十五話 二月三十七歳《クラン結成》
フォーさんの提案から一夜明け彼らの滞在している宿へ来ていた。
巨人向けに造られた宿だけあって、とにかく大きい。建物は一階建てで天井は二階建ての建物をぶち抜いた様な高さがあり、柱も丸太をそのまま使ってあるのでとにかく太い。
椅子も机も巨人サイズなので、僕たちが座ると足が浮いてしまう。僕とアルとロベルはそれぞれの席付き、エレナはカイとエマの三人で座っている。
「ハハハ! 坊主たちには少しデカすぎたか!」
そんな僕らにフォーさんが呵々と笑う。
「ちょっと落ち着かないですね……」
「最初は皆そう言うわ」
エレナが苦笑するとエフティルさんが後ろから優しく声を掛けながら現れ、フォーさんの隣の席についた。
そんな他愛ない話をしているうちに、全員が席へ着く。
フォーさんは大きく腕を組むと、机を軽く叩いた。
「よし、それじゃあ今後の活動方針でも話し合ってみるか」
「はい」
その前にまずフォーさんたちについて尋ねてみた。
「フォーさんたちは、今までどんな活動をしていたんですか?」
フォーさんは「あぁ」と頷く。
「オレ達か?俺たちは流れの冒険者をやっていて各地を回って来た、獣人領も、ドワーフ領にもセイレーンが住む共和国にもな」
フォーさんのその言葉を聞いて僕がまだ見たこともない世界に胸が躍った。彼らはそれを実際に見て、歩いてきたのだ。
「ある程度世界を見て回ったからな、今は休暇の意味も兼ねて、このエイルドに腰を据えていた」
「何もなければ次は公国か、獣人領の迷宮にでも潜って鍛え直してからすぐにまた世界を回るつもりだった」
その隣ではフラミルさんとエフティルさんも無言のまま瞳をギラつかせて当然というように頷いている。
話し終えたフォーさんは僕たちへ視線を向けた。
「坊主たちはどうだ?どんな旅がしたい?」
「僕たちも基本は同じです。世界を見て回りたい」
色んな人に会って色んな景色を見て。
もっと沢山のことを知りたい。
アルと出会ってから芽生えた夢、それは今も変わらない。
それに――。
「困っている人がいたら助けたいです。もし僕に出来ることがあるなら、見捨てたくありません」
部屋の空気が少しだけ変わりフォーさんは静かに僕を見つめていた。先ほどまでの笑みはない真剣な表情だった。
「以前も言っていたな。孤児や困っている人は助けたい、と。」
「はい」
「では坊主、お前は孤児がいたら全員助けるのか?」
その問いに言葉が詰まる。
理想と現実。
頭の中で二つがぶつかる。
旅をしていけば、きっと困っている人は何人もいる。
全員を助けるなんて出来るのか、分からない。
だけど――。
「……はい。多分、僕は見捨てられません」
言ったあとで、自分でも少し苦笑した。
綺麗事だ。理想論だ。
そんなことは分かっているけどそれが僕の本音だった。
フォーさんはそう答えた僕に何も言わず、代わりに今度はエレナへ視線を向けた。
「エレナ、お前はどうだ?お前は助けられた側だ。恩人がそんな理想を語っているが、どう思う?」
突然話を振られたエレナは驚いたようにビクっと肩を震わせ姿勢を正した。
少しだけ俯き、ゆっくり顔を上げる。
「私は……」
小さく息を吸った。
「お手伝いします」
「恩返し、だけではなくて私も同じ境遇だから困っている子を見たら助けたいです」
その声は堂々としていて尋ねたフォーさんを真直ぐに見据えて答えていた。
隣ではアルとロベルも同時に頷く。
「俺もだ」
「当然だろ」
二人とも迷いがない。
その様子を見たフォーさんは一瞬だけ黙り込んだあと。
「……ふっ。」
「ふはははははは!」
突然腹を抱えて笑い始めた。
部屋中へ響く豪快な笑い声。
「いい!中々いいぞ小僧ども!気に入った!」
フォーさんは立ち上がる。
「フラ!」
「エフ!」
「オレたちはこいつらの方針に乗るぞ!異論あるか!」
フラミルさんは呆れたように肩をすくめ、そしてニヤリと笑う。
「問題ない、あたしはもうとっくにこいつら気に入ってるし」
「それにフォーも最初からそうするつもりだったじゃないか!」
「これは決意を一つにする儀式みたいなもんだ!」
「……。」
エフティルさんがため息をつく。
「格好つけたかっただけでしょ」
「ふん、細かいことは気にするな!」
フォーさんは爽やかな笑みを浮かべてハハハと笑い出す。
僕も思わず笑ってしまった。
だけど一つだけ気になっていたことを口にする。
「本当にいいんですか?僕たちと行動すると旅も思うようには出来なくなると思います」
「そんなことは坊主も同じだろう?オレたちは好きでお前たちを選ぶ、それだけだ!」
フォーさんはそのんなことと一蹴しまたハハハ!と笑い飛ばした。
◇
その後も話し合いは続き依頼がない日はフォーさんがアルとロベルへ剣術を教えること。
フラミルさんは実戦での身のこなしを。
エフティルさんは索敵や連携を。
僕は魔法や知識を担当することになった。
それぞれ役割が決まり、少しずつ未来が形になっていく。
ひと段落した頃にアルが勢いよく手を挙げた。
「師匠!一つ言い忘れてました!」
「なんだ?アル坊」
昨日だけでフォーさんとアルの二人はすっかり師匠と弟子のような関係になっていた。
アルは胸を張って言った。
「ヴィリは坊主じゃありません!」
「ヴィリは今年で三十八歳になるのですが師匠はご存知でしたか?」
(あっ)
アルの発言を聞いて僕も今になって思い出した。
そういえば年齢の話を一度もしていない。
『坊主』や『ガキンチョ』と呼ばれても皆大人びていたから、特に違和感もなかったのだ。
僕が心の中で問答している間も部屋が静まり返る。
「…………」
次の瞬間。
「「「なにぃぃぃぃーーーっ!?」」」
宿中に響くほどの叫び声が上がった。
後で聞けば。
フォーさんは今年三十九歳。
フラミルさんとエフティルさんは今年で二十歳。
僕を十六、七歳くらいだと思っていたらしい。
「ハハはははは!オマエさん俺と一つしか違わねぇのか!」
フォーさんは一対の両腕でお腹を抱えてもう一対の両手で自分の太腿を叩いて今まで見てきた中で一番の大笑いをしていた。
「ガキンチョだなんて言ってすまなかったね」
フラミルは素直に謝罪し。
「納得できません!」
エフティルが珍しく憤慨した。
気付けば今までのアルやロベルとの出会いなんかを面白おかしくアルが語り出し部屋は笑い声に包まれた。
そして、この時の僕たちはまだ知らなかった。
フォーさんたちとの話の中で、一番心を動かされていたのがフラミルさんだったことを。
翌朝、彼女が笑顔で宿へ訪れることを




