十話 森林の狩人、トストプの狩猟 続
─女性陣─
静寂な森の中。
辺り一帯は、なんとものどかな緑が生い茂る。
一切の不安を断ち切るよな、荒んだ心を和らげるような優しい空間は、精神を安定させるのに適している。
「……本当に大丈夫なんですか? この作戦」
「問題ない。私が考え出した、恐ろしく完璧な作戦だからな。失敗しても被害が少ない、成功したら万々歳ってワケだ」
「しかし……いささか気が引けるのですが……」
「問題ない。トストプが現れたら合図が来るから、問題ない」
「そう……ですか……」
二人の女性は倒木の上に座り、『合図』を待っていた。
これから肉食動物を相手にするというのにも関わらず、主に赤髪の方は至って冷静に、緊張感のない会話をしている。
─俺側─
「…………なんでこうなるんだよ」
顔色が優れない一人の男性が、縄で縛り付けられていた。身動きは取れるが、動くのを完全に諦めた様子。
縛られた手の中には、何やらボタンのようなものが握られている。
「リーダーを囮にするなんて普通しねぇよ……何でこんなに効率の悪い作戦を立てるんだよ……もっと安全な作戦があっただろ……」
ガサッガサガサッ
「ひいっ!?」
なんだ!? トストプか!? トストプが来たのか!? 勘弁してくれよ身動きが取れねぇのに! 死んじまう……そうだ合図を送らなきゃ──
ガサッ
「うわっ……あ?」
登場したのは、大きな怪物。四足歩行で胴体は丸々と太く、頑丈そうな甲殻で全身が覆われている。頭部は平たく、全体的に焦げ茶色。
口の形状からして、おそらく草食動物だ。……こいつ、知ってるな。
「びっくりした……。はぐれ者か?」
やって来た巨体は、身動きが取れない人間を気にせず、近場の葉を呑気にかじり始めた。
コイツは、確か『リフイトス』だ。古郷のエルメンの村付近にも度々現れる怪物だ。普段は集団で移動する筈だが……一頭しかいない。
─女性陣─
「なにも囮にしなくてもいいじゃないですか。危険すぎますって」
「いいか銀髪。複数人でいっても、トストプは近寄らねぇよ。コロニーを見つけた方が手っ取り早いが、危険すぎるからな。これが最善策なんだよ」
「そんなことは無いと思いますが……」
「集団で探し回ってもトストプは逃げる。だったら独りにすれば良い。そうすりゃ適当に襲ってくるだろ」
「無責任過ぎやしませんか……?」
銀髪の少女は、赤髪の女の作戦に不安を抱きながら、生け贄となっている男の身を心配する。
その手には、銀色に輝く立方体が転がる。
「……暇だ。銀髪、面白い話して」
「それの後って、何言っても面白くないじゃないですか」
─俺側─
「…………」
ぼけーっと、リフイトスが食事をする光景を眺めるしかない。この場から逃げ出すことは、もう諦めた。
美味しそうに草をむっしゃむっしゃと……愛らしいなぁ……。
合図送って、さっさと助けて貰おうかな。なんなら依頼は失敗でいいや。次の依頼ではアイシャを陥れよう。まだ出会って一日も経ってないが、仕返しをする理由となる恨みが出来た。
「……このまま何事も無く終わらねぇかな」
……ガサッ
「……ん?」
風の為業ではない、植物が不自然に揺れる音がした。その音は目の前にいる巨体からではなく、位置的に、巨体の背面にある茂みから聞こえる。
両手両足を縛られているため、どうすることも出来ない。
たらりたらりと冷や汗が肌を滴る。思考を巡らせている中、あり得る最悪の事態を想定する。
────トストプが襲ってくる……?
いやまさかそんな事が起こるわけ……
グオォォオウッ!!
目の前にいるリフイトスが突如、後脚二本で立ち上がり声を荒げた。ズシンと前脚を降ろし、逃走を図ろうと助走し始めた。
まるで、迫ってくるナニカから逃げるように。
しかしその計略は、背後から飛び付いてきたナニカによって阻止された。
キシャアッッ!!
不穏の正体は、リフイトスより二回りほど小柄な怪物であった。それでも二メートルはあるだろう。
上半身が下半身に比べて太く、前脚も後脚に比べて強靱なトカゲ。体表は灰色、腹部は薄橙色。肩甲骨から腰に掛けて、細長い棘が一直線に伸びている。
前脚と後脚には鋭い鉤爪が装備され、イグアナのような頭部には、横から見たらノコギリのようにギザギザと甲殻が生え揃っている。
最初の一匹が跳びかかった後、次々と別個体が飛び出してきた。
一匹は尻尾を、一匹は脚を、一匹は背中を、一匹は首元を噛み付き、リフイトスの行動を完全に抑えてしまった。
「うわああぁぁあ!! アイシャ! セリス! 早く来いよ!」
計四匹のトカゲ、もといトストプが目の前で狩りを行っている。砂が跳んだりし、迫力が凄い。
手足を縛られながらも、その手にしっかりと握られたボタンを何度も押す。
転がって危険から逃れようとするが、背後には倒木が。ロインの行動を塞き止めるように、堂々と倒れていた。
─女性陣─
ヴッヴヴーッヴッヴーッヴヴヴー
「うわあ震動強っ!? あ、アイシャ! 合図が来ましたよ!」
「なんか不規則な合図だね?」
銀髪の少女が手の上で転がしていた立方体が、前触れもなく、鈍い音を出しながら断続的に震動し始めた。
「きっと襲われてるんですよ! 早く助けないと!」
現在起こっているであろう危機を、真剣に解決しようと戦慄する少女と、
「ははは生きてると良いけどな」
命の危機を不謹慎に捉える女は、戦場へと駆けだした。
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