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俺の彼女は…  作者: イスカンダル
4章 夏の前の嵐
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捜査日和

 捜査活動一日目。俺達が向かった場所は昔、英智が住んでいたという家だった。

 だが、まぁ。当然なのだが。そこに目当ての人物はいなかった。

 ただ、何らかの情報は欲しいとは思った。次にどこに引っ越しただとか。いつ引っ越しただとか。ここを離れる前に何かあったか。否かとか。

 一応、アパートの管理者に話は伺ったものの得たものは何もなく。というよりも管理者自体がそもそも変わっていた。

 一日目はそうして分かるよう。くたびれ儲けの無駄足となった。


 二日・三日目。今度、向かった先は人目の無い場所を俺達でピックアップしてそこに向かった。

 路地裏だったり、店の後ろだったり、古くて誰も近寄りそうもない公園。神社など、様々な場所を廻りに巡った。

 だが、まぁ。結果は見ての通り。


 そして四日目。今夜なのだが‥


 「ちょっと。あんた達、何を考えてる訳?外にあまり出ない私でも知ってるわよ。この町に今、何がいるか?」


 「‥あぁ。うん。だから、百合ちゃんは家にいたほうが‥」


 「うるさいっ!新戸優一!また、お前がお兄ちゃんをたぶらかしたんだな!」


 「いやいや‥」


 手にアンパン。缶コーヒーが入ったコンビニ袋をガサガサ言わせて歩く俺は、小さな幼女から説教攻撃を受けていた。

 

 「‥百合ちゃん、だから違うんだって。コレは僕が言い出したことなんだって。ゆうちゃん達は何も悪くないんだって。むしろ、悪いのは僕の方なんだって。」


 「お兄ちゃんは黙ってて!」


 桜木がオドオド。俺達を庇ってくれるもお怒り、プンスカ百合ちゃんには点で届いちゃいない。


 「ねぇ?ねぇ?貴女、百合ちゃんって言うの?桜木の妹?すっごい!こんな天使みたいな娘、本当にいたんだ!頬っぺたとか触っていい?ねぇ?ねぇ?」


 玄関先で百合ちゃんを見た途端、目の色を変えて飛び付いた蔓実。正直、こんなテンション高い彼女は見た事がない。

 まさか、蔓実が生粋の妹萌えだったとは‥。少し気が合うかもしれない。

 ‥いや。ロリでもショタでもないから!

 妹って響きがね。その存在がね。もう俺には神々しく映り、耳に響くだけだから!


 ねっ!?


 「新戸君、犯罪だけは起こさないでよね?さすがにソレは私も助けられる気がしないから‥」


 「いや、いや。何を勘違いしているかは知らんが。違うから。しねぇから。」


 何でか波瀬に心を読まれていた。

 その為。正真正銘、正直な事を言っていた俺なのだが声に支障を生じさせた。つまり、裏返った声が出た。

 

 「本当にぃ‥?百合ちゃんだっけ?さっきから、桜木君の妹ばっか見てるけど?」


 「なっ‥。それは‥。…それはアレだ。やっぱ、こんな夜に脆弱な体をした幼女が出歩くのは危ないなと。心配してたからだ。断じて変な目線など送っちゃいない!」


本当なのにその台詞のせいで信憑性も疑わしいものになってしまった。

 ‥いや、本当だよ。‥百合ちゃんは可愛いけどそれは猫なんかを見て可愛いなぁ~。って思うのと同じ意味だから。いや、本当に。


 「で、お兄ちゃん達はどこに向かってるわけ?」


 俺達を引き止めるのは困難と考えたのだろう。百合ちゃんは溜息を大きく吐き出す。

 そういえば、まだ何も言っていなかった。玄関先で百合ちゃんと遭遇して逃げるように外に出た。そしたら、着いてきちゃっただけかんな。説明とか経緯とかまだ何も言ってねぇ。てか、言わなきゃ駄目?

 う~ん。どうしようか?

 

 「‥あぁ。うん。そのだね‥」


 夜の町に出ている。それだけでもオカンムリなのに殺人犯を捜しているだなんて言ったらどうなるか?

 答える声に詰まるのは当然。


 「何、どもってんのよ?気持ち悪い。」


 「きっ、気持ち悪いってお前な‥」


 俺の声もロクに聞かず、蔓実は百合ちゃんの方へ顔を向ける。何でかその顔は今まで見た事もないような笑顔。何かもう怖い程の。 


 「百合ちゃぁん。私達は今から悪い人に会って少しだけお話しするの。だから、百合ちゃんは少し危険かなぁって思うんだけど。」


 蔓実の言葉を聞いた百合ちゃん。その反応は驚嘆という表現の度を越えていた。

 数秒、固まり。その後、直ぐに荒れた早口攻撃が炸裂。


 「ちょっ‥ちょっと、馬鹿なの?その悪い人って殺人犯よね?何しに行くの?死にたいの?それなら私が頼んであげるから。地下の人にそういった薬できるかどうか頼んであげるから。」


 ガミガミ。グチグチ。百合ちゃんの攻撃は絶好調。体弱いのに舌はよく回るものだ。

 とは言え、何でその攻撃受けてんの俺だけなん?言ったの蔓実だよね?


 「百合ちゃん。」


 などと俺が理不尽で訳の分からない攻撃を受けていると芯のある声が突如そこに降りかかる。


 「僕達は何もふざけてそんな事をしている訳じゃないんだ。そうしないと駄目だからそうしてるんだよ。だから、ね?今日だけは見逃して。ねっ?」


 そこに映る桜木は完全にお兄ちゃんだった。妹に心配させない為の気遣い。それでいてその真剣さも見せる。よくできた兄の参照だな。


 「‥で、でも。私はお兄ちゃんが心配で‥」


 それでも百合ちゃんは言葉を渋る。これもまた妹の鏡といえよう。ここまで兄を想う妹などこの世にいるかどうか?

 まぁ、心配してるのはお兄ちゃんであって断じて俺なんかではない。その事はえぇまぁ、知ってますがね。


 「百合ちゃん。心配してくれるのは嬉しいけどやっぱ、危険な目には‥。その、百合ちゃんも体とか弱いわけだし‥」


 困惑の表情を浮かべる桜木。いつしか歩く足は止まっており、完全に時間ロスである。

 はぁ~。仕方ない。このご時世。兄弟愛は絶滅寸前。素晴らしいとは思う。けれど、時と場合は選んでもらいたい。


 「いいんじゃねぇの?百合ちゃんだって何も知らず、除け者にされるのは嫌だろ?」 

 

 「で、でも‥」


 「危険だと判断したら俺が背負って逃げるし、もしもの事があっても全力で護る。それは保証する。だから、連れて行ってもいいだろ?」


 こんな言葉で納得してくれるか?

 てか、またやってしまったか?キメすぎたか?

 言い終わって、あらぬ思考が頭をグルグル。困惑させる。それでも後悔はないし、今はコレがベストだとも思えた。


 「‥ゆうちゃんがそこまで言うなら‥」


 五分五分だったが予想は的中。何だかんだ長く共にしてきたんだ。桜木を動かすには何の苦もない。

 ただ、その言葉は桜木だけを意識して言った言葉であって。その他は考えていない。


 「またまた、あんたは‥。はぁ~。」


 ツッコム気さえ起きなかったのか?蔓実は呆れたような溜息を吐き出した。

 いや、いや。ちゃんとツッコンデよ。呆れないでよ。


 「そんな事より、早く。時間も勝負相手なんだから。」


 波瀬なんか最早、構ってくれさえしてくれない。何だろうか?この胸にポッカリ穴が空いたような感覚は‥?


 「‥えぇと。百合ちゃん?」


 一番、罵られると思っていたのに何でか百合ちゃんは黙って下を向いている。そんなに気分を悪くするような発言だっただろうか?

 申し訳ないなぁ。


 そう思って謝罪の言葉を口にしようとした瞬間。百合ちゃんの首が動き、ムスッ。とした顔がこちらに向く。

 何?何?やっぱ、怒ってる?


 「‥馬鹿。」


 「へ?」


 言われた言葉があまりに小さく、小雨程度の雨だがその音と混ざっていた。


 「馬鹿!何であんたなんかに護られなきゃいけないのよ!?忘れたの?私には殺人胡椒があるのよ?また掛けてあげようか?」


 「あっ、いや。それはほんと勘弁して下さい。」


 すっかり忘れていた。そう言えば百合ちゃんには最強の武器があった。確かに俺なんかより頼れる。


 「冗談よ。」


 なんだ冗談か。本当に安心しました。あの威力はくらった者にしか分からないからな。本当に地獄だかんな。

 とかなんとか胸を撫で下ろしているところ。ボソリ。小さな呟きがまたも降る雨と同化する。

 

 「‥でも、嬉しかった。ありがとう。」


 「へ?何?ごめん、聞こえなかったからもう一度?」


 「うるさい!何でもないわよ!そんなことより言ったんだからちゃんと護りなさいよね?新戸優一、お前は今夜限り私の奴隷だ!」


 「‥いや、奴隷って。まぁ、いいけどさ。」


 所詮は子供の言う事だ。奴隷だろうが何だろうが受け入れてやろう。なんだか心なしか百合ちゃんの表情も晴れ晴れしているし。何かいいことでもあったのかな?この短時間で?


 「‥ゆうちゃん。」


 「ん?なんだ?」


 前行く百合ちゃんを何とも父親面で見送っていると桜木に声を掛けられた。

 父親面すんなってか?はいはい。分かりましたよ。


 「‥本当に護ってね。約束だよ。」


 思惑はばっちし外れていました。むしろその逆。父親の役目を担わされた。

 

 「あぁ。そこは言っただろ?保証するって。今日のお前はお前の事だけを考えろ。」


 「‥う、うん。ありがとう。」


 乾いた笑みだったがその顔は紛れもなく笑顔である。だから、俺も釣られる。

 護ってやるよ。自分の命に変えても桜木百合も桜木雲雀も。後、二人も。


 溜まった水たまりが跳ねる音がいつも以上によく響く。

 携帯電話の液晶画面に映る時刻は九時に差し掛かっていた。今日の夜は静かな夜か。はたまた‥


 

 ***************


 今夜。俺達が向かう場所は大きく別けて三つだ。

 一つは古くからある小さな神社。神主の存在も分からないその神社は、社内に簡単に入る事ができる。施錠してある錠が錆びていてトンカチや石などで叩けば簡単に壊す事ができるからだ。

 だが、まぁ。そこは人。神様の家にそんな横暴なやり方で入ったらどうなるか?知ってはいても中々、実行できる者はいない。

 そして今夜もその錠は付いたままだった。


 そして二つ目。桜木の家から少し距離ある場所に佇む廃墟。噂ではその廃墟には悪霊が住み着いており、取り壊そうとした業者が次々と謎の病。不運な事故に巻き込まれたなど。

 だが、今夜はそこに霊の姿は見えず、逆に怖がる蔓実の姿(特に眼)にビビった程だ。

 そして、そこにも目当ての人物の姿は見えなかった。


 そして最後。三つ目。


 「ここにもいないか?」


 時刻は十一時を回っていた。電車やらを使えばもっと時間は短縮できた。だが、駅近くにいけば警察やら教師の姿が昼間程ではないもののよく目立つ。ゆえ、今までの場所。そして今いる場所。そこには全て己の足で向かっていた。


 「まぁ、そう簡単にいくとは思ってなかったけど‥。今日も駄目かぁ‥」


 口では軽そうに言っているものの、その言葉には心底がっかり。そんな心情が読み取れる。


 「‥やっぱ、無理なのかな?」


 波瀬に続いて桜木もボソリ。声を漏らした。波瀬と同じ、疲れきった。それでいて残念そうな。そんな声音だ。


 「お兄ちゃん‥」


 桜木の隣で心配そうな表情を見せる百合ちゃんは、今度は俺に視線を投げた。その視線は「お兄ちゃんが悲しんでるでしょ?何とかしなさいよ。」と、言われているようだ。


 とは言え、何とかできるのであれば俺とて何とかしたい。

 この場所は桜木が昔、よく遊んでいたという云わば思い出の公園。遊具の数は少ないものの広場が広く、サッカーやら鬼ごっこなどの遊びをするのにはもってこいの場所である。

 そして桜木もここでサッカーをよくしていたという。


 「‥まぁ、小学生時代の思い出なんて憶えてる奴の方が異常なのか‥。俺もよく憶えてないし‥。」


 気休め程度になればいいと吐いた台詞は何故か蔓実に拾われる。勿論、バッチシ。罵倒の言葉で。


 「それはあんたに記憶に残るような思い出がないからでしょ?友達とよく遊んだ場所なんて普通は憶えてるっての。」

 

 「うっ‥」


 ごもっともな意見で返答に困る。確かに小学時代にこれと言った出来事はなかった。

 ‥てか、ほんと。何やってたっけ? そもそも俺に小学生時代なんてものがあったのか?よくよく考えてみると何も思い出せない。


 「‥もう、遅いし。今夜のところは帰ろっか。」


 無理して明るい声を出そうとしている事は俺でも分かる。それでも桜木の心遣いに指摘できる筈もなく黙って首を動かすしかなかった。事実。いないものはいない。こんな所で待っていても何の価値もない。

 今は小雨だが本降りになるのもそろそろだろう。早く帰るのに文句はあるまい。


 「あっ!ちょっと、待って!」

 

 誰一人いない暗い公園に背を向けたその時、蔓実の焦った声が行動を止める。


 「んだ?言っとくがこんな時間に。しかもこんな天気に遊ぶとか有り得ないからな。」


 全く。コレだから子供は。公園で遊ぶ時間はもうとっくの昔に過ぎました。いい子は帰ろうね。

 はい。でんぐり返しでなんちゃらちゃら。


 「は?誰がそんな馬鹿なこと言う訳?そっちの方が有り得ないし。あんたじゃあるまいし。」


 軽く言った言葉だったのに、もの凄いトゲトゲしい返しで返ってきた。


 「じゃぁ、何だよ?」


 トゲトゲしく、強い口調ではあるが長い月日を共にしてきた関係。そんな言葉には慣れた。変わらぬ様子。口調でその真意を彼女に訊ねることに。


 「コレよ。最後、公園って事は事前の話し合いで決まってたでしょ?だから。」


 そう言ってコンビニ袋から取り出したのは一本の筒。そしてライター。


 「‥花火?」


 そう。蔓実が取り出したのは一本の打ち上げ花火だった。


 「何だかんだでもう直ぐ夏だかんね。あると思って、コンビニ寄ってよかったよ。誰かさんは食べ物にしか目がなかったみたいだけど?」


 クスリ。嫌な笑みを俺に見せる蔓実の顔が憎たらしいことこの上ない。


 「で?それを何に使う訳だ?第一、一本って‥。」


 花火するんだったらもっと沢山入ってるやつを購入して貰いたかった。

 いや、花火とかしたい訳じゃねぇんだけど。こんな天気ですし。まだ六月だし。町の雰囲気もよくないし。


 「何に使うって?そんなの打ち上げるに決まってるじゃない?」


 蔓実は馬鹿じゃないの?とでも言いたそうな顔を俺に見せる。だが、その言葉そっくりそのまま返してやりたい。

 こんな状況で花火を打ち上げる馬鹿がどこにいようか?

 そんなの馬鹿か、超花火好きしかいまい。


 そんな思考を言わずとも読み取ったのだろう。蔓実はゴミを見るような目線に変え、その真意を教えてくれた。


 「私だって現状は知ってるっての。だからこそやるんだし。」


 「は?だから意味が‥」


 「駅付近には人がいる。それはあんたも知ってる事でしょ?」


 「あ、あぁ。だけどそれが‥」


 言葉は最後まで言えず。


 「だから。その人等を誘き寄せようっての。こんな時間にこの状況。花火を打ち上げていたら不審に思うでしょ?」


 「あ、あぁ。まぁ。」


 力説する蔓実とは対照的に気の抜けた声しか出ない。だって、そうだ。目的は分かったにしろ。その真意がよく分からない。人を呼び寄せていったいどうしろと言うのだ?


 「はぁ~。電車よ。電車が使いたいの。この時間だし、急がないと終電にも間に合わない恐れがある。だから詳細は電車内で言うわ。もし、聞きたいのならだけど?」


 携帯で時間を確認。蔓実は口を早く動かす。そして、何やら携帯を弄っているご様子。


 「ここ。ココに英智がいる可能性がある。だから、電車を使うの。さすがにココまでは足ではいけないでしょ?」


 「あ、あぁ。」


 蔓実が出したソコは五つ程、離れた市。確かに今から向かったらソコに着くのは日が昇り。日が暮れる頃になりそう。

 

 「時間がないけど一つだけ教えるわ。」

 

 打ち上げ花火の導火線に火を灯しながら蔓実は口を開き、声を飛ばす。


「ここは地図に載ってない場所。通称―


 隠れ蓑(かくれみの)。


 隠れるにはもってこいの場所だと思わない?」


 次の瞬間。曇天の曇り空に大きな円を描く花火が上がった。

 ドンッ!という音も。その明るさも雨だからよく響く。暗いからよく輝く。


 「行くわよ!」


 蔓実の掛け声で俺達は後に続いた。彼女が言う。隠れ蓑。その場所に英智がいるかどうか?そして何で蔓実はそんな場所を知っていたのか?

 今はまだ何も分からない。

 硝煙と火薬の臭いが六月の梅雨時に臭い、漂った。

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