可愛らしい声と共に、後ろから鮮烈なる閃光が迸る。
そして訳も分からぬまま、あさっての方向へ飛んでいった。
俺もトストプも混乱する。脳内で整理がされぬまま、第二波が。
「てえいっ! ……おわっ!?」
同じ声の主が叫んだ後、今度は直径一メートル程の火球が、弧を描いて飛んできた。
着地点はトストプたちの向こう側、リフイトスの遺体に直撃し、爆裂した。
顔を見ずとも分かる。こんな魔法を扱うのは奴しかいない。
「おいセリス! 俺もいるんだぞ!? ちゃんと考慮しろ!」
「仕方ないじゃないですか! 威力を制御出来ないんですから!」
「そこじゃねぇよ!」
三匹のトストプが爆風によって吹き飛ばされ、力尽きた。奇跡的に爆破から免れた一匹は、後ずさりをし始めた。
口論をしながら颯爽と駆けつけたのは、短い銀髪をなびかせ、あらゆる魔法を統べる少女、セリスである。
危機から奪還させたというのに愚痴を吐かれたセリスは、反論しながらもロインの拘束を解く。
「なあ、アイシャはどこ行った? まさか見捨てたわけじゃ──」
「オッラア!」
先程とは打って変わって、豪快な声が耳に届いた。こちらも同じく記憶に新しい声であった。
振り返ると、少し動揺してしまう光景が。
「よおっし、これで全部か? 呆気ないな」
またも返り血を浴びる、肌が赤く染まった赤髪の女。右手には持ち前のサーベル、もちろん血塗りの。
あれ? 数時間前にも同じ光景を見た気が……。
「トストプは……全部で四匹か。あんま稼げなかったな」
「アイシャ、俺になにか言うことがあるよな?」
「ん? あー、お疲れさん」
「おうお疲れ。分け前は俺が八割だ。異論は無いな?」
五つの死体が横たわる森は、不思議と静寂に包まれていた。まるで、嵐の前の静けさの如く。
「さて、帰りましょうか。魔法を二回連続で使用して疲れちゃいました」
「そうだな銀髪。じゃ、トストプの素材をちゃんと剥ぎ取って───」
バキバキバキッ
一難去って一息ついた矢先、不穏な音が鳴り響く。
重量級のナニカが、木々を踏み倒して真っ直ぐ向かって来るような気配が。
「お、おい、なんかこっちに来るぞ!?」
「きっとトストプの親玉です! 迎え撃ちますよ!」
「何言ってんの!? さっさと逃げ───、アイシャはどこに消えた」
俺の思考回路は逃げに徹しており、トストプの親玉が到来するであろう方向とは正反対の、この森に入ったときの方向へ疾走する準備をした。
しかし、ふと違和感を覚える。
人数が足りない。不足分はすぐさま特定できる。
「アイシャならとっくに逃げました」
とても分かり易いお知らせだ。アイツは後で絞めよう。
個人に対する怒りと不満が湧き出る最中、
グロロロロロロルルルル!!
腹に響く咆哮を轟かせながら、大型のトストプが現れた。体長は通常のトストプの三倍はある。単純に、全身の機能が大幅に膨れ上がっただけだが、充分驚異的である。
コイツはは太刀打ちできねぇ!
俺は正しい反応をするが、もう一人の敵前逃亡してない方の女は、えらく好戦的になっている。
「私の魔法があれば返り討ちにゴハァッ!?」
そんな彼女を、勢いよく肩に掲げて走り去る。脇腹に思いっ切りタックルしたと思うが、そんなことは構わない。
不規則に立ち並ぶ木々を避け、森の出口を目指す。
俺が避けた木を薙ぎながら、怒涛の勢いで追跡してくる怪物は、担がれたセリスの魔法によって撃退され、いつの間にかいなくなっていた。
一安心してセリスを降ろし、森を出る。
裏切りまがいの行為をしたアイシャは、陽光の下で満面に笑みで手を振っていた。
「ところでロイン、トストプの素材剥ぎ取りました?」
「えっ? …………あっ……」
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