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十八話 三月三十七歳《拠点獲得?》

 王都に召喚されてから四日目

 僕らは揃ってエイルド商業都市にある『王国使節館』の転移門の台座に立っていた。


 「王都ってやっぱ凄かったな!」

 「ねぇ⁈公園で食べたのまた食べたいわ⁈」

 「え、材料さえ解ればエマが作るのですよ!」

 「........」

 フラミルさんとエフティルさんは二人仲良く台座から降り興奮混じりにエマにお菓子の再現を依頼、絡まれたエマは真面目にどんなお菓子だったのか二人と話している。

 僕はそんな二人の後ろ姿を恨めしそうに眺めていた。

 その横で静かにしているのはアル、ロベル、エレナ、そしてフォーさんだ。


 どうしてこの構図になったかと言うと−−−

 

 王都に到着してから僕とフォーさんは軟禁され授与式の練習。

 二日目も国王陛下から勲章と褒賞を授かりその後も軟禁され打ち合わせ。

 三日目も朝から軟禁され各種手続きの後に打ち合わせ。

 そして僕らは四日目の朝に王太子と宰相さんに見送られながら転移門でエイドル子爵と共にエイドル商業都市にとんぼ返り。

 そんな訳で僕とフォーさんはほとんど王太子と一緒で観光どころではなかった。

 そして、そんな僕らに悪いと、残りの四人はあまり観光をしていないらしい。

 「まぁ、なんだ、フラもエフも悪気は無い、許してやれ」

 「そうです!フラミルさんもエフティルさんも一日は我慢してたんです!」

 二人を恨めしそうに眺める僕の視線をフォーさんとエレナが遮る。

 「いやぁ、別に怒ってはいないですけど、ちょっと羨ましいなぁって…」

 「俺は我慢したぜ!」

 「今度はみんなで王都観光しようぜ!」

 落ち込む僕に両側から肩を組むアルとロベルが慰めてくれる。そんなメンバーに感謝をしつつ次回は絶対みんなで観光しようと心に決めた。


    ◇


 出発の時と同じ王国使節館の扉を開けるとさらに見慣れた景色が出迎える。

 都市を囲う城壁が遠くに見える。この都市をもってしても防げない冷たい風に身を震わせる。

 「んじゃ早速、貰ったって言うお屋敷でも見に行こうぜ!」

 「え⁈今から行くの?」

 僕の背中をトンっと叩きながら駆け出そうとするアルを僕は追いかけようとしていた。

 「ははは、いいですね!では皆さん気分転換に王より賜った屋敷を見に行きませんか?」

 「え?子爵さんも?歩いてですか?」

 僕らの後ろで和かな笑みを浮かべていた子爵さんに思わず聞き返してしまう。

 貴族なのに?と疑問符を浮かべた僕の顔を見た子爵さんは苦笑し「ええ、もちろんですよ」と僕の横まで歩いてくる。

 「私も時々自分の領地を見て回るため、市内を歩くのです。運動にもなりますからね」

 この人は前回の護衛依頼の時も思ったけどとても真面目で愛情のある人なんだなぁと改めて思った。

 「では、子供達も呼んでみんなで向かいましょう」

 微笑みを浮かべたまま子爵さんがそう告げると従者の一人が駆け出して行った。


     ◇


 その後子爵さんの馬車で子爵邸まで向かうとお屋敷の前で子どもたちが待っていた。

 「では、行きましょうか」

 騎士さんたちに案内されながら、皆で街を歩く。

 保護した当初と違う、子供達は元気におしゃべりしながら僕らの周りを歩く。

 「まってー!」

 「こら!走っちゃダメ!」

 元気よく駆け出す子、その子を追いかける屋敷の使用人さんはメイド服のまま子供を慌てて追い掛ける。

 「ねぇ!お兄ちゃん!」

 僕の袖をチョンと引く子を見ると白くて小さな花を摘んで僕へ差し出す。

 「これ、あげる!」

 「ありがとう」と受け取ると、子どもは照れ臭そうに笑って走っていく。

 エレナとエマさんの周りには、小さな子どもたちが集まり、アルとロベルは同い年くらいの子たちと楽しそうに話している。

 「ん?どうした⁉︎」

 「よし!ちゃんと掴まってろよ!」

 「わーい!」

 「きゃーあははは」

 フォーさんと子供のはしゃぎ声に振り返るといつの間にか子供二人を肩へ乗せ、さらに三人が手にぶら下がっていた。

 僕ら一行の大きな笑い声が街へ響き僕も釣られて笑顔が深まる。

 そんな賑やかな一団を、街の人たちも微笑ましそうに眺めていた。


 そうこうしている内に目的の建物が見えてきた。

 「ここですよ。私の屋敷からもそれほど離れておりません」

 いつの間にか小さな子どもと手を繋いでいた子爵さんが笑顔で到着を告げる。


 僕は目の前の建物を見上げた。

 「⁉︎……」

 (でっかーーー!いやデカ過ぎるくらいか?)

 語彙力が無くなった頭で感想を叫んでいた、言葉が出ない。

 大きい、とにかく大きい。

 屋敷は三階階建ての石造りに広い中庭を囲う高い柵、まるで小さなお城だ。

 僕の隣ではフォーさんが顎髭を撫で付けながら口元を満足そうに綻ばせていた。

 「コレはいい!俺でも余裕で暮らせそうだ!」

 その反応を見た子爵さんも満足そうに微笑んでいた。


 「本当にここを貰っちまっても良いのかよ!」

 「えぇ」

 フラミルさんは腕を組んだまま少し乱暴な言い方でエイルド子爵に尋ねていたがエイルド子爵はなおも相好を崩した顔で答えている。

 「本当にタダの商人?お貴族様の屋敷ではなく?」

 エフティルさんも疑問を口にし子爵さんはゆっくり頷く。

 「はい、お察しの通りここは元は男爵家の屋敷です。男爵は商会も経営しておりましたが跡継ぎがおらず家は断絶し、屋敷は王家の管理となっていたのです」

 「なるほど……」

 まさかの元貴族邸だったとは通りで豪華というより格式ある大きな屋敷だ。

 「中も見てみましょうか?」

 子爵さんに案内され、騎士さんが玄関扉を開けてくれる。

 ギィ……と重たい音と共に中へ入った。

 「わぁ……」

 まず目の前に飛び込んできたのは広い玄関と大階段。

 全員で屋敷を見て回る事になり長い廊下を歩くと応接室や食堂や使用人部屋まである。

 長く使われていなかったのか床には埃が積もり、家具には白い布が掛けられている。

 それでも建物自体は驚くほどしっかりしていて少し掃除をすれば十分住めそうだ。

 「すっげー!」

 「部屋いっぱい!」

 僕らが見た後の部屋を子どもたちは目を輝かせながら走り回っている。

 「ここで暮らすの?」

 隣に来ていた小さな女の子が僕の服を引っ張り尋ねてきたが僕の代わりに子爵さんがその子を優しく抱き上げる。

 「今すぐではないよ、綺麗になったらにしなさい。ピカピカにしないと住めませんからね」

 「うん!」

 子爵さんに抱き上げられた女の子は元気よく頷いた。

 その姿を見て、自然と笑みがこぼれる。


 「ふむ、掃除のしがいがありそうだ!」

 それは癖なのか?僕には無いからわからないがフォーさんはまた顎髭をしごき、腕を組みながら屋敷を見渡した。

 「二、三日じゃ終わらねぇぞ!」

 「二、三日で終わるわけないだろ」

 「これ、何週間掛かるんだ……」

 「何情けないこと言ってんだ!皆でやればすぐだろ!」

 「そうですね!」


 ロベルは掃除が苦手なのか鬱々としていたが意外にもアルは掃除が嫌いじゃないらしい。

 エレナも両手を前にガッツポーズで微笑みながら頷いた。


 僕はもう一度屋敷を見上げる。

 ここが僕たちの新しい拠点。


     ◇


 ――それから約二週間

 冬の陽が街を照らす、真っ白に御めかしした街が陽の光を受けてキラキラ冷光を放っている。

 空は澄み渡り、雲は一つない。

 昼時のエイルド商業都市、大通りは今日も多くの人で賑わいを見せ、露店からは温かな料理の香りが漂い、人々は厚手の外套へ身を包みながら足早に行き交う。

 吐く息は白く冷たい風が吹くたび、肩をすくめる人の姿も見える。

 屋敷中に響いたのは、剣戟でも魔法でもなく。

 ほうきで床を掃く音や雑巾で窓を磨く音、それと子どもたちの笑い声。


 「この部屋は任せたよ!あたし達は飯の手伝いに行く!」

 「そうね、フラ行きましょ!」

 「掃除は私達に任せるのですよ!」

 「エマ姉より僕たちの方が早く終わらせるよ!」

 「よし、この棚も運び出そう!」

 僕が声を掛けると、アルが腕まくりをしながら向かって来た。

 「おう!ロベル!そっち持て!」

 「了解!」

 三人で古びた棚を持ち上げ、慎重に廊下を進む、屋敷の中には、前の持ち主が残した家具がまだ数多く残っていた。

 使える物は磨いて再利用、壊れている物は解体して新しい資材として使う。

 少しずつ屋敷の中が広くなっていく。


 「ヴィリくん!この布はどうしましょう?」

 「洗えば使えそうだね、一応洗って纏めておこう」

 「はい!」

 大きな布を抱えて嬉しそうに返事をするエレナはカイと一緒に洗濯場へ向かった。

 小さな子どもたちも負けてはいない。

 「ぼく、ほうきする!」

 「わたし雑巾!」

 「えらいのですよ!」

 エマが優しく頭を撫でると、子どもたちは誇らしそうに胸を張った。

 そんな賑やかな声が屋敷の至る所で聞こえる。

 誰も嫌な顔をする人は居ない。


 屋敷の改修も少しずつ進んでいた。

 まず決めたのは、倉庫を屋敷の外へ新しく建てることだ。

 食料や農具、薪や建築資材まで。

 これから増えていく物を考えると、屋敷の中へ置いていては手狭になってしまう。

 「倉庫は外に作った方がいいですね」

 「その分、中を広く使えますし」

 王都で宰相さんと王太子とで相談した結果である。


 屋敷を観てから、さらに間取りの変更も追加した。

 元は男爵家だったこともあり、応接用の客室がいくつも並んでいた。


 「こんなに客は来ねぇだろ」

 フォーさんの一言で客室は五部屋だけ残すことに決め全員が納得した。

 いらない客室と元々あった倉庫は壁を取り払い、新しい部屋へ作り替えていく。

 「ここは孤児たちの部屋ですね」

 「こっちは女性用」

 「向こうは男の子」

 「それと働いてくださる方々の個室も必要ですね」

 紙へ簡単な間取りを書きながら皆で相談する。

 「子どもの部屋は多い方が良いかも、旅に行けばまた増えるかもしれねぇしな」

 「オレも賛成!皆自分の部屋があった方が嬉しいし!」

 「なに?」

 「別になんでもねぇよ、なあ⁈」

 「あぁ!ヴィリのことだ、準備しとかないとな!」

 薄く開かれた横目で僕を見て間取り図に書き加えるロベル、アルもそれに同意するが僕に向けられた疑う様な目はいただけない。


 すると、屋敷の外では別の賑わいが広がっていた。

 「おーい!」

 「その梁こっちだ!」

 「おい誰か手ェ貸せ!」

 大工さんたちが新しい倉庫を建て始め、木槌の音がカンッ!カンッ!と心地よく響き、窓からみんなでその様子を覗く。

 柱が立ち、梁が組まれて少しずつ建物の形になっていた。

 「おぉぉ……」

 思わず見入ってしまうと大工さんは人間だけではなかった。

 立派な髭を蓄えたドワーフが、大きな木材を器用に加工しその横では、小柄なレプラコーンが梯子の上を軽やかに走り回り、釘や工具を手際よく運んでいる。

 「さすがですね」

 「息がぴったりなのですよ!」

 大工さんは子爵さんが手配してくださった職人さん、皆仕事が早くて見ていて気持ちがいい。


 「ふんっ!」

 その中でも、一番目立っていたのはやはりフォーさんだ。

 「次はどれを運ぶ!」

 職人さんに混じって働くフォーさんは普通なら四、五人掛かりで運ぶような巨大な丸太を一人で軽々肩へ担ぎ上げる。

 「フォーさーん!それ重くないんですかー!?」

 「ん?これくらいどうという事はない!」

 追加でもう一本同じ大きさの丸太をさらに担ぐフォーさんに窓から見ている面子は揃って驚愕していた。

 「いやぁ……あの人一人で十分じゃねぇか」

 「荷馬車がいらねぇな」

 職人さんの苦笑混じりの称賛の声まで聞こえ、ドワーフのおじさんまで笑っていた。

 フォーさんは気にする様子もなく、次々と資材を運んでいくと子どもたちはそんな姿を見て大はしゃぎだ。

 「すごーいししょーすごーい!」

 「おっきーきー!」

 「ししょー力持ち!」

 「ハハハ!近くにくると危ないぞ!」

 一部の子どもたちはアルを真似してフォーさんのことを師匠と呼ぶ、子どもたちの歓声に、フォーさんはますます張り切っていた。


 屋敷の裏庭では、フラミルさんとエフティルさんも忙しく動いていた。

 「昼飯できたわよ!」

 「休憩だぞー!」


 大きな鍋から湯気が立ち上り温かなスープの香りが辺りへ広がり子どもたちが一斉に集まる。

 「やったー!」

 「ちゃんと手を洗うのですよ!」

 「はーい!」

 子供を追いかけるエマに元気な返事を返す子どもたち。

 「最初は暗い顔しかしてなかったのにな」

 ロベルが配膳の列にならび皿を持つ子の頭を優しく撫でるとエマとエレナが子供と一緒に列に並ぶ。

 「子どもは元気なのが一番いいのです!」

 「はい皆さん、本当に良い笑顔になりました」

 

     ◇


 昼食を終えると、再び作業が始まる。


 掃除に、改修に、建築に、洗濯。


 まだ完成には程遠い。

 壁も床も手を入れる場所は山ほどある。

 畑も手付かず、けれど不思議と不安や焦りはなかった。

 大工さんたちの威勢の良い声。

 資材を担いで運ぶフォーさん。

 遊びながら掃除を手伝う子どもたち。

 笑い合う仲間たち。

 ここはもう、ただの屋敷ではなくなり愛着も湧き始めていた。

 少しずつ僕たちの帰る場所が、形になり始めていた。

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