四話 六月三十六歳 《イタズラ小僧》
里を出てから数日が経った。
最初のうちは見慣れた森が続いていたが、進むにつれて景色は少しずつ変わっていった。
木々の種類が違う。
咲いている花も違う。
鳥の鳴き声も違う。
全てが新鮮で気もそぞろ。
僕は歩きながら何度も足を止めそうになっていた。
「ヴィリ、またか?」
何度目のことだろうか、前を歩くアルが呆れたように振り返る。
フラフラと観察に夢中になり過ぎている僕を心配して、アルはしばらく前から馬車の荷台から降りている。
「だって見てよ!」
僕は道端に咲く小さなとても濃いサファイアブルーに白のコントラストの花を指差した。
「この花も里にはなかった」
「花なんてどこでも同じだろ?」
「違うよ!」
僕はしゃがみ込み観察する。
花びらは五枚。
茎は細く、葉は細長い。
よく見ると根元に小さな実も付いていた。
「似た花は里にも咲いててその実は乾燥させると熱冷ましの薬になるんだ」
「へぇ」
「あと花はお茶にも使える」
「なんでそんなこと知ってるんだ?」
「薬草の勉強もしてたからね」
アルは不思議そうな顔をした。
僕からすると、知らない方が不思議だった。
植物は面白いし花は綺麗だ。
同じように見えて全部違う。
育つ場所も、咲く季節も、使い道も。
世界にはまだ知らない植物がたくさんあるのだろう。
そう思うだけでとても楽しかった。
「ほら、行くぞ!」
馬車の御者席からマルロさんが声をかける。
「!はい」
僕は慌てて立ち上がった。
旅は発見の連続だった。
森を抜ければ草原があり、小さな川を渡れば今度は岩場が続く。
遠くには所々が白い山々が見えた。
里では決して見ることのできない景色だった。
その度に僕は感動し、またアルに笑われた。
「本当に全部初めてなんだな」
「うん!」
「なんかヴィリを見てると面白いな」
そう言って笑うアルの顔も楽しそうだった。
その日の昼過ぎだった。
僕はふと足を止めた。
草むらの向こうに気配を感じた。
耳を澄ますと小さな足音、草を食む音。
視線を向けると、三十メートルほど先に一匹のホーンラビットがいた。
額から短い角が生えた兎だ。
里を少し外れた森の中でもたまに見かけることがある。
僕は静かに矢をつがえ、父から貰った弓『ラウフヴィンドル』を構えた。
静かに弓を引き、息を整え、風を読む。
そして放つ。
矢は少し弧を描くように真っ直ぐ飛んだ。
次の瞬間。
ホーンラビットは地にて縫い止められた。
「え、当たったのか?」
少し後ろで観戦していたアルが声を上げる。
「あの距離を一撃でか!?」
同じく僕らの行動を馬車を停めて見守っていたマルロさんが尋ねてくる。
「ぇ?、うん」
僕は予想外な反応をする二人を不思議に感じながら答えた。
父に教わった通りにやっただけだ。
マルロさんが感心したように頷く。
「見事な腕だな」
「そうですか?」
「そうですか?じゃないぞ、俺だったら外してる!」
アルが興奮気味に抗議する。
僕にとっては出来て当たり前。
里ではこのくらいは皆んな出来る。
(商人と言っていたし弓は使わないのか?)
確かに里にいるレプラコーンやブラウニーの人達は戦闘や狩りが苦手だ。
人間もそうなのだろうか?
そんなことを考えながら二人の反応に自分なりの答え合わせをした。
マルロさんが待ってくれている間に仕留めたホーンラビットを回収しに向かう。
肉は食料になるし毛皮や角も売れる。
旅の路銀にもなるだろう。
里を出る手助けをしてくれたマルロさんに後であげよう。
「おい、ヴィリ!俺も捕まえたぜ!」
不意に少し後ろでアルが何かを捕まえたらしい。
振り返って見てみるとアルの手に細長い蛇が握られていた。
「そんな子、どうするの?」
まだ小さく細い蛇の子を掴みイタズラ子のような笑を浮かべるアルに尋ねる。
「食べれないかなぁ?」
「食べれる食べれないで言えば食べられるけど...」
無邪気な質問に正直に答えたが回答がよどむ。
「どうかしたか?」
「ぅん、無理してそんな子食べるのはどうかなぁ...?」
アルに自分が感じていることを素直に話した。
「んーまぁ、ソイツ小さいしほぼ骨と皮だろうしな」
少し残念そうだが理解してくれたようだ。
渡された蛇の子どもをそのまま地面に下ろして逃してやる。
アルの顔を見ると少し拗ねたような顔になっていた。
「アル、手伝って欲しいんだけど、いい?」
するとアルが興味深そうに覗き込んできた。
「そのホーンラビット、どうするんだ?」
「解体したいんだけど良いかな?」
「俺もやっても良いのか?」
「いいよ。一緒にやってみよっか」
むしろ手伝ってもらえた方が助かる。
マルロさんに話すと少し早めに野営地に入ると言ってくれた。
川辺に移動し作業を始める。
僕はナイフを取り出した。
父に教わって何度も捌いた手順を思い出しながらいつも通りに作業する。
いつもと違うのはこれが路銀になるかもと思うと少しだけ慎重に進める。
「まずここから」
「へぇ」
「毛皮を傷付けないようにするんだ」
「難しそうだな」
「慣れれば平気だよ」
そう言いながら作業を続ける。
アルも見よう見まねで手伝ってくれた。
最初はぎこちなかったが、一生懸命なのが伝わってくる。
「うわっ」
「どうしたの?」
「滑った!」
アルの顔に僕はおもわず笑ってしまった。
「しっかり持たないとダメだよ」
「ヴィリは簡単そうにやってたのに!....かなり手強い!」
その言葉にマルロさんまで笑い出す。
僕はふっと今までのやり取りで何となく感じていた違和感の一つに気が付いた。
僕の見た目はアルと同じ子供だけど中身はマルロさんと同じ三十六歳。
人間からしたら僕は三十年も狩りも修行もして来たベテランなのだ。
僕からしてもアルはまだ十四年しか生きてない、出来ることはきっと少ないだろう。
見た目の年齢が同じだから気付かず行き違いが起こるかもしれない。
思っていたよりややこしいし面倒かも知れない感覚のズレだが気を付けないと。
そんな事を考えながら作業を進めた。
その後も穏やかな時間が続き、作業を終える頃には日が傾き、その夜はそのまま川沿いで野営することになった。
焚き火がぱちぱちと音を立てる。
塩を軽く揉み込み、道中で採った香草をホーンラビットの肉に巻きつけ、温めたフライパンに肉を乗せると香ばしい匂いが漂ってきた。
「うまそうだな」
アルが待ちきれない様子で覗き込む。
「もう少し待ってね」
焼き加減を見ながらアルに答える。
やがて食べ頃になったことを確認してマルロさんとアルに取り分ける。
「「「いただきます」」」
三人で肉にかぶりつく。
外はこんがり。
中は柔らかい。
野生みの強いクセを香草が和らげてくれている。
お肉の旨味を塩が引き出し美味しく出来てると思う。
「んー⁉︎うまい!」
真っ先に叫んだのはアルだった。
「本当に美味しいな」
マルロさんも感心している。
僕も味わい少しだけ嬉しくなった。
「良かった」
父と母に教わったことが二人の役に立っている。
それだけで誇らしかったし嬉しかった。
食事を終えた後も焚き火を囲んで話をした。
夜空には無数の星が輝いている。
森の中では見ることの出来ない星の数だ。
「俺さ」
夜空に見惚れていると不意にアルが話しかけてきた。
「絶対冒険者になるんだ!」
アルの語りに笑みが溢れる。
何度か里でも聞いた話、だけどアルは本気だ。
「そんなに好きなんだ?」
「当たり前だろ、その為に村で何年も剣術の稽古だってしてんだぜ!」
星空を反射したアルの瞳がきらきらと輝いている。
「伝説の冒険者って格好いいじゃん」
「そうかな」
「そうだよ!」
アルは身を乗り出した。
「世界を旅して、魔獣を倒して、困ってる人を助けてさ!」
楽しそうに語る。
「いつか俺も有名になるんだ」
そう夢を語るアルの姿は少しだけ眩しかった、アルには目指したい夢がある。
「ヴィリは?」
「え?」
「何したいか考えたか?」
急に話を振られて僕は考える。
「.....」
少し前までなら答えられなかっただろう。
だけど今は違う。
「僕は……」
焚き火の向こうを見据える。
揺れる炎。
その先に広がる世界。
「世界を見てみたい」
自然とそう言葉が出た。
「世界?」
「うん」
アルを見返して頷く。
「海も見たいし、王都も見たい」
そしてまた少し笑みが溢れた。
「知らない植物や花、景色だって見てみたい!」
アルは数秒黙ったが、それからすぐに吹き出した。
「ハハ!ヴィリらしいな!」
「そうかな?」
「そうだよ」
マルロさんも優しく笑っていた。
やがて会話は途切れ。
火は少しずつ小さくなっていく。
◇
アルは先に寝てしまった。
マルロさんも横になる。
旅の初めに夜間は交代で見張りをすると話し合った。
今は僕だけ起きていた。
見上げる夜空は里とは少し違って見えた。
木々は無く夜空が広い。
まだ知らない景色がどれほどあるのだろう。
いつも通りの星空でも今の僕にはキラキラと特別に輝いて見える。
この日もずっと胸が高鳴っていた。
◇
そして翌朝。
丘を越えた先でマルロさんが足を止めた。
「見えたぞ」
その言葉に顔を上げる。
丘を駆け上がり横に立つ。
そこには日に照らされた大地の中に、小さな風車が何個も回っていた。
麦畑が広がり、その中心にはたくさんの家々が見える。
「あれが私たちの村だ」
僕は言葉を失った。
丘を越えた先に見えた村は、僕の想像よりずっと大きかった。
小さく見えていた風車も近くに来るととても大きく風を受けてゆっくり回っている。
心地の良い薫風に撫でられ僅かに残った揺れる黄金色の麦畑。
何軒もの煙突から立ち上る炊煙。
道を歩く人々。
家の数だけでも僕の住む里の何倍あるのだろう。
初めて見る人間の村。
知らない世界。
知らない暮らし。
胸の高鳴りはもうずっと止まりそうにはなかった。
思わず足を止めて見入ってしまう。
「どうだ?」
隣でアルが様子を伺う様に、少し誇らしげに笑った。
「すごい……」
それしか言葉が出なかった。
里とは何もかも違う。
同じ世界なのに別の国へ来たような気分だった。
「ははっ、村でそんな反応してたら都市に行った時どうなるんだろうな!」
アルは先が思い遣られると言わんばかりの苦笑を浮かべて僕に問いかける。
確かにそうかもしれない。
でも仕方ない。
だって本当に初めてなのだから。
村へ近付くにつれて、人の声が聞こえてきた。
畑で働く人や荷車を押す人。
その周りを走り回る子供たち。
みんな忙しそうに動いている。
そんな中、一人の少年がこちらに気付いた。
「あ!アルだ、おーい!」
その声をきっかけに数人の子供たちが駆け寄ってくる。
先頭を走っていたのは、短い茶髪の元気そうな少年だった。
年齢はアルと同じくらいだろうか?
「お前、やっと帰ってきたのか!」
「ただいま、ロベル」
どうやら彼がロベルくんらしい。
アルの話には何度か出てきていた。
成人したら一緒に冒険者になるらしい。
アルの昔からの友達だ。
ロベルくんは笑いながらアルの肩を叩く。
「今回は特に長かったな!」
「あぁ!大冒険だったからな!何と、エルフに出会ったんだ!」
「え!エルフ⁉︎エルフにあったのか?!」
「あぁー、エルフの里に迷い込んで仲良くなれたんだ!」
「すげーな、おい、ほんとに大冒険だな!」
二人のやり取りを見ていると、本当に仲が良いのが分かった。
すると。
ロベルくんの視線がふと僕に向いた。
そして固まった。
ぴたりと動かなくなる。
「……?」
僕は首を傾げ、どこかおかしいだろうかと服装を確認する。
ロベルくんは瞬きを一度。
もう一度僕を見る。
また何度か瞬きをして
さらにもう一度見る。
何故か顔が少し赤くなった。
「アル」
「ん、なんだ?」
「その子……もしかして...エルフか?」
「あぁ!エルフの里で仲良くなってお試しで一緒に来たんだよ」
「へぇ……」
ロベルくんの声がさっきまでと違い妙にぎこちない。
何だろう、僕が怖いとか?エルフは何か恐れられる種族だったとか?他の子達より体もしっかりしてて頼り甲斐のある感じだけど、実は怖がりとか?
後ろにいた少年たちはニヤニヤし出している。
その様子を見たアルが何かに気付いたらしい。
口元が少しだけ悪戯っぽく笑ってる気がした。
僕はその表情に予感が的中したのかと思った。
「この子がその仲良くなった子で『リア』っていうんだ」
「リアか……」
不審に思っているとアルが僕を紹介してくれた。
しかし、何故か本名のヴィリアルではなく愛称で、
しかもあまり呼ばれないリアと呼んだ。
(なんだ?、何を考えてるんだ?)
ロベルくんは妙に真面目な顔で頷く。
そして僕の前まで来た。
「村は初めてなんだろ?」
「...うん」
「じゃあ俺が案内してやるよ!」
勢いよく案内を買って出てくれた。
少し近い。
というか妙に親切だ。
人の国ではエルフは特別なのか存在なのだろうか、それにしては他の子達は割と普通だ。
アルに会った時もはじめは僅かに警戒はされたがここまでに親切にされはしなかった。
「ありがとう?」
「任せろ!」
やけに張り切っている。
後ろでは他の少年たちが吹き出していた。
「おいロベル」
「うるさい!」
「まだ何も言ってねぇよ」
「何か言おうとしただろ!ちょっと黙ってろ」
何故アルに怒るのかがわからない。
僕だけが取り残された雰囲気に少し気まずい。
僕たちはマルロさんと別れてロベルくん達に連れられ街の探索に行く事になった。
その後もロベルくんは妙に親切だった。
荷物を持とうとしたり。
風車を案内したり。
畑を説明したり。
井戸の場所を教えたり。
まるで村一番の案内人になったような勢いである。
そしてアルは少し困ったように笑い眺めていた。
絶対に何か企んでいる。
そんな気がした。
しばらくして。
ついにその時が来た。
「あのさ、ロベル.....」
なぜだかアルが言いにくそうにロベルくんを呼ぶ。
「.....なんだ?」
「リアくんのことなんだけど」
「おう...」
ロベルくんの反応は少し遅くアルの話はあまり耳に届いていないようだった。
何故だろう。
「リアくんは『男』だからな」
「「え!」」
周りの子達はすぐにアルの発した内容に反応し驚きの声を上げた。
僕の隣に立つロベルくんの声が聞こえてこなかったので振り向くと聞いていなかったのかアルに顔を向けたまま止まっている。
「..........」
「..........」
沈黙。
風の音と葉擦れの音がよく聴こえる。
遠くからは村人の生活音まで聞こえてくる
「ん…ぇ…?」
ロベルくんが瞬きをする。
「男」
「え?」
「ヴィリは男だよ」
「ん...うん..え?」
話が進まない。
僕は今までのやり取りにようやく得心がいって苦笑しながら答えた。
「僕の本名はヴィリアル・ホルテンシアです、よろしく...」
ロベルくんが固まった。
本当に固まった。
今度は一切動かない。
浅く呼吸しているだけだ。
「……」
「……」
「……」
数秒後。
「すぅぅぅぅーーーう!」
ロベルは大きく息を吸い、ゆっくり空を見上げた。
「ふぅぅぅぅーーーうーーーーーーーーっ」
今度は深く息を吐き出しす。
ロベルくんはそのままふらつきながら近くの壁に倒れる様に手をつく。
「ロベルくん!?」
思わず声を上げて駆け寄る。
大丈夫だろうか。
「俺の……俺の初恋が……」
微かな呟きが僕だけは聞こえてしまった。
何となく聞こえなかった方が良かった気がする。
後ろでは少年たちが驚きと大爆笑している。
アルはバツの悪そうに顔の片方を手で覆っている。
が、笑いを堪えきれずに僅かに笑みが見えている。
「お前ら最低だな!」
ロベルくんはアル達を振り返り怒る。
怒って当然、ひどい冗談だ、僕も心の中でアルに少しばかり怒っていた。
「いや、俺らだって知らなかったし!」
「そうだよ!僕だって女の子だと思ってたよ」
「まぁ、ロベルは多分違うショックが....」
周りの子達までアルのせいで僕を女の子だと思ってたようだ。
「てか、リアって呼ぶから尚更分からんわ!」
ロベルくんが叫ぶ。
後でわかった話だが地域によってはヴィリは男性も女性もいるらしくロベルの感覚だとリアは女性の名前だと思ったらしくヴィルかアルだったら間違えなかったとのことだ。
「ふっ!」
「わざと騙したな!?」
「ごめん!ちょっと...面白そうだと思ったんだけどタイミングを逃した」
「お前なぁ!」
ロベルくんは本気で怒っていた。
僕もアルがひどいと思った。
でも何故か殴り合いにはなら無さそうで、どこか楽しそうでもあった。
ロベルくんはしばらく頭を抱えていたが、やがて大きく息を吐く。
そして姿勢を正して立ち上がった。
「……まぁいい」
「いいの⁉︎....許すの?」
「いぃや、よくないけど!」
「.....まぁ、俺もはじめから女の子と勘違いしてたし....」
即答だった。
そして次の瞬間、ロベルくんは笑って僕に向き直った。
「ヴィリ...で良いよな!ヴィリはアルのダチなんだろ!」
その言葉に少し驚く。
「アルの友達なら俺らの友達だ」
さっきまで落ち込んでいたのに。
切り替えが早い。
「よろしくな!」
そう言って手を差し出してくる。
僕も笑い返しその手を取る。
「よろしく!」
「あと、女の子と勘違いして悪かった...」
「それはまぁ...ちょっとショックだったけど気にしてないよ」
ロベルの謝罪も受けて握手を交わす。
なんだか少し複雑な心境だったけど嬉しかった。
ロベルくんはちょっと乱暴で。
でも面倒見は良くて。
とても良い人なんだと思う。
そしてアルも感心したように言った。
「お前、立ち直るの早いな!」
「うるさい!」
「ふっ、ごめん!でも正直見直したよ」
「それ褒めてるのか?」
(もしかしてアルっていじめっ子?)
そんな二人のやり取りを見ていたら自然と笑みがこぼれた。
◇
その日の夜。
村では収穫祭が開かれていた。
広場にはたくさんの人が集まっている。
長い机の上には料理が並び、音楽が鳴り響く。
焼いた肉。
野菜のスープ。
焼きたてのパン。
果実酒。
そして花で飾られた会場。
僕は何もかもが新鮮だった。
「今日はヴィリの歓迎会も兼ねてるぞ!」
ロベルくんが胸を張る。
「え!そうなの?」
「今決めた!」
ロベルくんは昼間の出来事が無かったかのように快活だった。
その様子に村の大人達も笑っている。
誰も怒らない。
温かい村だ。
夜が更けるまで僕たちは食べて、話して、笑った。
そして寝る時間になり、マルロさんの家へ戻り準備してくれていた客間のベッドに横になる。
疲れているはずなのに、眠たいはずなのに、いまだに興奮している。
天井を見つめながら今日一日を思い返す。
初めて見る村、初めて会う人たち。
アルとロベルくん達。
村の収穫祭。
女の子に間違われたのはちょっとだけ不服だった。
それでも全部が楽しかった。
里を出る時、少しだけ不安があったのに。
でも今は人間の村の中で安心している。
世界は思っていたよりずっと広くて。
思っていたよりずっと面白い。
顔を傾け窓の外を見る。
村の灯りがまだ少しだけ残って窓枠を照らしている。
その揺れ動く光を眺めながら、僕は今日を思い出し笑みが溢れる。
明日はどんな景色が見られるのだろう。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか意識は眠りの中へ沈んでいった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
次回はまた少しだけ実力を出すと思います。




