↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の彼女は…  作者: イスカンダル
4章 夏の前の嵐
PR
48/59

捜査の夜は雨が止む

殺人犯は捕まらなく、降る雨は止まず。そんな日々はもう二週間と続いた。

さすがの警察も名前非公開。年齢不詳で事件の大まかな情報を流させた。もう、この町は隠されることなく殺人犯が潜伏している町。そう、世間に思われたのだ。

 

 で、そんな状況。町を捜査する警察の人数は数を増し、外出時の注意もより厳重に言われるようになった。そんな状況で俺は‥いや。俺達はというと。


 「ねぇ、今更だけど本当にこんな事してて大丈夫なの?これって犯人を匿ってるのと同じじゃないの?」


 場所は桜木家。その一室。桜木雲雀の自室。そこの床で俺達四人は円を作るように向かい合っていた。



 「まぁ、そうかもな。証拠とかないから言い逃れは全然できるとは思うが‥。」


 蔓実の発言に適当な返事を返す。すると今度は蔓実の隣、波瀬が口を開いた。


 「ていうか、そもそもの犯人に会えないのだからどうしようもないよね?新戸君はこの後どうするつもり?」


 「どうって言われてもな‥」


 チラリ。隣に座る桜木に首を向ける。まぁ、気付いた様子はないが。


 「まぁ、アレだ。とりあえず今日も同じでいこう。殺人罪が掛けられている英智を警察より早くに捜しだす。会えないなら会えるまでそうするしかないだろ?」


 「はぁ~。なんか開き治ってない?まぁ、それはそうなんだけど‥。」


 頭痛を訴えるかのような大きな溜息を吐き出した波瀬。正直なところ俺も全く同じ心境である。警察は勿論。教師も外回りは厳重にしている。そんな中で殺人犯を捜そうと言うのだ。溜息出ずに何が出ると言った話だ。


 「‥ごめんなさい。僕のワガママを皆に押し付けちゃって‥」


 床に視線を俯かせる桜木はボソリ。泣き出しそうな声を絞り出した。


 「それはいいって言ったじゃない。むしろ私達を頼ってくれて嬉しかった。なんも謝ることはないわ。」


 「そうそう。万が一になってもコイツに全て丸投げすれば全然問題ないし。桜木が謝ることなんて全然ないから。」


 「いや、待て。全然問題あるから。何だよ全部、俺に丸投げって?」


 蔓実の発言に思わず突っかかってしまう。その真意は分かっていようと。

 ‥うん。そうなんだよね?冗談なんだよね?マジじゃないんだよね?

 分かっていると言ったがやはり不安もあった。


 「とにかくまずはいつも通り。出された課題を終わらせましょう。どっちみち外に出られるのは日が落ちてからだしね。」


 俺の不安は解消されるままなく、波瀬は今日出された課題。五枚のプリントを床に広げる。

 

 「はぁ‥。こんな課題出されるんだったら学校あった方が全然楽だな。無くなって初めて気付く大切なもの。それって本当なんだな。」


 嘆息を口に俺も五枚のプリントを鞄の中から取り出す。


「何、馬鹿なこと言ってんのよ?さっさとやるわよ。」


 罵倒の言葉を忘れず、蔓実もプリントを取り出した。そして最後に無言のままであったが桜木もプリントを広げる。

 皆が皆、課題に集中。頭の良い彼女。彼等は課題に向き合うとペンを動かす音が止まない。

 ‥のだが、例外が一人。始めの方はスラスラ解けていた問題も中盤に指し変わると詰まり、消しゴムを握る数が増える。


 「‥ゆうちゃん。そこ分からないの?そこはね、この数をそこに持っていってこれとこれを分けて考えて‥」


 相変わらず、表情が優れていない桜木ではあったがさすがと言うのか。問題を解く俺の不調に気付いてあれやこれやと教えてくれる。

 悪いと思ったものの桜木の教え方は上手いし、課題を終わらせなければ真の目的をするのに遅れる。礼を言いつつ、桜木の言葉に習いながらペンを動かしていった。


 ペンの音。桜木が教えてくれる声。後は時計の秒針が動く微かな音。それらが外の雨音と混ざる。

 やはり、友人というものはいいものだ。こんな状況だからか、そんな事をいつも以上に感じてしまう。

 

 だが、しかし。


 そんな友人だから。そんな大切な仲間だから。巻き込みたくないと思ってしまう。俺だったらそうだし、多分ここにいる皆もそうだ。

 自分のせいで傷付けたり、不幸な目に合わせたくない。

 今、桜木がこんな暗い表情をしているのは恐らくはそんな想いが根源なのだろう。


 「あっ、この問題は教科書の三十五ページに載ってたよ‥」


 「なぁ、桜木?」


 課題のプリントは数学を終え、理科に指し変わっていた。桜木は始めの不調以来、俺に付きっきりで教えてくれている。今も俺のペンが止まったのを見るが否、教科書を取り出そうとしていた。

 そんな桜木に俺は声を挟む。


 「前は俺が楓香ちゃんの問題を持ってきた。だが、お前らは誰一人、嫌な顔せず俺に協力してくれた。だから、今回のコレもそういう事だ。あんま暗い表情とか見せんな。」


 「‥ゆうちゃん?」


 問題の箇所が載っているという教科書をペラペラ捲っていた手が止み、桜木の寂しそうな表情が俺を見る。思えば今日、初めて桜木の顔を見たような気がした。

 ‥いや、あの電話以来。学校が停止して以来、俺は桜木の顔を見ていなかった。本当に疲れきった顔してるな。


 「抜けがけとかほんと、あんたらしいわね。」


 「あっ‥いや、そんなつもりは‥。」


 一つ。動くペンの音が止み、蔓実の鋭い目線が俺を射つ。もう、殆ど慣れたつもりであったが一週間ちょっと会わなかった為か、彼女の目力に体が下がってしまう。


「桜木、私もそうだから。さっきのアレは確認だから。皆がいいのかどうか?私は皆に合わせるだけ。だって、桜木はいつも正しい事をしている。私はそう思ってるから。」


 蔓実の頬は赤色に染まる。小っ恥ずかしい台詞を言う時の癖は相変わらずだなと、思わず頬が緩む。

 のだが。直様、鋭い目線が。頬は緩む筈なく、むしろ固く閉じられた。

 ほんと、獣並の力あんぞ。その眼。


 「‥ちょっと、皆。サボってないで手を動かす。」

 

 動かすペンの音が止んでいく中、一つの音だけは止む事はなかった。既に波瀬は五枚中の課題を残り一枚まで終わらせつつある。


 「そんな当たり前の事、言ってないでまずは行動が先でしょ?桜木君もそう。皆に心配させるような顔はしない。結果が全てでその後の事はその後で考えればいいでしょ?」


 「‥う、うん。」


 波瀬はプリントから顔を上げず、桜木へ少し説教染みた台詞を。桜木はそんな彼女の台詞に少し萎縮した様子を見せていた。 

 だからか波瀬はペンを置き、桜木の方へと顔を向けた。


 「大丈夫かだら。桜木君自身がそう思ったのでしょ?昔の友達は何も変わってない。あなたが信じてあげないと。」


 そう言葉を残すとペンの音は再開される。

 それは、波瀬が桜木の顔を見ていたから。だから、直ぐにペンが動いたのだ。


 「‥そ、そうだね。‥皆ありがとう。」


 やっと、桜木の顔に笑顔が戻った。今までの疲労は取れる筈ないが、その顔を見るに気持ちの方は幾分か楽になったのではないか?そう思わずにはいられない。

  


 自分のワガママで。


 と、桜木は言っていた。


 だが実際は違う。どちらかと言えばコレは俺達のワガママなのだ。


 一週間前。あの電話が俺に掛かってきた日。桜木との電話を終えた俺は考えた後、二人に電話した。

 楓香ちゃんと柿宮に電話しなかったのは単純に電話番号を知らなかったのもあるし、あの問題を解決して日が間もない。巻き込むのは少し気が引けた。

 まだ、彼女。彼は学校に馴染んでもいない一年生だし。


 まぁ、気が引けたという理由は蔓実。波瀬にも言えた事なのだが。さすがにコレは桜木と俺で何とかなる問題ではない。

 だから、申し訳ないが二人に協力を要請したのだ。


 活動内容は英智の捜索。それと会話だ。


 いつしか担任教師に話し掛けるなと言われたが、事が事。破らさせて貰う。その約束。


 ‥だが、現状はそう簡単にはいかない。英智の捜索と言っても、言ったと思うが俺達が活動できる時間は夜以降となる。

 理由は昼間だと警察。教師に見付かる確率が高確率であるからとしか言い様がない。

 一度、見付かっているし二回目はさすがに面倒臭い事になりかねない。俺達の家付近に教師一人、配置されてはたまったもんじゃない。


 だから、体を動かす捜索は数時間が限度。

 時間も永遠ではない。全ての所に行く訳にもいかないし、場所を絞るしかないのだ。


 始めに課題を終わらせ、その後にそう言った話し合いをする。その方針がまとまったのはつい三日前となる。

 三日間では英智は見付かる事はなかった。警察の方でも恐らくは見付かっていない。

 

 そう考えると英智の逃走術は並を超えている。


 だが、昨日の夜。俺は最悪のケースを頭に入れてしまった。

 もし、もしもだ。その殺人事件には協力者が二人いて、英智という人物が殺されていたら‥。その死体はこの世から抹消されているかもしれない。

 死体は燃やされ、骨・歯。などの人物を特定させるようなモノは粉砕され、土に混ざり。

 そうなれば捜しようがない。


 もし、そうであったなら‥


 そんな事を冷静に考える俺。俺もきっと壊れている。

 桜木の姿を見て、少し胸に感じるモノがあった。


 壊れた俺達の末路は‥。俺達はこんな事をしている場合ではない。だというのに‥


 厄介事ばかりは降る雨が如く、舞い落ちる。


 ペンを動かす音。時計の秒針が刻む音。桜木の声。そんな音がまた静かに再開された。


 **********************


 時刻は夜。と言っても外の明るさは昼間と差して変わらない。そして、天候も然り。

 蔓実と波瀬は家に電話をすると言って今はいない。

 捜査活動が始まって三日が過ぎた。殺人犯がこの町に潜伏したという情報が流れて二週間が過ぎた。そろそろ勝負を付ける頃合。

 ゆえ、今日はギリギリまで外での行動をしたい。その為に俺も含めた三人は、桜木家に厄介することとなった。

 

 「波瀬もさっき言ってたが心配すんな。真実はまだ分かんねぇけど。お前の話を聞く限りではお前の友達はそんな理由なしに人を殺すような奴じゃない。」


 「‥う、うん。そうだね。」


 桜木の表情に笑顔は戻っていた。そうは言ったが緊張。不安が消えた訳ではない。それを消すには本人に会うしかない。

 所詮、俺達は他人な訳だし。言葉など所詮、言葉だ。どんな飾った言葉を言おうがなんだろうが気休めにしかならない。

 

 「それより。お前の父さん本当に今日、帰宅しねぇんだな?」


 「うん。そう聞いてるよ。だから、ゆうちゃん達、泊めてもいいって聞いたんだし‥。」


 「そうか。」


 桜木のお父さんとて、この町の現状は知っていよう。だが、仕事の出張となれば話は別なのだ。ほんと、社会人にはなりたくねぇな。てか、働きたくねぇ。

 まぁ、その為。今日は遅くまで外に出ていられるのだから。出張様様なのだが‥。


 「終わったわ。迷惑掛けないようにって。一応、桜木のお父さんいる体にしてるから。」


 まず始め、蔓実が携帯を手にここに戻ってきた。


 「あぁ。その方がいいだろ。大人がいない訳じゃねぇから嘘言わんでもいいとは思うが‥」


 蔓実の言葉に何となく言葉を返してしまう。実際、この家にいる大人は桜木の言い分では三人となっている。

 一人はこの家のメイドさん。一人はこの家の料理長。そしてもう一人はこの家に住みついているという謎の科学者。

 大人はいる訳だし安全と言えば安全だ。

 だが、やはり父親という存在はでかいのだろう。よう分からんが。

 いや、知っとけって話だと思うが。後々、お父さんになるかもしれないわけだからな‥。


 「こっちも終わったよ。」


 蔓実に続いて直ぐ、波瀬も戻ってきた。余計な言葉を付け加えないところは波瀬らしいといえば波瀬らしい。

 親に言われた言葉とか普通、言わないのかな?よく分からんが‥。


「じゃぁ、さっそく行くか。」


 時刻は夜の八時過ぎ。夜ご飯はさっき食べ終え、風呂にも一応浸かった。 後は寝るだけ。

 普段の桜木家ならそうだろう。


 「場所のおさらいはいい?」


 「ばっちし。あっ、でも少しコンビニとか寄らせて貰ってもいいかな?」


 「あ?何か買うもんでもあったか?」


 できれば余計な行動は避けたい。ましてやコンビニとなれば監視カメラに映る。そうなれば四人、外出。こんな時にお泊りパーティーしている事が学校に知れる可能性がある。


 「少しね‥。あればだけど。」


 「なんかよく分からんが必須品みたいだな。まぁ、確かに小腹的なものは空くかもしれんし。俺も何か買うかな?」


 アンパンと牛乳。その二つは捜査官の必須アイテムじゃないんすか?缶コーヒーでも可ですけど。

 とか、ふざけてる場合ではないな。


 「まぁ、そのくらいは大丈夫だと思うけど時間は掛けないでね。目当ての物、買ったら直ぐに出る。一応、まとまってじゃなくて一人。一人、店に入る。それでいい?」


 「あぁ。だな。その方がいい。」


 降っていた雨音はいつの間にか小さくなっており、天は俺達の味方をしてくれているのかもしれない。


 「‥今日でケリ付けんぞ。」


 震える桜木の体を優しく叩いてやる。そんなんで気持ちが軽くなるとは思っちゃいない。それでも普段、元気で明るい彼がここまでなっている事が放っておけなかった。


 「‥うん。」


 小さな声。弱々しく、元気で明るいなんてコレっぽっちも感じない。それでも返事を返してくれた事に少し胸を撫でおろす。


 「じゃぁ、行くわよ。」


 ガチャリ。波瀬の掛け声で扉が開けられると外の空気が肌にまとわりつく。

 外の。湿った。雨特有の匂い。外の空気。そんなモノをまだ廊下だというのに感じてしまう。

 

 四日目の捜査の夜。その夜は雨が小雨になっていた。

 小雨程度。それなら傘を差す必要はないと思い、久々に夜空を見た。だが、今日も今日とてその空に灯りはない。曇天の空模様は晴れることなくその空を覆い隠していた。

 曇天の暗い夜。雨こそ止んだがまだ空気は変わらない。

 それは隣にも言えたこと。

 だからこそどうにかしなくてはならない。

 そんな想いを胸に俺達は夜の町に。殺人犯が潜むという湿った町に飛び込む。


 ‥と、その時だ。


 「ん~?お兄ちゃん達?こんな時間にどこ行くわけ?」


 「へ?」


 振り向いた先。そこに立っていたのはいつしか目にした幼女。名前はさてはてなんと言ったか?


 「‥百合ちゃん?」


 隣に立つ桜木の驚いたようなそんな声で名前と、その存在が分かる。

 桜木百合。桜木の妹。

 そんな桜木百合ちゃんが眠そうな瞼をゴシゴシ擦り、そこには立っていたのだった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。